第240話 機械仕掛けの蒼き鎧武者
◇
氷原を舞台とした戦場に舞い降りた転生者部隊エインフェリア。
彼等は残り十二機の<量産型ナーガ>を殲滅するべく動き出した。
エインフェリアのリーダーであるジンは新たなる愛機<スサノオ>を駆り、単独で敵部隊の一角に突撃する。
その他のメンバーは<フェンリル>と<ドゥルガー>、二機の<ハヌマーン>という形でそれぞれコンビを組み、別方向から<量産型ナーガ>の群れへと向かって行った。
「魂の抜けた金属の塊など恐るるに足らず! 一意専心ッ!!」
並外れた気迫と雄叫びを上げながら、ジンは最も近くにいる<量産型ナーガ>へと斬り込む。
機械仕掛けの蒼い鎧武者――<スサノオ>は背部に搭載された二基のエーテルフラッグの浮遊効果で重装甲の見た目からは予想もつかない機動性を発揮し、あっという間に間合いに入る。
自機の接近を容易く許した敵に
敵機の頑強な装甲はたった一撃でぐしゃりと歪み、圧倒的なパワーで吹き飛ばされ冷たい氷原を転がって行った。
全長約二十メートルの両刃の大剣の斬撃は、〝斬る〟というよりも最早〝叩き潰す〟という表現の方が近い。
斬れ味こそ竜機兵のドラゴニックウェポンに劣りはするが、その巨大な得物から繰り出される一撃は前述のデメリットを打ち消し余りある威力を誇る。
その尋常ではない破壊力は量産機とはいえ
「なるほど……今の感触で大体理解した。やはり操者が乗っていない熾天機兵は脅威ではないな。――ならばっ、後はただ叩き潰すのみっ!!」
ジンがエーテルフラッグの出力を上げると<スサノオ>を包む力場がさらに強力になる。
力場内の浮力が増し、蒼き重装甲の装機兵は猛スピードで氷原を駆け抜け、今しがた斬り飛ばした敵機に止めを刺しに向かった。
<スサノオ>の斬撃のダメージにより動きが鈍くなっていた<量産型ナーガ>は、獰猛な蒼き追撃者の再攻撃に間に合わず、
「これで二機目、残り十一機か。……む?」
ジンが次の標的に向かおうとすると数機の<量産型ナーガ>が高度を上げて<スサノオ>に向かって行く。
並の装機兵ではエーテルスラスターを使用した跳躍でも届かない高さだ。安全域を確保した量産機は空から下方にいる鎧武者にエレメンタルキャノンを連射した。
その一方的な攻撃に対しジンは回避とムラクモの刀身による防御で凌ぐ。
的を外れたエーテルの砲撃は氷の大地を削り、砕けた氷が粒子のように輝いて<スサノオ>の装甲に反射する。
<スサノオ>には遠距離兵装は搭載されていない。それどころか専用武器である斬竜刀ムラクモ以外に武装はないのだ。
それにもかかわらず反撃不可能な攻撃に晒されるジンの顔には余裕があった。
「それで<スサノオ>から逃れたつもりか? ――笑止ッ!!」
<スサノオ>の背部に装備されているエーテルフラッグの基部が稼働し、垂直に向いていた旗が水平方向にセットされる。
布のようにはためいていた部分はエーテルエネルギーの塊となり、その外見は光の翼のように変化していた。
「飛ぶぞ、<スサノオ>!!」
氷の大地を蹴るとエーテル光の翼を羽ばたかせ<スサノオ>は飛翔した。
その飛行は鳥のような優雅なものではなく、戦闘機のような大気を突き破る荒々しさを持っていた。
地面を離れた蒼き鎧武者に対して<量産型ナーガ>は高度を上げて距離を稼ぎつつ、エレメンタルキャノンや搭載されているサブアームを射出した。
ジンは敵の弾幕に対し回避行動を取ることなく、エレメンタルキャノンに当たりサブアームはムラクモで斬り払い、速度を落とすことなく接近していく。
「その程度の攻撃では我が愛機の装甲を貫くことはできん!」
<スサノオ>は敵機を追い抜くと転進し太陽を背にしてムラクモを大きく振りかぶる。刀身にエーテルエネルギーが集中し光り輝き始める。
「上を取ったぞ。今度はこちらから行かせてもらう! ――弐ノ太刀
落下速度を加えての全力の縦一文字斬りを下方にいる敵機に叩き込み、鈍い金属音を上げながらその機体は真っ二つに裂かれて爆発した。
爆炎の中から姿を現した<スサノオ>は、近くに浮遊している<量産型ナーガ>に飛び込みムラクモの刺突攻撃によって敵の胴体を貫通するのであった。
「――参ノ太刀
ジンは敵機の頭を掴むと、そのままムラクモを横薙ぎにして相手の胴体を斬り裂いた。
把持していた<量産型ナーガ>の頭部から手を離すと、空に放り投げられたその機体は損傷を受けた胴体から火を噴き空中で爆発炎上した。
ジンが合計四機の<量産型ナーガ>を破壊すると、今度は二機の同型機が同時に接近してくる。
両機とも槍型の武器であるエーテルサリッサを装備しており接近戦を挑もうとしているが見て取れる。
受けて立とうとジンがムラクモを構えると、接近してくる二機の周囲に高密度のエーテル障壁が発生した。
強靭なバリアを展開した二機はムラクモの斬撃を弾き、<スサノオ>の周囲を旋回し始める。その様子は獲物を狙う肉食獣の様であった。
「あれは確かボーガバティーとかいう術式兵装だったな。中々強力なバリアだが……!」
ジンは機体の出力を最大にまで上げると前傾姿勢を取りムラクモを振りかぶる。突撃体勢を整えると、翼のエーテル光の輝きと大きさが増した。
コックピットでは球状の操縦桿を握るジンの手に力が入り、闘志の
「ゆくぞ、<スサノオ>! いざ尋常に勝負ッ!!」
エーテル光の翼を全開にして一気に最大速度に達した<スサノオ>は、あっという間に自分を襲おうとしていた敵機の前に躍り出る。
ジンはありったけの力を込め叫ぶのであった。
「うおおおおおおおおおおおおおお! これを受けて見ろ、肆の太刀
敵に突撃する<スサノオ>のフェイスマスクが開放されると、その内側から人間のようなフェイス部分が表出、開口し雄叫びを上げた。
操者と機体の雄叫びが共鳴するように周囲に轟く中、
「これが我が新たな愛機<スサノオ>の力だ! 『クロスオーバー』よ、貴様等のような悪の組織は俺が切り捨てる。覚悟するんだな!!」
熾天機兵二機分の爆発を背に<スサノオ>はムラクモを肩に担ぎ、解放していたフェイスマスクが閉じられる。
そして、ジンの宣戦布告が周囲に木霊するのであった。
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