第75話 圧倒のドラグーンモード

 スルード隊の<シュラ>は、そのほとんどが破壊された。

 ここまで来れば勝利は目前だが、それを実現するために最後の仕上げが残っている。

 スルード隊の隊長であるアグニ・スルード――ヤツを叩き潰すという仕事があるのだ。

 どうやらヤツは俺をターゲットとして選んだらしい。罵詈雑言の言葉をまくしたてながら、<サイフィード>を目指して真っすぐにやって来る。

 クリスティーナ操る<アクアヴェイル>がエーテルアローを連続で放つが、アグニ専用<シュラ>は左腕の兵器モジュールで発生させた炎の盾で無力化した。


「皆はアグニ以外の<シュラ>の対応を頼む。ヤツは俺が一対一でぶっ倒す」


 俺の申し出にクリスティーナは少し納得がいかない様子だ。


『よろしいのですか? 今なら複数でアグニ・スルードを叩けます。わざわざ危険を冒して一機で戦う必要はないと思いますが』


「すまない。でもあいつだけはこの手でぶっ潰さなければ俺の気がおさまらないんだ」


 モニター越しに真剣な表情で俺を見つめる金髪碧眼のお姫様だったが、最後は折れてくれた。


『分かりましたわ。ハルトさんがそこまで言うのならお任せ致します。ですが、そこにはティリアリアも一緒に居ることをお忘れなく。彼女に怪我をさせたら怒りますわよ』

 

「クリス……」


 不安そうな表情でティリアリアを見るクリスティーナ。何やかんやで従妹のことが心配なのだろう。


「心配すんな。一気にケリをつける! ティア、すぐに終わるからもうちょっと辛抱してくれ」


「ええ、分かったわ。あの男にはフレイアたちも酷い目に遭わされた。――ハルト、全力でやっちゃって!」


「おおさ!」


 他の皆も俺とアグニが一対一の構図になるように位置取りをして、残りの敵の相手をしてくれている。

 そして、俺は残った全ての力をこの男――アグニ・スルードにぶつけると決めた。

 <サイフィード>目がけて赤い<シュラ>がエーテルファルシオンを袈裟掛けに振り下ろす。

 その斬撃をエーテルカリバーンで受け流し、バックステップで一旦距離を取った。


『さっき生意気なことを言っていたね。一気にケリをつける? すぐに終わらせる? 随分と僕をバカにしてくれるじゃないか! そういう強い言葉を使うヤツほど実際は大したことないんだよねぇ。それを証明してあげるよ!!』


 モニター越しに俺を見るアグニの目はぎらついていた。おまけに額に血管が浮き出ており、笑いながら怒っているような表情をしている。

 俺の態度に相当頭にきているようだ。

 だが、俺も思考はある程度冷静になっているものの、内心は怒りではらわたが煮えくり返っている状況だ。

 これがフレイアの言う『感情をコントロールする』という極地なのかはよく分からないが、身体の内側で爆発しそうなエネルギーを感情に振り回されないようにしつつ機体の動力に送る。

 <サイフィード>の出力が上昇していき、モニターに『ドラグーンモード』の表示が出た。

 さあ、最後の準備が整った。


「行くぞ、<サイフィード>! 全術式解凍! ドラグーンモード起動!!」


 <サイフィード>の両前腕の装甲が開き内部のアークエナジスタルが露出、機体に搭載されている全てのエナジスタルが共鳴し激しく光りながら機体の出力が上がっていく。

 頭部、両肩、両前腕、両脚部にストレージから追加装甲が施され防御力が向上する。

 背部のメインエーテルスラスターは飛竜形態時の翼の形をしたエーテルの光を放つ翼を形成した。

 <サイフィード>の火力、装甲、運動性能が向上し、エーテル光の翼を羽ばたかせ機体が浮き上がる。


 一瞬で機体が変化し空中に浮く<サイフィード>を見て、アグニは数秒ほど呆気に取られていたが、すぐに怒り心頭の状態に戻った。


『何なんだよ、それは! たかが宙に浮いた程度で勝ったつもりか!? ええ!?』


 どうやら見下ろされているのが気に食わないらしい。そんな小さい事で一々キレるとは本当に器の小さいヤツだ。

 その一方で、<サイフィード>の強化形態の姿を初めて見る皆も驚きの表情でこっちを見ていた。

 そう言えば、この姿を知っているのは『第四ドグマ』撤退戦で戦ったアインと現場にいた飛空要塞の敵連中だけだったな。

 ドラグーンモードについては既に皆に説明はしていたが、実際に目の当たりにしてこのパワーアップに驚いているようだ。


 特にマドック爺さんが嬉しそうな顔で何度も頷いている。

 この形態を施したのはこの爺さん自身なのだが、実際に扱えるようになるとは思わなかったというのが本音だったらしい。

 その幻の形態を見ながら爺さんが両手を合わせて嬉し涙を流しながら拝み始めた。

 高齢のご年配の方のそんな姿に複雑な思いを残しつつ、俺は意識を眼下にいる赤い機体に集中させた。


「よく聞けよ、アグニ・スルード。俺が望むのはただ一つ、お前を完膚なきまでに叩き潰す! それだけだ! 覚悟しろっ!!」


『生意気なんだよっ!! お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』


 アグニが叫びながら機体をこっちに目がけて飛翔させた。

 左腕に炎で構成したむちを形成し、<サイフィード>目がけて振ってくる。

 複雑な軌道で迫る炎の鞭をエーテルカリバーンで斬り飛ばした。その斬撃の余波で敵の術式兵装が消滅する。


『なっ、バカな!?』


「自慢の一撃だったのか? 今のと似た武器なら俺も使っていただろうが! どういう動きで攻撃してくるのかお見通しなんだよ! ちょっと言わせてもらえば、俺ならもっとフェイントを織り交ぜるけどなっ!」


 アグニが悔しさで一層表情を歪ませる。もう顔芸の域だ。だが、今の俺はそんな事に構ってはいられない。

 こいつを一刻も早く叩きのめしたくて仕方がないのだ。

 上昇してくるアグニ専用<シュラ>に向かって、急降下しながらエーテルカリバーンで斬りつけた。

 敵は剣で受け止めたが、落下速度や重力の影響その他諸々のパワーで赤い機体を一気に地上まで押し込む。

 

「その機体じゃ空中戦は不利だろ? 地上で決着をつけてやるよ!」


『ぐあああああああああああああああああ!!』


 アグニ機はエーテルスラスターを全開にして減速を試みるが、推力で圧倒している<サイフィード>の勢いを止めることは出来ず地面に叩きつけた。

 落下の衝撃で火花を散らしながら赤い<シュラ>が地面を転がっていく。

 俺は機体を地上すれすれで低空飛行させながら、追撃に入った。

 ヤツのペースに合わせて戦っていたら日が暮れるし、ドラグーンモードは強力だが維持できるのは発動から五分という制約があるのだ。

 ここから連撃で瞬殺してやる。

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