第73話 受け継がれる意思

 <ヴァンフレア>のコックピットモニターに地面に横たわる二体の装機兵の姿が映し出される。


「<ウインディア>……上手く使ってやれなくてすまなかった。そして、私を守ってくれてありがとう」


 フレイアが中破した<ウインディア>に謝罪と感謝の意を向けると、突然<ヴァンフレア>が<ウインディア>の方に向かって移動を開始した。


「また勝手に動き出したのか!? いったい何がどうなって――?」


 横たわる機体のすぐ側まで来ると、<ヴァンフレア>は手を<ウインディア>の肩にあるエナジスタルに置いた。

 その直後、ボロボロの<ウインディア>の身体が燃え始め、間もなく原型を留めないほどになり完全な炎の塊へとなり果てた。


「<ヴァンフレア>! いったいどういうつもりだ!? どうして<ウインディア>にこんな事をする!?」


 突然の<ヴァンフレア>の行動にフレイアが困惑していると、炎となった<ウインディア>が<ヴァンフレア>のドラグエナジスタルに吸収されていった。

 コックピットモニターに映る<ヴァンフレア>のステータスが急激に伸びていくのがフレイアの目に入る。


「これは、まさか<ウインディア>を吸収しているのか?」


 炎が全て<ヴァンフレア>に吸収され、変動し続けていた機体ステータスが安定する。


【ヴァンフレア】

HP4800 EP450 火力4500 装甲2700 運動性能235

属性:炎

武装:エーテルソード(二刀流)、エーテルランス、ニースラッシュ

術式兵装:エレメンタルキャノン(炎)、エクスプロードスマッシュ、フレイムクロス、ケツァルコアトル


 フレイアの胸に<ヴァンフレア>の思いが伝わってくる。


「そうか――<ウインディア>を取り込むことで、まだ一緒に戦えると。そう言いたいんだな、<ヴァンフレア>。ありがとう」


 フレイアは熱くたぎる思いを胸に交戦中の仲間たちのもとへ<ヴァンフレア>を走らせた。

 



 俺は<サイフィード>のコックピットで驚きを隠せないでいた。

 <ヴァンフレア>にゲームの主人公のフレイではなく、その妹であるフレイアが搭乗したからだ。

 さらに、フレイアを乗せた<ヴァンフレア>は破壊された<ウインディア>を吸収して、ステータスを上昇させるということまでやってのけた。

 その際のステータス変化がこっちのモニターにも表示されたのだが、見た感じだと<ウインディア>の強化段階を<ヴァンフレア>が引き継いだようだ。

 これは俺が前世でやっていたロボット物のシミュレーションRPGだと新型機登場時に見られた現象だ。

 旧型機から新型機に強化段階が引き継がれるパターンと引き継がれないパターンがあるのだが、新型機が旧型機のパーツを流用している場合は強化段階が引き継がれる場合が多い。

 逆にこの二機が全く別の機体かつ新型機合流後も旧型機が部隊に残る場合は引き継がれなかったりする。


 今回<ヴァンフレア>と<ウインディア>は別の機体なので本来なら強化段階が引き継がれる要素はないのだが、まさかあんなやり方で引き継ぎをするとは思わなかった。

 とにかく、今しがた発生した出来事は原作ゲームでは起きなかったものであり、今まで転生世界で遭遇した原作と異なる展開の中で最も驚く内容だった。

 俺が戸惑っていると<ヴァンフレア>とのエーテル通信の回線が開き、フレイアの姿が映った。


『皆無事のようだな。今から私も戦闘に復帰する。ハルト、指示を頼む!』


 フレイアはやる気満々だ。彼女の赤い瞳がまるで炎が燃えているように見える。


 <ヴァンフレア>がエレメンタルキャノンをスルード隊に連射し敵の攻撃の手が緩む。

 そこに<グランディーネ>と<アクアヴェイル>の遠距離攻撃が加わった。

 ちなみに人型の<サイフィード>には遠距離武装はないので、現在突っ立っている状況だ。皆すまん。


「フレイア、乗ったばかりの機体だがやれるのか? いくら竜機兵でも、いきなりあの連中を相手にするのはかなり骨が折れるぞ」


 俺の心配を他所に、フレイアはふっと笑って見せる。なんかカッコよく見える。


『問題ない。この機体の能力はさっき<ヴァンフレア>自身が教えてくれた。やってみるさ!』


「分かった。それなら頼りにさせてもらうぞ。――皆、作戦を伝える。左右に展開した敵部隊には俺とフレイアがそれぞれ当たっていく。向かって右翼は俺が、左翼はフレイアが担当する。パメラはフレイアのサポート、クリスは赤い<シュラ>に牽制をしてヤツの足止めをしてくれ! 以上だ!」


『『『了解!』』』


 俺は先程考えた作戦を皆に伝えた。攻撃力の高い<ヴァンフレア>が合流したことで作戦の成功率が一気に上がった。

 

「フレイア、この作戦では<サイフィード>と<ヴァンフレア>がどれだけ素早く敵を倒せるかが重要になってくる。皆、頼むぞ――それでは作戦開始!!」


 俺の言葉を皮切りにチームの全機が動き出す。俺はエーテルカリバーンのチート攻撃力で<シュラ>をぶった斬る。

 左翼側では<ヴァンフレア>が二本のエーテルソードを両肩のアークエナジスタルから引き抜き敵に斬りかかっていく姿が見えた。

 一気に敵との間合いを詰め、敵の左腕を斬り飛ばすと同時にもう片方の剣で袈裟掛けに胴体を斬り裂いた。

 その後も<ヴァンフレア>は華麗な二刀流で敵をばったばったと斬り倒していった。その鬼気迫る戦いぶりに敵は驚いており、やや逃げ腰な様子が見られる。

 特に、一度フレイアと戦ったアグニは彼女の本当の実力に驚いているようだ。

 そりゃそうだ。フレイアの本来の戦闘スタイルは二刀流なのだから。今まで彼女が装機兵で二刀流を使わなかったのには理由がある。

 機体が彼女の動きについてこれなかったのだ。

 『アルヴィス王国』の装機兵の中で性能が高い<ウインディア>でさえもフレイアの二刀流の動きには対応できず、彼女の操縦と機体動作の間にタイムラグが生じていた。

 そのため装機兵搭乗時は二刀流を封印して戦ってきたのだ。

 <ヴァンフレア>はそんな彼女の動きに完全に対応している。そんな炎の竜機兵の高性能に加えてフレイアの本当の力が発揮されるのだ。

 ゲームでは実現されなかった最強の剣姫と最強の竜機兵のコンビの実現に俺の心は踊っていた。

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