第70話 感情と理性と黄金の剣
「今救護班を手配した。すぐに迎えが来るからもう少しの辛抱だ。あとの戦いは俺たちに任せろ」
フレイとフレイアに言うと、俺は再度赤い<シュラ>を睨み付ける。
二人が無事だと分かって一度はホッとしたが、目の前にいる帝国の連中が仲間たちを傷つけたことには変わりはない。
今までの戦いの中で何度も怒りの感情を覚えることはあった。
だが、今回感じるそれはこれまでの比じゃない。今にも爆発して後先構わず敵に突っ込んで行きたくなる。
しかし、今までの経験上怒りに身を任せた戦い方をして
感情を爆発させれば瞬間的なパワーは上がるが、その状態が長時間続くわけじゃない。
むしろパワー配分を無視した戦い方ではすぐにガス欠になるし隙も多くなる。
以前そんな戦い方をして何度もピンチになり、その都度フレイアに助けてもらって怒られた。
そして彼女に教えてもらったのが、「荒ぶる感情を理性の支配下に置き戦う」というものだった。
つまりは感情を爆発させる一方で頭の中は冷静になれ、ということらしい。
そんなこと出来るのかとその時は思っていたが、今なら分かる。
俺は今、竜機兵チームのリーダーであり責任のある立場だ。俺が感情に任せて暴走すればそれはチーム全体の危機に繋がる。
それにいつも俺を止めてくれたフレイアは今、兄であるフレイをコックピットから救出しようとしているところだ。
今、俺が冷静に事に当たらなければいけないのだ。
――やれるはずだ。
なぜなら俺は前世も含めれば精神年齢は四十を超える。もういい大人だ。
前世で務めていた会社では課長が四十代前半だった。彼はいつも冷静で新人の俺から見て、とても頼りになる上司だった。
今の俺は精神年齢だけで言えば課長と同じだ。それならば、俺もいい加減大人にならなければならない。
土足でここに入り込んで好き勝手暴れまくったこいつらを徹底的にぶっ潰してやりたい気持ちをそのままに、それを達成するにはどうすればいいのかを冷静に考える。
――救援はない。フレイとフレイアは救護班の到着を待っている。パメラとクリスティーナは<シュラ>の集団に囲まれている。
そして、俺の目の前にはゲーム中でも屈指の実力を持つ、アグニ・スルードの駆る専用機の<シュラ>がいる。
これらの情報から、状況を打開する作戦を考えた。
「クリス、パメラ! 三分持たせてくれ! 出来るか!?」
『大丈夫、持たせてみせますわ!』
『もちろん!』
モニターに映る二人は力強く頷いてくれた。
二人の愛機である<アクアヴェイル>と<グランディーネ>のダメージから、それ以上時間をかけるのは危険だ。
すると、今度は目の前にいる赤い機体から操者の荒ぶる声が聞こえる。
『――随分とふざけた真似をしてくれたじゃないか! 一番面白いところだったのに! 噂の白い竜機兵、お前は僕がぐちゃぐちゃに壊して操者はゆっくりじっくりなぶり殺しにしてあげるよーーーー!!』
アグニ・スルード――お前こそふざけたヤツだ。
戦いの中で人の命を玩具のように扱うお前は許せない。ここで徹底的に叩く。でも、俺にはその前にやるべきことがある。
俺は側にいるティリアリアに視線を向け、彼女も俺を見た。その目は俺が何を言いたいのか分かっていると語っていた。
「ティア、この戦い機体をかなりぶん回すことになる。辛いだろうけど耐えてくれ」
「分かってるわ。この子が初めて動いた時にも私は一緒に乗っていたし、大丈夫! 遠慮なんかせず思いっきりやっちゃって!」
ティリアリアは力強い目で言うと、そのあとは口を閉じて舌を噛まないようにしている。俺が初陣の時に彼女に言ったことを守ってくれているのだ。
「よし! それじゃあ行くぞ、<サイフィード>!!」
アグニ専用<シュラ>よりも先に動き出し、真っ正面から突っ込んで行く。
敵が左腕である術式兵装用モジュールを俺に向け、その先端に赤い炎が収束していくのが見えた。
『真っ正面から来るなんてバカだね~! 燃えちゃい――!!』
アグニが言い切るより先に、俺は<サイフィード>の左腕にワイヤーブレードを装備し鞭状にして敵の左腕に叩き付けた。
その衝撃で赤い<シュラ>の左腕が上を向き、空に向かって派手な炎を噴き上げた。
『なっ!?』
「さっきからギャーギャーうるせーよ!! このサイコ野郎!!!」
<サイフィード>の脚部エーテルスラスターを全開にして一気に接近し、すれ違いざまに敵機の左脇腹にエーテルブレードの一太刀をお見舞いする。
その斬撃でアグニ機は地面に叩き付けられたが、装甲には少々傷がついた程度で大したダメージにはなっていない。
「ボスクラスの高耐久には、この程度じゃ歯が立たないか。やっぱりあいつは後回しだ」
俺は倒れた赤い<シュラ>を無視して、敵に囲まれるクリスティーナとパメラの下へ急ぐ。
まずは二人と合流し、体勢を立て直すことが最優先事項だ。
<サイフィード>を走らせながら装備していた二つの武器をストレージに戻すと、新しく追加された武器を取り出す準備に入る。
多勢に無勢なこの状況で強力な武器を出し惜しみする理由はない。敵を効率的に叩く攻撃力が必要なのだ。
「ストレージアクセス! ――来い!」
俺の呼びかけに応じ<サイフィード>の両肩のアークエナジスタルが同時に輝き、そこから大量の術式情報が刻まれたエーテルの塊が出現する。
それを左右の手で持ちぶつけ合う。<サイフィード>の両腕を押し戻そうとするが、二つのエーテルの塊は何とか融合し互いの術式が組み合わさって一振りの剣を形成した。
「
竜機兵専用の武器として開発されたドラゴニックウェポン。その中で<サイフィード>専用であるエーテルカリバーンを装備した。
さっきの『リーン』における戦いでは、重装機兵<エイブラム>の重装甲をいともたやすく斬り裂いたトンデモ兵器だ。
強力過ぎるため、気軽には使えない武器だが現状では使うべきだと判断した。
金色の装飾が施された両刃の剣の刀身が、エーテルを送り込まれて黄金の光を纏う。
竜機兵二機を囲む集団の一番外側にいた<シュラ>が向かって来るのが見える。左腕から風の刃を出して俺に斬り込んで来た。
風の刃をエーテルカリバーンで受けると、互いの武器を形成するエーテルが干渉しあって激しい光を放つ。
だが、明らかにパワーはこっちの方が上だった。風の刃を切り払うと、その余波で<シュラ>の左腕は損傷し術式兵装を展開できなくなる。
もう片方の腕でエーテルファルシオンを振おうとするが、もう遅い。
敵の胴体に深々とエーテルカリバーンの刀身を突き刺し、敵は動きを止めるのだった。
「――<シュラ>相手にほぼ一撃かよ。本当にとんでもない武器だな」
エーテルカリバーンの攻撃力の高さに頼もしさを感じる一方で、恐怖も覚える。ゲームで言えばチートやバランスブレイカーと言った規格外の力を感じるのだ。
使い方を間違えれば、その刃は自分に跳ね返ってくる可能性もあるだろう。
動きの止まった敵機の頭を掴んで剣を引き抜き、そいつを敵集団の中に投げ飛ばす。
すると間もなく機体は爆発し、それから逃れようとする集団は蜘蛛の子を散らすように跳び退いた。
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