第4話 議会

魔法省審議会ホール

既に多くの魔導師と召喚士が集まって着席している。

議会には魔導師上級1級以上の者と、召喚士10名、テーマによって必要な参考人が召集されるのだと、道中リビナから教わった。上級1級が228名、特級が9名で、リビナ議長は特級の1人だそうだ。格好良すぎて眩しい。

ホールの中は円形で、360°全てに席がある。中央に近い席は地面に接しており、外に向かうにつれて席の位置が高くなっている。地面に接していない席はいずれも宙に浮いていた。

中央には議長席、その向かいに参考人席が設けられており、一対一で向かい合う形だ。参考人席のすぐ後ろに並ぶ議席は、参考人が複数人に渡るときのためのスペースになっている。

リビナ議長が着席すると、向かいに召喚士長が座った。その後ろには残りの召喚士たちが踏ん反り返って座っている。私はリビナ議長の隣に座るよう、席を用意された。

ホールでは、誰が召喚したのかと憶測が飛び交ってざわざわしている。視線が痛い。

リビナ議長が、ガベルを一度叩いた。

ホールは一瞬で静まり返り、石造りの建物独特の冷たさを感じる。

「これより、第76回 異世界人召喚の賛否及び法整備についての審議を始める。」

「「「承知」」」

リビナ議長の力強い開催挨拶に対し、全員の同意の声が重く響き返ってきた。

反響が止まると、リビナ議長は進行する。

「第75回において、異世界人召喚は否決された。しかしご覧の通り、私の隣にいる彼女は異世界人である。誰かが召喚しなければこのようなことは起こらない。そこで召喚士10名に問う。この中に召喚した者はいるのか、あるいは別の誰かが召喚した痕跡はあるか。召喚士長、発言を。」

リビナ議長の向かいに座る召喚士長は、いかにも長老といった長い白髪と長い白髭で、常盤色のローブで足元まで覆い隠している。フードも付いているようだが、今は被っていない。

重そうな瞼を薄っすら開けてこちらを見た。そして立ち上がり、びっくりするほど穏やかで優しい声の回答があった。

「少なくとも、我が国に登録している士は召喚しておりません。一報を受けて全員驚いたくらいでございます。そして議会開催前に、全員で気配の追跡を行いました。確かに国内で召喚した者がいるようですが、その者を特定するに至りませんでした。なにせ召喚後すぐに死んだかのように気配が消えておりまして」

ここまで聞いて魔導師たちは黙っていられなかったらしく、ホール内は騒然となった。


カーン!

ガベルの音で再び静まる。リビナ議長は辺りを見渡した。その鋭い眼光は梟を思わせる。魔導師も召喚士も、まるで怯えたネズミのように硬直してしまった。

リビナ議長は召喚士長に向き直って口を開いた。

「確認のため繰り返します。一つ、我が国に登録している召喚士は誰も召喚していない。二つ、登録外の何者かが召喚した痕跡がある。三つ、召喚は国内で行われていた。四つ、召喚者の追跡は不可能。以上、間違いありませんか?」

「その通りでございます。我々召喚士の見解を述べますと、未熟な召喚故に召喚者は術と引き換えに消滅したのではないかと考えております。この世界の者を召喚するより遥かに難しく、遥かに魔力を消耗するのが異世界者召喚でございます。我々10名が陣を組んで1週間かけても、成功する保証はございません。」

穏やかさの中に鋭さを含んだ声色で、士長はリビナ議長を真っ直ぐに見つめながらこう返答した。

では一体誰が、何のために、どうしてこのタイミングで、犯行は複数人の可能性が…様々な憶測が囁かれ、魔導師たちの目には不安の色が伺える。一方の召喚士たちは、術者は消滅したに決まっているといった風に踏ん反り返ったまま黙っていた。

その中、1人の魔導師が挙手をした。

「ロベリア氏、発言を認めます。」

リビナ議長が言うと、挙手した魔導師は起立した。

「特級のロベリアです。発言許可ありがとうございます。ここまでの経緯は理解致しました。しかし問題は、現に召喚された者がここに居るということです。彼女はどうなるのでしょうか。異世界へ戻すのもまた、難しいのだろうと推察致します。」

この言葉に、先ほどまで踏ん反り返っていた召喚士たちは目を泳がせて肩をすぼめた。

そうか、私は招かれざる客なんだなと、このときはっきり分かった。よくある異世界ファンタジーなら、ここで私に特殊能力が見つかって、世界を救うヒーロー扱いされ、大冒険の幕開けとなるはずだが、どうもそうではないらしい。

また、ざわざわと各所で様々な見解を口にし始めたその時「遅くなりました」と男性の声が響いた。

参考人席の隣に風が円を描き、恰幅の良い男性が現れた。

「お待ちしておりました、ベロニカ理事長。」

リビナに言われ、ベロニカ理事長と呼ばれた男性は一礼した。そして私を見るなり笑顔になった。

「彼女が異世界者ですね、見込みがございます。学園が彼女を預かりたく存じますが、承認頂けますかな。」

再びホールは大きな騒めきに埋もれた。

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