第12話 一番関わりたくない人の助言

 学校のいじめ騒動が一段落した。坂井の元へ行かないと。


そう思い、俺は坂井のクラスを追いかけた。


時間も大して、経って無いので直ぐに追い付き、声をかける。




「はぁ、はぁ。坂井。ちょっといいか? 」




「どうしましたか? 深川」




「え、先生は……」




「透君を参考にしました。そもそも敬称を求められる立場で無かったですよね? 」




「ああ、そうだな。もうそれで、いい。話したいことがあるから、談話室に来てくれないか? 」




「…わかりました」




やり取りを終えて、坂井と共に、談話室へ向かい、部屋へ入る。




「坂井。話したいことというのは……その……」




言葉が詰まる。この期に及んで、俺はなんて情けないんだ。


今までのことを清算しないと、俺は前を向くことは出来ない。


しっかりしろ。




「坂井……すまな「深川が話したいことって僕のいじめのことですよね? 」「……ああ……そうだ」「大丈夫ですよ」「そ、そうか」




良かった。坂井は俺にもう恨みは無いようだ。これで、呪縛から解き放たれる。




「最初から赦ゆるす気無いですから」




思えば、あの頃から罪悪感に苛まれていた。


向井間が居なかったら、この業と常に向き合い続けることになって……「今なんて?」




「そのままの意味です。深川を僕は赦しません。だってそうじゃないですか? してきた事を棚に上げて、赦されようとしているんですから。まさか忘れていませんよね? いえ、忘れていようと無かろうと関係ありません。あなたにとっては、都合の悪い事を忘れようとしている所でしょうか? もしかすると、無かった事にしようとしているかもしれないですね。そう、あの時みたいに」




「……」












 前方に狼狽えている担任の深川を僕は赦さない。それは阿多谷君いや、阿多谷以上かもしれない。


この先生は、僕がいじめられている時に、一時は何とかしようと試みたが、その一時以降は我が身可愛さに、裏切ったんだ。




裏切るくらいなら、最初からほっといて欲しかった。向井間君みたいに最後迄何とかしてくれないのなら、それはいじめをする奴らより残酷なことだ。


だってそうじゃないか。期待していたのに、結局はいじめた側に付く。




そっちの方が悪質だ。確かに、倫理的にはいじめてきた奴らよりかは、幾分か増しだけど、これは理屈じゃない。


何で深川先生が被害者面をするんだ。一番の被害者は僕なのに。


あんなちっぽけな良心をわざわざ汲み取らないといけないのか。


ぼろぼろになった者に公正な考えを強いられるのか。先生に赦される資格があるのか。








 答えなんてものは無い。ただ、僕は先生いや、この男を赦さない。


中途半端な正義感を免罪符に許されようと、する男を自分の感情が赦さないと訴えている。




だから僕はこの男を赦さない。






 贖罪なんて機会を与えて上げるつもりは無いが今までしてきた事を忘れて貰っては困る。


罪を再確認して貰わなきゃ割には合わない。




「過去の話をしましょう。僕がいじめらていた時の話を。ただの謝罪になんの価値も無いですからね。僕がいじめられた時、止めさせようとしましたね。頼りにしてました。その時は。けど、それは一週間で終わりました。それからは、人が変わったように素っ気ない態度でしたよね。いじめられていると訴えても、『やっぱりお前の気のせいだろ。』この言葉を忘れるわけ無いじゃないですか? そうして、間接的にいじめに加担するまでになりましたね。用紙を配っても名前を呼ばなくなった時には、もう諦めました。少し前までいつもしていたことなので、何も感じていないのでしょうね。今更になって、謝って、はいわかりましたなんて、言えるわけが無いじゃないですか」




「あの時は本当にすまなかった。たけど、暫くして、向井間と協力して証拠おさえたりしていたんだ」




「それがデマカセか本当かなんて、どうでもいいんですよ。まぁ、卒業式の時の向井間君の言動からそうなんでしょうけど、理屈じゃないんですよ。あの時、確実に僕を裏切った事実は変わらない。向井間君も言っていましたよね。『いじめが起きている中で最も許せないのは、手を指しのべた手を途中で振り払われる事だ。』と。本当にそう思いますよ。まさに深川がやっていることじゃないですか? 向井間君もきっと波乱万丈の人生を送った事と思います。だからこそ、いじめを見過ごしなかったんでしょう」




「向井間はそんな奴じゃない」




「……何……ふざけたこと言っているんですか? 」




「人の弱みに漬け込む奴なんだ」




「この期に及んで、僕の恩人に迄、泥をかけるんですか! ? そもそも、先生は、協力していたと言っていたじゃないですか? ああ言えばこう言う。深川らしいです。流石にもう、顔も見たくありません。失礼します」




ドン !!




「……! ? 何やっているんですか? 」




「土下座だ」




「見苦しいです。もう出ます」




「今までどっち付かずで、自分の保身に走った人生だったことを認める。俺の顔も見たくない。その感情は最もだ。だから俺のことは見るに値しない者として扱われても厭いとわない。だが、せめてアイツがどんな奴かをせめて聞き流すだけでもいいから聞いてい欲しい。そうでないと、示しがつかない」




「……」




「動かないでいてくれて、感謝する。そもそも、向井間がいじめを本当に許せないなら、何故卒業式迄いじめを野放しにするようなことをしたと思う? 」




「それは証拠とか押さえて時間がかかったからでしょう。それに、あなたが言えることですか? 」




「返す言葉もないよ。けど、向井間はあの時、坂井がいじめを受けてから直ぐに行動していたんだ。証拠は俺と協力して既に卒業式からとっくの前から揃っていたんだ」




「へっ……! ? 」




「そう、本来はもっと早くに解決出来たはずなんだ。坂井のいじめを止めるべく、早く証拠を突きつけるべきだと訴えたが、俺の立場から言っても、その……弱み突きつけ返されてしまって……。じゃあ、何故そうするんだって聞いたら、それは……儲からないからだそうだ」




「……っ! ? 」




「奴は、いじめをあろうことか、ビジネスとして見ているんだ。証拠を押さえて、ただ当人を助けることに何の得があるのか。せいぜい被害者からの感謝の言葉と取るにに足らない報酬を受けるくらいのことだ。自分が被害者として現れることで、慰謝料を得て初めてこの行為の意義がある。なんてことも言っていた」




「嘘だ」




「残念だが、本当だ」




「じゃあその証拠出してくださいよ」




「そ、それは……ない」




「ほら、ただのデマカセじゃないですか? 」




「断じて違う。アイツは本当に善人なんかじゃない。それだけは間違い無い。だからアイツを盲信するようなことはどうかやめてくれ。後で後悔することになる」




「……深川は、向井間君のなんなんですか? 仮にも保護者ですよね? なのになんでそんな酷い事を言えるんですか? 」




「そ……それも弱みを握られて仕方なく」




「やっぱり身の保身のためじゃないですか! 本来なら、向井間君のデマカセを言うところですよ」




「いや、誤解だ。そしてデマカセではない」




「本音に保身が出る人を信じれるわけ無いじゃないですか」




「それは……そうだな」




「深川も聞きましたよね? 向井間君の親の会話を。あれを聞いて何か思う所は無いんですか? 」




「確かに、あんな惨状の元過ごしてきたとは思わなかった。けど、アイツは坂井を出汁に自分が被害者になろうとした。それは紛れもない事実だ。それを何とも思わないのか? 」




「向井間君は、僕に被害を遭わなくなるように隠れ蓑になってくれただけです。その話もしてくれました。助けてくれた恩人が得して何が悪いんですか? 僕には返しきれないことをしてくれたんです。慰謝料を貰ったって、罰は当たりません」




「アイツ坂井と話を合わせていたのか」




「さっきから先生は向井間君を陥れるような言動ばかで恥ずかしく無いんですか? もう、先生と話すことはありません。失礼します」バタン!




 ……向井間君が悪人な訳がない。

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