第11話 煮え切らない中で
「透くぅーん。」
体育館へ出て行った所で、後ろから呼び止められる。
校舎の玄関の前で、見覚えのある人を確認した。
ああ、マスコミの方々だ。俺が手配した人たちだ。
蔵元安雄くらもとやすお。マスメディアに携わっている人だ。
特殊カメラや証拠収集に力を貸してくれた存在だ。
現に俺のふざけた演説を目の当たりにしている無様な奴らもしっかりと見下ろすように撮られている。
小学校でも用意周到に証拠集め、オジを協力させることができたのはこのためでもある。
流石に俺だけでは、質のいい証拠は集められない。
何処に置いても気づかれない特殊なカメラを手に入れる必要があった。
そういった事に精通している者と協力元出来て、今がある。
学校側がふんぞり返ろうがメディアに叩かれれば、たちまち立場を失う。
今回はあまり出番は無かったが、俺が強く出れるのもこの人たちのおかげだ。
利害が一致しているのは利用し合えるのでいいことだ。
インタビューで有ること無いこと根掘り葉掘り聞くつもりだろう。
しかし悪いが、興が削がれた。
「何ですか? 蔵元さん」
「どうしたもこうも、打ち合わせと違うし、急にどっか行くし。本当にびっくりだよ」
「本命の目的は終わったようなものだからいいじゃないですか? 」
「それでもさ。俳優や女優がドラマの本筋の役が終わったからって、舞台に離れないだろ? 」
「そうですね。オヤの情けない状況で、『これ、本当にオヤなの? 』って言ってくれてありがとうございます。いい演技でしたよ。あそこにいた有象無象らでは、正常な反応をする保障が無いので」
「君も役者だよ。何せあの場を支配していたのだから」
「買いかぶりすぎです。現に、阿多谷の父が終息させた」
「それでもだよ。マスコミって言うのはね、時に役者よりも役者でいなきゃいけないんだよ。君は人を騙すことができる役者だ。僕が保証するよ」
「それ、マスコミとしては、問題発言ですよね」
「問題があるところは編集できるからね」
「酷いですね。いや、すみません」
「それが仕事たからね。再三言うけど、君の演説は見事だった。そうでなきゃ、世に出せなかった。編集と言っても、何もかも嘘だと疑われたら、元も子もないからね」
一万円札百枚の一束を手渡して、「契約上では、報酬は取材の利益でお釣が来るから大丈夫と言ってましたが、これは迷惑料として、貰ってください。では」
「ちょっとちょっと困るよ。待って。君の計画はどうするんだい?またちゃんとお話しなくちゃあ」
「別に計画を諦めた訳ではありません。ただ少し一人にさせてください。話は近い内に連絡します」
そう言い捨てて、人だかりも無視していった。
人を騙せる役者か。
向井間の指示で、俺がいじめを止める協力をしている体で話を進めていた。
坂井も向井間の演説に予想以上に驚いた素振りが無かったので、どうやら、話は通してあるようだった。
折角なら、三人で、話しておいた方が手早く済むのに。
……いや、それは許されないことだし、出来ない。裏切った俺を坂井は許さないだろう。
それよりも、向井間は急にどこか行って、収拾はどうするんだ?
ええい、とりあえず 俺が仕切ろう。向井間と話し合ったことを頼りに壇上へ上がる。
「……」
何を言えばいい?ここの立場的には仕切っても、違和感は無いはず。
しかし俺は……。今更じゃないか。せめて後始末くらいしないと。
「この学校は、……過ちをし続けました。いじめをする。いじめを無視する。いじめをないがしろにする。本来あってはならないことです。ですが、立場等が邪魔をして、対処出来なかった。……もっとわかりやすく言いましょう。皆、度しがたい、わがままだったんです! 悪い事だと思っていようと無かろうと、この際関係無いです。いじめを止めようとしなかったか。しませんでしたよね? 止めようとしたら、自分が標的にされるかもしれない、みんなが止めようとしないから。それぞれあるでしょう。そもそもが間違えてます。なんでわからないんですか? なんでわかろうとしないんですか? この学校は向井間君は勿論、もう世間も許さないでしょう。学校から離れる際、メディアの関係の方々が待ち構えているでしょう。それに対応するかしないかは貴女方の自由です。ですが、今一度考えて下さい。ここでも、素知らぬ顔でいる事が果たして、無責任でないと言い切れるでしょうか? 私はそうは思いません。こんな状況です。卒業式は中止でしょう。体育館へ退場する生徒、三年から整列して、教室へ戻って下さい」
そうして指示の元、今回の騒動の幕を下ろした。
いや、まだ、けじめをつけていないな。
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