16 発覚
貴重な証言をしたモアラとシリルをマユリアの宮殿に預かってもらった後、ルギは部下たちに命令を出した。
「なんとしても青い香炉の出どころを突き止めたい、頼んだぞ」
それまでも並行して調べてはいたが、こうなると香炉を手に入れたのもセルマであるとの証拠も手に入れねばならない。今のままでは証言があったとしても、知らぬと突っぱね続けるだろう。
表立っては証言があったことは知らせず、あえて神官長やセルマにも、
「今、部下たちが青い香炉を買った者がおらぬか街で調べております。宮や神殿内にもそのような物があったという記録がないか調べさせていただきたい」
そう言って衛士たちに記録も調べさせていたが、ルギは宮や神殿の香炉が使われた可能性は低いと考えていた。
宮や神殿の物品はきちんと管理されている。消耗品ならともかく、香炉のようなそこそこ価値のありそうな物ならば、記録から消えていればすぐに分かるはずだ。それが今になっても「なくなっていた」という報告がないなら、それはおそらく外から持ち込まれたものであろう。
ルギが取り調べをした時、セルマは侍女頭付きの侍女に不審の目を向けさせようとしていた。中でも特にフウに、そう見えた。
フウは風変わりな侍女として知られているが、それと同じぐらい薬草園に入り浸っていること、薬草などに詳しいことでも知られている。体調不良の時など、侍医ではなくフウに相談する者もそこそこいると聞いたこともある。侍医は男性なので、色々と聞きにくいこともあるからだろう。
フウの実家は王都の老舗の薬問屋だそうだ。それでフウも幼い頃から薬に興味を持ち、宮の薬草園目当てで侍女になったという話だ。
侍女になった理由としては変わっていると思うが、なるほど、香炉に何かを仕込むのに十分な知識と、その何かを得られる立場にいるということでもある。王都で育ち、今も家族が近くにいるのなら、外部から香炉を持ち込む道筋もあるかも知れない。少なくともそう思わせることはできるだろう。
「店だけではなく、外から来ている者から直接手に入れた可能性もある、王都に出入りしている外からの商売人や船なども見てきてくれ」
ルギは信用のおける部下にそう命じて王都へと行かせた。
シャンタル宮警護隊の副隊長ボーナムは、カトッティに停泊している船を部下と手分けして調べていったが、どの船にも青い香炉を求めに来た者はいないという話で、その言葉に嘘はないように思えた。
そして、ボーナムと部下の1人がアルロス号にも調べにやってきた。
「船長は今シャンタル宮へ行ってるんですよ、代理でよろしければお話を伺います」
人のよさそうな黒髪の船員がそう答えた。
「ええ、船長が宮にいらっしゃることは承知しております。ですが荷のことは直接聞きにこないと分かりませんのでね」
ボーナムは船員とそう話しながら、なんとなく見たことがある顔のように思い、
「あの、どこかでお会いしたことは?」
と聞くと、
「いえ、ないと思いますが」
まだ若く、誠実そうなその船員が嘘がなさそうにそう答えた。
「そうですか、どこかでお見かけしたように思ったんですが、いや、失礼した」
「いえいえ。まあどこにでもあるような顔ですから、それで勘違いなさったんでしょう」
そう言って明るく笑うので、ボーナムも軽く謝罪をしてから積荷の話に戻った。
積荷の書きつけを見せてもらい、この船にもそのような香炉はなかったようだと判断する。
だが、一緒に過ごしているうちに思い出した、確かに一度会っていることを。
「いや、失礼いたしました。もしかするとまた他の者もお伺いに来るかも知れませんが、まあ念の為ですので、そのようなことがあってもお気を悪くなさらず、またご協力いただければ助かります」
「いえいえ、これぐらいのこと。しかし大変ですなあ、ご苦労さまです」
若い黒髪黒い瞳の船員、ハリオはそう言って明るくボーナムと部下を見送る。
「ゼトを呼んできてくれ」
一緒に来た部下に、ルギの後を継いでシャンタル宮第一警護隊隊長になったゼトを呼んでくるように命じ、自分は港から少し離れたところにある月虹隊の詰め所で休ませてもらうことにした。
しばらくの後、宮から馬を飛ばし、ゼトがやってきた。
ボーナムが何かを耳打ちすると、こくりと一つ頷き、馬を走らせてどこかへ姿を消す。
またしばらくしてゼトが戻ると、小さくボーナムと話をし、何かを確かめ合った。
「では、間違いないか」
「ええ、私もそう思います」
「そうか……」
ボーナムもゼトも確信した。
「あれは間違いなくあの時に見たあの男だ」
「ええ、声は聞いていませんから分かりませんが、半分の顔は間違いありません」
「その男がなぜアルロス号にいるのだ、しかも顔に傷もなく」
ルギの優秀な二人の部下は気がついてしまった。
先ほど会ったハリオという若い男が、アルロス号の船員が、中の国から来たという「エリス様」と仮の名で呼ばれている貴婦人を、身を挺して守って大ケガをして、思うように動けず、顔にも深い傷を負ったことから話せもせず、その傷を隠すために仮面をかぶっているという「ルーク」と呼ばれる護衛の男であったということを。
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