13 いつものお茶会
翌日の午前の半ば頃、キリエに言われ、ミーヤがエリス様とベルを連れてキリエの私室へと向かう。
「キリエ様が、お二人にお伺いしたいことがあるとのことです」
当番の衛士にそう告げると、話が通っていたらしく、すっと横にどけて3人を通してくれた。
「お二人をお連れいたしました」
ミーヤがそう声をかけると、
「どうぞ、お入りなさい」
と、フウの声がした。
(フウ様が一緒にいらっしゃるのだわ)
ミーヤはそのことに驚きつつも、トーヤの言ったことを思い出していた。
『ってことは、その人が次の侍女頭候補かな』
そうなのだろうか。
ありえることだとは思うが。
(だとしたら、キリエ様はフウ様にお話しになられるつもりで一緒にいらっしゃるのだろうか)
トーヤは「黒のシャンタル」のことも話すのではないか、そう言った。それも本当のように思えてきた。
キリエの応接に入ると、キリエが椅子に座り、その横にフウが立っているのが見えた。
ミーヤが軽く会釈をすると、フウに示されてエリス様とベルがソファに並んで座った。
「ミーヤもお座りなさい」
「はい」
キリエの言葉に従いミーヤもソファの横の椅子に座る。
「フウも」
「あら、私もですか? 大事なお話があるのではないのですか? よろしいのですか?」
「ええ、おまえにも聞いてもらいたい話なのです」
やはり、とミーヤは心の中で思った。
「と、えらくテーブルに椅子やソファがくっついておりますね、何か内緒話ですか?」
フウがあっけらかんとそう言うのに、ミーヤは少しだけ笑う。
「ええ、そうですよ。大事な話です。奥の部屋にいる二人にも聞かれないように」
キリエがさらっとそう言うと、フウも納得した顔になる。
「それで、そんな大事なお話に私も混ぜていただくということは、何か悪巧みなのでしょうね」
「まあ、そんなところです」
ミーヤはキリエのフウに対する態度に、まるで同志のように心を許されているのだと思った。
キリエにもそういう相手がいるのだということを、なんだか心強く、そして安心したように思う。
「エリス様」
キリエがベルを通さず、小さな声で直接ベールに包まれた貴婦人に話しかけた。
「このフウは私が心より信頼し、次の侍女頭にと思っておる者です」
ああ、やはりトーヤが言っていたように、キリエはそのつもりであったのだ。
「あらま、びっくりですね」
と、フウはさして驚いた風でもなくそう言い、
「ですが、宮ではもっぱらセルマが次にそのお役に就くとの噂でございますよ?」
「あくまで噂でしょう? 私はずっと前からおまえにと思っていましたよ」
「それはそれはありがたいお言葉ですが、私は少々戸惑っております」
言葉とは違い、まるで飲んでいるお茶の味についてでも口にするようなフウ。
「それはですが、また後の話です。今日はまずエリス様のお話を」
「分かりました」
何もなかったように話題を戻す。
「エリス様は、先代シャンタルでいらっしゃいます」
いきなりのキリエの言葉、いきなりの宣言であった。
「あらまあ……」
さすがにフウが少しばかり驚いた顔をするが、
「いつ聖なる湖からお帰りに?」
何もなかったようにそう言うのに、さすがにミーヤが驚く。
「驚くことはありませんよ、フウはこういう人間なのですから」
キリエが笑いながらそう言う。
「ですので、エリス様、いえ、シャンタル、どうぞお顔をフウにもお見せください」
「うん、分かったよ」
そう言ってシャンタルがベールをめくって見せると、
「あらまあ……」
フウがそうとだけ言って少し黙り、
「もしかして、男の方ですか?」
と、声を聞いて言う。
「ええ、そうなのです」
「まあ、存じませんでした」
何があってもフウは動じない。
「それで湖にお沈みに?」
「うーん、どうなんだろうね」
聞く方も聞く方なら答える方も答える方で、緊張感のないやりとりにベルの目がくるくると落ち着かない様子で動いている。
「まあ詳しいことはまたゆっくりと話します、今はこれからのことを」
キリエも事も無げにそう言って話を切り替える。
「それで、どうなさるおつもりでした?」
「あ、あの、はい」
急いでミーヤが返事をする。
「モアラさんとシリルさんに、青い香炉を置いていった人物を思い出していただきたいのです」
「やはりそうですか」
キリエも同じことを思いついていたらしい。
「もう日がありませんからね、何か思い切ったことをするのではないかと考えていたところにミーヤが来たので、もしやと思いました」
「うん、それで2人に夢を見てもらいたいんだけど、どうしたらいいと思う?」
シャンタルがキリエに相談する。
「普通に会話をすればいいのではありませんか? もちろんエリス様として」
「普通にか」
「ええ、お茶会をいたしましょう。いつもの手ですが」
そう言ってキリエが愉快そうにクスリと笑う。
「フウ、準備をお願いします」
「はい、分かりました。お茶は普通のお茶でいいですか? エリス様からのお茶を?」
「普通ので。それからお菓子も。隣室の2人にもそろそろここを出て自由にしてあげないとかわいそうですからね」
「分かりました。では、準備ができるまで少々お待ちください」
フウはそう言うと、何も質問することもなく、お茶の支度をしに下がっていった。
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