11 神を見る目

「そういえば」


 ベルが思い出してアーダに尋ねる。

 

「アーダはどのようにして宮にお勤めに上がるように?」

「私は王都から馬車で3日ほどのところにある町の出身なのですが、両親と共に神殿によくお参りに行っていたのです。そうしたところ侍女の募集があり、条件に合うので行ってみないかと声をかけられました」

「条件?」

「はい。その時は年齢が10歳以下で、上に兄か姉がいる者だったかと」

「その条件も神殿が?」

「確かそうだったと思います」


 そういうのは一体どうやって決めるのだろう。多分アーダに聞いてもそこまでは知らないのだろうなとベルは考える。

 

「ベル?」

「あ、はい?」


 考え込むベルにアーダが心配そうに声をかけた。

 

「ご心配でしょうね、エリス様のこと」

「え? あ、ええ、そうなのです」


 もうちょっとで忘れるところであった。

 

「それでエリス様も神殿にお参りをなさりたいということなのですね」

「ええ、何しろお国ではそのようなことだったもので、お参りでもなさればお気持ちも落ち着くかと」

「お気の毒です。お気持ちお察しします」


 アーダが目を閉じて目の前に両手を組み、軽く祈る形になってくれる。


「では神殿の方にお話をしてまいりますね」

「いいのですか?」

「はい、そのようなことも接客係の侍女のお役目ですから」


 そう言ってアーダは部屋を辞していった。

 

 ベルはアーダとの話を終えると、トーヤたちに「お声」の話をした。

 

「そりゃ、あれじゃねえの、稲妻とかじゃ」

「おれもそう思うんだけどな、まあちょうど話をしてる時とかにあったんじゃね?」

「なるほどな、そういうのを天の意思、とかって思うこともあるんだろう」


 トーヤもベルと同じく稲妻説を取り、アランがそういうこともあるだろうと納得をする。

 

「なんにしても、じみ~だから気がつかなかったが、それなりに神殿の影響ってのは大きいんだな」

「みたいだな」

「宮があまりにデカすぎて分からなかったな。単なるおまけぐらいに思ってた」


 あまりに正直過ぎるトーヤの感想だが、全員がそう思っていたので否の言葉はない。


「けど、今回聞いたところによると、結構仕事してるみたいだぜ、神殿もさ」

「ふうむ」


 トーヤが聞いて腕組みをして考える。


「ってことは、そこからかな」

「何が?」

「いや、神官長が宮で力を持ちたいと思って、そんで子飼いのセルマってのに力を持たせたのが」

「なんで?」

「神殿が宮の下に置かれて、トーヤが言ってたようにおまけ、ぐらいに思われてたのが不満だったってことか?」


 ベルの続きにアランが聞く。


「そういうことも考えられる、ってことだけどな」

「ありそうだな」

「そんで先代の死をきっかけに宮に入り込むようになって、どんどん食い込んできたのかもな」

「まあ、聞いてみりゃ神殿の神官ってのも気の毒ではあるな、一生懸命に仕事しても、そうやっておまけみたいに思われるんなら」


 トーヤたちシャンタリオの者ではない3人の話を聞き、ミーヤが困ったような顔になる。


「村とかではそんなこともないのですが」


 だが、ここリュセルスのシャンタル宮の中に置いては、確かにそのような位置に神殿はある。それはここで暮らすミーヤとて認めないわけにはいかなかった。


「そりゃ、そこにシャンタルがいねえからじゃないのか?」

「かもな」

「ありそうだな」

 

 確かにそうかも知れないとベルとアランも頷く。


 もしも、その村々、町々に、その場所だけのシャンタルがいたとしたら、そのシャンタルの方が神殿よりもありがたがられた可能性はある。

 だが、女神は王都のシャンタル宮に一人いるだけだ。自然、神につながりのある神殿は大事に思われるようになっていく。


「ってことは、軽く見られてる神殿はここの、本部みたいな神殿だけってことになるな。皮肉なこった」


 本来なら神殿の中心として、一番尊ばれなければならないシャンタル宮の神殿だけが、影が薄いということになる。


「シャンタルはさ、神殿のこととかどう思ってんの?」


 ベルが一応聞いてみるが、


「うーん、覚えてないからねえ」


 思っていたような返事があり、さもありなんと皆が納得する。


「そりゃそうだよなあ、ずっと寝てたようなもんだしな」

「うん、そうなんだよねえ」

「そんじゃさ、神殿がシャンタルのことどう思ってたか、ってのも分かんねえよなあ」

「え?」


 ベルの言葉にトーヤが反応した。


「ん、なに?」

「いや、今おまえが言ったそれだよ」

「へ?」

「神殿がシャンタルをどう思ってたかってやつ」

「え? って、そりゃ大事に思ってたんじゃねえの?」

「この国の人間でシャンタルを大事に思わない人なんておりませんよ」


 ベルとミーヤが声を合わせたようにそう言う。


「うん、まあ普通ならそうだよな。けどな、ずっと日陰に置かれてる人間ってのはまた違うことがあるしな」

「それにしても、とてもそんなこと考えもできません」


 ミーヤが信じられないと首を振りながら強くそう言う。


「じゃあまあ、シャンタルに対してはそうだとする。じゃあ宮には?」

「まさかそんなこと」

「うん、そう思うよな。だがな、そうじゃなかったから、今、こんなことになってんじゃねえのか?」

「そんな……」


 ミーヤはどう返事をしていいのか分からなかった。

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