8 神殿への寄進
「そんじゃうまくいったわけだな」
トーヤはダルの部屋でアランから報告を聞いた。
「ああ、多分な」
ハリオが「緋色の剣士」を演じた影武者作戦のことである。
「おまえが見てどんな感じだった? 納得してたか?」
「そう見えたけどなあ」
「何しろ相手がルギだからな、これからも何かに引っかかったらしつこく聞いてくるはずだ」
「そういう風に見えたなあ」
アランがルギを思い出して少し嫌そうにそう言う。
「おまえもか、そうだろ?」
何が、とは言わずトーヤが笑う。
「ああ、トーヤとは馬が合いそうにないよなあ」
「だろ?」
そう言っているとダルが、
「いや、それが、案外気が合ってるような感じもあったんだよ、前は」
「おま、そんなことあったかよ!」
「うん、案外深いところでは気が合ってる気がしてたな」
「んなはずあるかよ!」
トーヤが憤慨する。
「まあ、ルギは誰にでもあんな感じで、少し理解しにくいところがあるしね」
「愛想なし、皮肉屋で変人、上から目線、理解できるはずねえだろうが」
その言葉を聞いてダルが思い出し笑いをする。
「何笑ってんだ」
「いや、色々とあったなと思ってさ」
「思い出さなくていいよ、そんなもん」
言われてもダルはクスクス笑うのをやめず、トーヤがすっかりへそを曲げた顔になる。
「まあ、そんなのはどっちゃでもいいんだけどよ、そんで、これからどうすんだ?」
アラン隊長がいつものように話を元に戻す。
「まあ、奥の警護を厳しくしてくれるってのなら、ラーラ様のことはルギに任せるしかねえだろう」
「そうかもな」
トーヤの言葉にダルもそう言う。
「そんで、次はどうするつもりだ?」
「まあキリエさんの方もなんとかなったし、そろそろこっちも攻撃に出ねえとな」
「だから、それをどうすんだよ」
「とりあえず今見えてる敵、取次役と神官長をつつくしか方法はねえんだろうなあ」
この二人の後ろにまだ誰かがいるとトーヤは睨んでいたが、それが誰かの推測は皆目つかない。
「まあ、それしかないわな」
アランも同意する。
「つつくとしたら、やっぱあれか」
「かなあ」
「あれって?」
ダルが何のことかを聞く。
「例の手紙だよ、犯人を知ってるってやつ」
「え、でも、あの手紙ってセルマ様や神官長がやらせてるんじゃないの?」
ダルはそう思っていたようだ。
「その可能性は高いと思うが、違う可能性もある。それに最近のは完全に違うしな」
トーヤがそう言ってケラケラと笑う。
それはそうだろう、あれを真似て自作自演したものだ。
「だから同じ手紙を届けて、どういう騒ぎになるか見てみたらどうかと思ってる」
「なるほど」
「まあ、まだやるかどうかまで決めてねえが、そのぐらいしかやれそうなことねえしなあ」
ここは、宮の中は敵の領域だ。その中で動けることは限られている。
「実際にセルマってのと接触できそうなのはベルぐらいだが、その理由もねえしな」
「そうだよなあ」
ダルも考えながらそう言う。
「なんか理屈つけて接触できりゃ、またなんか変わるかも知れねえんだが」
「理屈なあ」
「そっちがだめなら神官長は?」
「神官長?」
「うん、そっちなら神殿に相談とかしにいけないかな」
「神殿に相談?」
「うん、昔からそういうのあるんだよ。何か相談事があったら神殿にお伺いを立てに行くってのが」
「なんだよそれ、知らねえぞ、そんなの」
八年前にここにいた時には、神殿については宮の付属品ぐらいの感覚しかなかった。それぐらいトーヤとは接触がなかったのだ。
「本当はシャンタルに託宣を求めたいもんはいっぱいいるけど、とてもそうはいかないだろ? そんな時には神殿にお布施を払ってお参りするんだよ。たとえば家族に病人が出た時とか、うちの村でも村の神殿にお参りしただけじゃ足りないって時は、神殿まで行ってお参りしてくるんだ」
「へえ、知らなかった」
「エリス様はさ、なんか宮にすごい寄進したんだろ? それも噂になってるよ」
「ほう、どっからだよ。キリエさんはそんなことべらべら喋るような人じゃねえだろ」
「うん、でもこういうのって誰からともなく漏れてくるもんじゃないの? 何しろそんだけの大金が入ったってことだと、知ってる人もいっぱいいるだろうし」
「そりゃまあそうか」
「うん、だから、次は神殿に寄進して出入りするってのは?」
「なるほど」
トーヤが少し考え込む。
「神官長ってのは完全に噛んでると俺も思う」
アランが言う。
「そっちからも見てみていいんじゃねえの?」
「確かにな」
だが問題が一つあった。
「金がな~」
手持ちの金はかなりの大金であったが、その大部分を宮への寄進にしてしまった。
「だからな、そんなにたくさんねえんだよ。それで神官長様が満足してくださるかねえ」
「そんなにすっからかんになったのか?」
「いや、すっからかんになるってほどじゃねえが、やっぱり今後のな」
「俺たちのことなら気にすることないぞ」
アランが言う。
「トーヤのことだ、どうせ何かあった時に俺とベルがなんとかあっちに戻ってやり直せるだけ、とか思って残してんだろうが。そんなん気にすることねえからな。俺には俺の腕がある、なんとか乗り切るだけのことはトーヤに教えてもらってる、そうだろ?」
なんとも力強いアランの言葉であった。
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