10 密告

 ミーヤがエリス様たちの世話役の一人になり、アーダが月虹兵付きの一人になった翌日、


「またお茶会にいらっしゃいませんか」


 と、シャンタルからの招待状が届いた。


 昨日、マユリアとラーラ様に、エリス様たちとのお茶会が楽しかった、そうおっしゃるのを聞いて、シャンタルの無聊をお慰めしたいと、さっそくお茶会を開くことにしたのだ。


「よくお茶会に呼んでくれるけどさ、神様ってひまなのか? そんなに人のことご招待してていいの?」


 ベルが美しい招待状とにらめっこをしながら、うーんと悩んでいる。


「どうだろうねえ。私はそういうのしたことないから」

「そりゃおまえはずっと寝てたんだから、そんなことしたことなくて当たり前だろ」


 ベルが速攻で突っ込みを入れる。


「まあ、違う形でのお茶会はやってたけどな」


 「シャンタルに心を開いてもらう」という目的で、毎日のようにマユリアの客室に呼ばれていたあの「お茶会」のことだ。


「覚えてないからなあ」

「だからおまえは寝てたんだろうって」

「そうなんだよねえ」


 ベルとそう言い合って笑う。


「笑いこっちゃねえんだが、まあ笑い話にできるならそれにこしたことねえしな」


 トーヤがそう言ってから、


「そりゃもう大変だったぞ。毎日毎日交代であれやこれや話しかけるんがだ、まーったく反応なくてなあ。そのうち話すこともなくなって困るのなんの」


 と、思い出すようにする。


「すみませんでしたねえ」

「その挙げ句、結局そのお茶会の効果なんぞなかったんだからな」

「いや、なかったことはないよ」


 シャンタルが反論する。


「リルのお話とか面白いのは結構覚えてた、というか後で思い出したよ」

「ああ、そういやそう言ってたか」


 託宣で心を救ってもらったリルが、家族のちょっと恥ずかしい笑い話なども色々と話してくれて、それを思い出したりもしていた。


「トーヤもそういえば話してくれたよね」

「な、なにをだ!」


 トーヤも色々と話したのは覚えているのだが、内容を覚えてないものも結構ある。


「あのね、ミーヤやリルがいなくてダルと2人だった時にね」

「いい! 言わなくていい!」


 男2人だけ呼ばれていた時、あまりの反応のなさに、やけくそになって「あまり教育的によろしくないお話」なんかもしたような気がする。


 ちょうど今はミーヤが世話役として部屋にいた。下手なことを言われ、また「あの笑顔」を見るようなことは阻止したい。


「まあ、どんなお話だったのでしょう。興味がありますわ」


 ミーヤではない、ベルである。ベルがニヤニヤと楽しそうにそう言って、話の続きをねだった。


「お、おまえ!」

「ぜひお聞かせ願いたいですわ~」


 ひっくり返るような声でそう言う。


「うん、あのね」

「やめろって!」

「教えて教えて!」

「やめろってば!」


 低レベルな押し問答を続けていたら扉が叩かれ、急いで口を閉じる。


 ベルが室内を確認してから扉を開ける。ダルが一人で立っていた。


 ベルは室内にダルを招き入れ、


「なんっだ、ダルかよ~誰かと思って緊張したぜ」


 と言い、あまりにくだけすぎた口調にダルがびっくりする。


「ダルだったよ」


 そのままダルを振り返ることもなく、つまらなそうに戻って椅子にドシンと座る。

 せっかくトーヤをいじめるいい機会だったのに、とそれが残念なのだ。


「おう、よく来たな」

 

 対象的にトーヤはホッとしてにこにこでダルを出迎える。


「うん、歓迎してくれたのはうれしいんだけどさ、あまりいい話じゃないんだ」

「なんだ?」


 トーヤが表情を引き締める。


「こんな手紙が来たんだ」


 ダルが1通の手紙をテーブルの上に置いた。どこがどうということもない、単なる白い封筒だ。


 トーヤが手に取り、開いて、


「なんだよこりゃ……」


 そう言ってアランに手紙を渡す。


 アランは目を通して黙ってシャンタルに、シャンタルも黙ってベルに渡す。


「なんっだよこりゃ!」


 ベルが大きな声で言って口を押さえ、その姿勢のままミーヤに渡す。


「これは……」

 

 ミーヤも目を通し、そのまま黙り込む。


『中の国からのお客様を襲った犯人を知っています』


 たった一言、そう書いてあった。


「これだけか?」

「うん、今のところは。どうしようかなと思ったんだけど、やっぱり知らせといた方がいいだろ?」

「そりゃそうだ」


 「犯人」などいない。

 いわゆる「自作自演」だからだ。


「どこに届いたんだ?」

「月虹隊の西の本部。カースのすぐ近くなんだけど、その扉の下に挟んであったのを当番が見つけて、すぐに俺んちまで届けてくれたんだ」

「いつだ?」

「気がついたのは今日の昼過ぎらしい。朝はなかったと思うって」


 トーヤが手紙をじっと見つめる。


「とにかく、何にしてもこれだけじゃどうしようもねえな」

「うん」

「また続きが届くかも知れん、少し気をつけといてくれるか?」

「うん、それはもちろん。隊員たちにもそうしてくれって言ってあるよ」

「わりぃな」


 気持ちのよくない話ではある。


「もしかすると、単に奥様襲撃事件に興味を持って、それで目立とうとかそういうやつかも知れんし、あまり深くは考えず、でも一応気をつけてはおいた方がいいだろうな。どっちの可能性もある」


 と、トーヤは一応そう言っておいたが、それでみんなを安心させることはできなかった。

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