3 連絡方法
トーヤとミーヤは黙って顔を見合わせた。
「だからさ」
すっと顔を反らせてトーヤが言う。
「そんなキリエさんの気持ちに応えるためにも、あんたは客殿に来ちゃならねえ。その上で連絡取って色々動いてもらえたら助かるんだが」
「それはいいのですが」
少しミーヤが顔を曇らせる。
「迷惑かな」
「迷惑だなんて」
ふるふると横に首を振った。
「ただ、私にそのようなことができるでしょうか……」
自信なさげに言うのにトーヤが笑い出した。
「何がおかしいのでしょう」
「だってな」
ククククッ、と笑いを収めながら言う。
「あんたは自分がどんだけすごいことしてきたか、もう忘れちまったみたいなんで」
「まあ!」
笑われたことで頬を
「一番すごかったのは、俺は見てないが溺れてみせたことだろ?」
「あれは……」
「それに、俺に話をしようとして飯ひっくり返したりな?」
「それは……」
「それから、出入りも許されてないのにあいつに心を開かせるために奥宮に乗り込んだり」
「それは……」
「それからだな」
「もういいです!」
さらに膨れて横を向く。
それを見てまたトーヤが声を潜めながら、それでも形の上では大笑いする。
「まったく、ぱっと見たら大人しそうに見えるのにな、一体何やらかすか想像もつかねえ。あんたって人間は本当に、だから俺はあんたが……」
そこまで言って一度声を止め、
「……お、面白いんだよ!」
「まあ、失礼ですね、面白いだなんて!」
ミーヤがさらに膨れ、トーヤがさらに笑う。
「頼りにしてるよ」
「分かりました!」
そうしてとりあえず連絡を取れるようにミーヤの今の所属、部屋の場所などと一緒にいくつかの約束事を決めて各々の部屋へと帰った。
「あ、帰ってきた」
侍女の扮装のままのベルが扉が開く音に振り返り、そう言った。
トーヤは出ていった時の扮装、「緋色の戦士」の姿で杖をつきつき戻ってきた。
「よう、どうだった? 話ついたか?」
「ああ」
トーヤはそう言いながら仮面をはずす。
「ふう、はずすとやっぱりスッとするな」
その表情からは話がどうなったのか推測がつかない。無表情のままだ。
「なあ、どうなった?」
「ああ、まあ、なんとかなった」
そう言っておいて、
「そんでな」
「うん、なんだ?」
つかつかと椅子に座っているベルに近寄ると、すっと腕を持ち上げて、ベルの頭上、頭のてっぺんのど真ん中で拳を握ると、
どん!
「!!!!!」
ごく近距離から真下に拳を振り下ろし、ダメージたっぷりのげんこつをベルにお見舞いした! ベルが言葉も出せずに悶絶する。
「ベル!」
「ベル!」
普段、トーヤにはたかれ慣れてるベルを見慣れている2人、アランとシャンタルが思わず声を上げるほどの一撃だった!
アランは急いで妹に駆け寄り、息もできずにいる顔を覗き込み、シャンタルにいたっては急いで治癒魔法をかけた。
「おまえがいらんこと言うから、おかげでこっちはとんでもないことになるとこだった。それでもなんとかなったんで、まあ、そのぐらいで許しといてやるさ」
それだけ言うと、トーヤは鼻歌を歌いながら、
「そんじゃ、俺は風呂行ってくるわ」
そう言ってとっとと部屋を出ていってしまった。
「ベル、大丈夫!?」
普段、何があろうと能天気にトーヤとベルのやり取りを見ているシャンタルが、血相を変えてベルを心配する。そのぐらいダメージのある一発であった。
「……………………っの、や、ろ……」
ベルがやっと息ができたようにそう言う。
顔が苦悩でぐしゃぐしゃになっている。
「治癒魔法かけたからね、もう大丈夫だからね」
シャンタルがベルの背中をさすりながらそう言う。
「い、たかっ、たあああああ!」
絶叫するのを見て、アランがやっと大丈夫とホッとした顔になる。
「もう痛くないだろ?」
シャンタルがそう言うと、
「けどな……痛さの記憶は、消えねえええええ!」
痛みより怒りでそう怒鳴る。
「おい、少し静かにしろ、アーダが来たらどうすんだ」
アランはもいつものように、冷静に戻っている。
「くー……痛かった……鼻と口から脳みそが出たかと思った……トーヤのやつ、本気でやりやがったな……」
「いや、それはない」
アランがきっぱりと言う。
「トーヤが本気だったらな、おまえ、今頃命なかったからな」
そうなのだ。トーヤは人の急所を知り尽くしている。さっきの一撃も、もしも本気だったらあれでベルの頭蓋骨ぐらい破壊してあの世送りにしていただろう。
「くそー! おれが何したってんだよ!」
「それだよ」
アランが冷静に言う。
「おまえ、一体何した? トーヤがあんだけのことするだけのこと言ったんだろ? 何言ったんだよ」
「何って……」
ベルは少し考えて、
「あれかな」
と、トーヤとミーヤに言ったことを2人に伝える。
「あー……」
と、シャンタルが一言言って黙り、
「おまえ、よく無事だったよな、ほんと」
と、アランが呆れる。
「なんだよー」
「こりゃあれだ、勘違いからかなり揉めたな」
アランがそう言って笑う。
「そんなんお互いに確かめりゃなんの問題もないだろうが!」
ベルが憤慨して言うが、
「おまえ、分かってるようで分かってねえんだなあ、やっぱガキだな」
と、アランが笑ってベルの頭を撫でた。
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