18 懐かしい部屋で
ミーヤは迎えに来た侍女見習いと一緒に奥宮の侍女の控室へ足を向けた。
到着すると、その日のまとめや、明日の準備のことなど必要事項を伝え、その他に各々に個別に必要なことを伝えてから解散をした。
「では、また明日も同じ時間に集まって下さい。それから、お部屋へ戻っても侍女らしく慎みを持ち、分からないことなどがあればご自分で見直してみてください。それでも分からないことは、私でも構いませんし、他の侍女の方々に質問などなさってください。それではこれで」
侍女見習いたちも礼を言ってそれぞれの部屋へと戻っていった。
ミーヤは今日の役目から開放され、ほおっと息をつく。
この後は、自室へ戻ってから今日のことを覚書にしておいて、明日に備えて準備をするだけだ。今の役をいただいてから、この10日ほどは毎日この繰り返しである。
(充実したお役目だけれど、その分やはり大変だわ)
一度椅子に腰掛け、肩を回すとコキコキと音がして、随分と凝っているのを感じた。
本来なら、ここで開放されるわけだが、今日はこの後もう一勝負しなければならない。
『三年前からトーヤと一緒に暮らしてます』
まだ若い子だったとミーヤは思った。
見たところ15、6歳? 若く見えるとしたらもう少し上かもしれないが、見た限りは自分がトーヤと知り合ったのと同じぐらいの年齢のように見えた。
「三年前ということは、もしかしたら、まだ13歳ぐらいの時から?」
なんとなく想像をして不愉快な気分になった。
「三年前ということは、私は
もう一度、なんとなく不愉快になる。
「まあ、いいわ。とにかく話を聞いて来ましょう」
そう独り言を口にすると、
奥宮を出て前の宮へ足を向け、客室のあるあたりへ戻り、その中央あたりにある自分が管理を任されている部屋の前に立つ。
隠しから鍵を出し、一応開いているかどうかを確かめる。
開いている。
鍵はこれと、全部の部屋に使えるマスターキーがあるが、そちらは侍女頭のキリエが管理しているはずだ。
一体どうやって開けたのかと考えながら、誰かが見ていたら困ると一応鍵を回して開ける振りをする。
自分が管理を任されている部屋だ、堂々と入る。
ガチャリ
扉を締めて振り返ると、誰かの影がテーブルの横の椅子に座っているのが見える。
『三年前からトーヤと一緒に暮らしてます』
おそらくそういうことなのだろう。
冷静にそう考えながら前へ進む。
「お話ってなんでしょうか?」
トーヤの耳に冷たい響きの声が流れ込んできた。
「あ、ああ」
あまりに冷たいので、なんて言っていいのか分からない。
「とりあえず、ちょっと座ってくれたら助かるんだが」
「長い話なのですか?」
「うーん、どうかな……」
そう言ったまま黙っていると、オレンジ色の侍女はトーヤの向かい側の席に座った。
八年前と同じ位置、同じ向かい側なのに、なんだか遠く感じる。
「あの」
「あの」
2人が同時に発言する。
「どうぞ」
「どうぞ」
また同時。
そのまましばらく黙ったままになる。
「あの」
次に先に口を開いたのはミーヤであった。
「お話って?」
「ああ……」
何からどう話そう。
「どうして中の国の方の振りを?」
「ああ」
何を答えればいいのか分かってホッとする。
「顔をな、隠そうと思って」
「それで仮面を?」
「俺だけじゃなくな、あいつの」
「あいつ?」
言われてミーヤがハッとした顔になる。
「あの、もしかしたら」
聞くまでもなかったはずだ。
トーヤがこの国を去った理由、そして戻ってきた理由。
この宮の侍女であるならば、八年前のあの出来事に立ち会った侍女ならば、どうして一番に思い出さなかったのか。
「ああ」
トーヤが短く返事をする。
「奥様がそうだ」
「そのためですか……」
「ああ」
そうか、先代の、シャンタルの風貌ではこの国にすんなりと入れるはずがない。そのために全身を隠す方法を思いついたのだろう。
そして同じくトーヤも、短い間、数ヶ月とはいえこの国で、この街で、この宮で過ごした者だ、顔を見られるとまずいこともある。
「そうだったのですね」
「ああ……」
2人ともあまり余分なことは話さず、短い言葉で必要な事実だけを伝えあった。
「それで」
「ん?」
「お元気なのですか?」
「ああ、元気だ」
「よかった……」
ミーヤが安心した顔になり、胸の前で両手を組むと、静かに頭を下げた。
トーヤはその姿を正面から見る。
大人びてはいるが、あの時となんら変わっていないような、昨日までもずっと一緒にいたような錯覚に陥る。
(けど……)
『ミーヤさんダルとできちゃったってこと?』
そうなのか?
「あの、ダルは、どうしてる?」
思い切って聞いてみる。
「元気ですよ、元気で月虹兵のお役目に
「そうか、よかった」
「今は月虹兵が30名ほどに増えました」
「そんなにか!」
「ええ、ダルは月虹隊の隊長を務めてます」
「なんだって!」
心底びっくりした。
月虹兵が増えてそんな隊ができているのにも驚いたが、あのダルが、ちょっと弱気なダルが、そんな人数を率いた一隊の隊長になっているなんて。
「そして名目だけですが、トーヤは副隊長ですよ」
「はあ?」
そう言われてトーヤはもっとびっくりした。
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