20 女神の言葉
今回のお茶会も
前回と違うのは、シャンタルがお昼寝の時間になった時、
「こちらにもケガ人がおりますので」
と、一行も失礼することにしたことだ。
アロはもう少し残りたそうな顔ではあったが、さすがに1人だけ残ることもできず、何度も何度も頭を下げ、感謝の言葉を口にして、非常に名残惜しそうに一緒に下ることになった。
一同は下がると一度客殿の部屋へ入る。
「この度はまことに貴重な経験をさせていただきました。いや、本当に感謝いたします」
アロは、今度はそう言って何度も何度も頭を下げる。
「頭を上げてください」
アランが心底恐縮してそう言う。
「お世話になったのはこちらです。そして前回はあのように失礼なことを」
「いや、いやいやいやいや、今にして思えばあのことも非常にお恥ずかしい!」
そう言ってまた頭を下げる。
「自分からあのように思い上がった申し出をするなど、本当に今となってはお恥ずかしい限りです。なんと私は謙虚さが足りなかったのかと!」
「何をおっしゃいますか」
「いえ、おっしゃいますな! なんとお慰めいただこうと、私が、自分で自分を恥ずかしいのです。本当に申し訳なく思っております」
「いえ、こちらこそ大変失礼を」
アロが頭を下げるとアランが下げる、アランが下げるとまたアロも下げる。際限なく続きそうであった。
「アロ様」
仕方ないという風にベルが横から声をかける。
「本当に申し訳ないことをいたしました、とエリス様もおっしゃってらっしゃいます。どうぞそのあたりで」
ゆっくりとそう言われ、ようやく頭を下げるのをやめる。
「そう言っていただくとありがたいことです」
「いえ、こちらこそ」
ストールを取ったベルがにっこりと笑ってそう言う。
「あの、よろしいのですか、お顔をお出しになって」
「ああ」
と、前回のお茶会でのことを話す。
「私は元々侍女で奥様のような誓いもありませんし、このような場所で高貴のお方に顔を隠し続けるのはそれこそ
「さようですか」
「ええ。こうして直接アロ様とお話させていただけることも光栄です」
茶色い瞳茶色い髪の少女にそう言ってにっこり笑われ、アロも照れくさそうに頭をかく。
「それでルーク殿のご体調は」
「ああ」
ベルが顔を向けるとルークがゆっくりと頭を下げてみせる。
「もうかなりいいんですよ。ですが腰はまあ時間がかかるのと、声がまだ出せませんので」
「さようですか」
アランの言葉にアロが少しホッとした顔をする。
「しかし、そんなに似ておりますかなあ……」
思い出したように言う。
「ルギ、とおっしゃる方にですか?」
ベルが食いついた。
トーヤが心の中で舌打ちをする。
「ええ」
「その方はどのようなお方なのです?」
「ああ、さっきもお聞きになられたでしょうが、この宮の警護隊隊長をなさっている方なのですが、何しろ迫力のある方でしてなあ」
「今もいらっしゃるのですか?」
「多分、おられるのではないでしょうかな。私はもう何年もお目にかかっておりませんが」
アロにしても会ったのはあの時、面会室で会っただけだ。
「それと、トーヤとおっしゃる方は?」
こっちこそが聞きたかったことだ。ベルは当時のトーヤのことを絶対聞いてやろうと決めていた。
トーヤが心の中で何回も舌打ちする。
(くそっ、しゃべれないってのがこんなに苦行だったとは思わなかったぜ)
「トーヤ殿はなかなかに愉快な方でいらっしゃいますよ」
愉快と聞いてまたベルが笑いそうになる。
「なんと言いますか、自由な方でしたな。おっしゃることも行動も」
「そうなのですか」
「娘も世話役として少しご一緒させていただいたこともあるようです」
「あら」
「話し方とかは、なんと言いますか、それほど丁寧な方ではいらっしゃいません」
またベルが笑いそうになる。
「ですが誠実な方でして、一生懸命2つの神域のことを考えてくださって、それで私にも定期便を出す気がないか、と勧めてくださったのです。今の私があるのはひとえにあの時のトーヤ殿との話があったから、そう思います」
真面目な顔でそう言われ、ベルも真顔になる。
「八年前にあちらに行く船にお送りして、戻ってこられたら定期便だけではなく、うちの船にも乗ってくださる、ご協力くださるという約束をしておりましたが、今もまだ戻ってこられません。一体どこでどうなさっていらっしゃるのか」
心配そうに言う。
「それで、ディレン殿にお会いした時にも、もしやご存知ではないかと伺ったのですが」
「いや、残念ながら存じ上げなかった」
「そうなのですよ」
また残念そうにそう言う。
「ですが、マユリアもきっと約束を守って戻ってくる、とおっしゃってくださいました。女神のおっしゃること、託宣に近いこと、私もまたお会いできると確信しております。そう思えただけでも、今日ご一緒させていただき、本当によかったと思っております」
ここにきて初めて、ベルもトーヤとアランが以前言っていたことを思い出し、少しだけ怖くなった。
『おまえら、そこのガキが死ねっつーたら死ぬのかよ』
トーヤの言葉を思い出した。
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