17 緋色の戦士
マユリアのお茶会の時に約束した通り、エリス様からシャンタルに装束一式をプレゼントしたところ、大層喜ばれたらしく、
「一度着付けを教えに来てください。その時にまたお茶会をご一緒に」
と、今度はシャンタルから正式な招待状が届いた。
一行は丁寧にそれをお受けし、またお茶会の日時を約束する。
そしてこちらも約束通り、今回は「オーサ商会のアロ会長もご一緒させていただいていいか」と伺ったところ、ぜひにとの返事があり、すぐに連絡をしたらアロが大喜びしたそうだ。
「今度もまた奥宮かな? そうだったら商会のおっさんひっくり返るぐらい喜びそうだな」
ベルが笑いながらそう言う。
「今度はルーク殿もできれば一緒した方がいいんだろうなあ」
アランがそう言う。
「そう思ってな、これ、準備してきてやったぞ」
アルロス号の船長ディレンが、トーヤにあるものを手渡した。
「まず仮面な。何しろ目から口からってことでどうしようかと思ったんだが、そういうのを思いついた」
金属の枠に緋色の革を張った顔の下半分を隠す形のマスク型の仮面である。つけると目から上だけが出る。
「派手な赤だな」
トーヤが仮面を持って裏返したりあっちこっちひねくり回しながら言う。確かにかなり目立つ色だ。
「なんとなくおまえの色って青っぽいだろうが、だから全然違う色にしてみた」
「青っぽいか……」
言われてトーヤの表情にほんの一瞬だけ影がさす。
「ん、なんだ、青は嫌いだったか?」
「いや、確かに俺の色だなと思ってな。確かに青が俺の色だ」
重ねて確認するように言う。
「まあ、ほとんどつけたことがない色の方がごまかしがきく気がする」
「だろ? それからこれな」
今度は黒い、幅が広い鉢巻のような布、左目だけが出るように穴が開けてある。顔の前から巻いて後ろで縛る形だ。
「今度は黒か」
「ああ、赤とよく合ってるだろうが」
「確かに」
まず緋色の仮面を顔の下半分につけてみる。
祭りなどで使う仮面のようだ。
目の下から半分を覆い、耳の上を通した革ベルトを後ろで留める。
その上から黒い布を当て、これも後ろで縛る。
布の上から前髪を半分垂らすと布と髪が一体化したように見える。
後ろの革ベルトや縛り目も髪を適当に出して隠すと目立たなくなる。
辛うじて見えている左目も前髪で隠し気味になるが、包帯のように不自然ではない。少しうつむくとほぼ顔が見えなくなる感じだ。
「へえ、なんかかっこいいな」
トーヤが鏡を見て言う。
「なんか謎の戦士みてえじゃねえかよ」
どうも自分で自分に
「あれだろ、左目だけしか見えてないからかっこい、いて!」
言うまでもなくトーヤがベルを張り倒したのだ。
「それとこれな」
腰を痛めているという設定に、やはり同じく金属の枠に緋色の革を張った、腰の部分を締め付けるガードルのような形の胴着もつける。
太いベルトのようにも見えるが、金具に装飾があるのでおしゃれである。そして剣を下げていても不自然ではない。
「これはあれだな、シャツやズボンも黒や赤がかっこいいな」
すっかり祭りの仮装でもするかのように、楽しそうにトーヤが言う。
「マントも必要かな」
どんどんと要求を出すのに、ベルがディレンに向かってやれやれと肩をすくめて両手を上げてみせる。ディレンがそれを見て楽しそうに笑って見せる。
「まあ、これでなんとかごまかせるだろう。仮面があれば声もくぐもってあまりよく聞こえないしな。あんまりしゃべる気はないが。なんにしろ準備してもらって動きやすくなった。ありがとな」
トーヤが素直にディレンに礼を言う。
そうして、今度のシャンタルのお茶会には、前の4人に加えてオーサ商会のアロ会長と、前回は欠席した「ルーク」も参加することになった。
ディレンがトーヤの要望に答える買い物をして「緋色の戦士」の衣装が一式揃った翌日、思いっきり力の入った白を基調にした正装で現れたアロと、黒と赤を基調にした装束のルークが、この間の顔ぶれと並んで奥宮への廊下を歩いて進む。
すれ違う侍女や神官、そして衛士たちも思わず振り返って見るのは当然のことだろう。
前回と同じくシャンタルの私室、そして同じテーブルに案内される。
アロは大商会の会長としてそれは様々な場所に招待されてきているが、さすがにこれほどきらびやかな空間に足を踏み入れたことはないらしく、冷や汗をかきながら周囲をうろうろと見回していた。
ルークは仮面の効果もあり、一体どこを見て何を考えているか分からない風に見える。初めてこの部屋に来てうろうろと見回さないのも、胴着をつけて動きにくそうなのが理由のようにも思える。
やがて、前回と同じく3人の女神がお茶会の席につく。
「こちらがオーサ商会のアロ会長ですか」
「は、は、はい!」
名前を呼ばれ、急いで片膝をついて深く頭を下げる。軽く震えて入るように見える。
「頭を上げてください」
「はい!」
急いで頭を上げる。
「椅子に座ってくださいな」
「はい!」
マユリアの言葉一つ一つに元気に答えては言われるままに動くのは、見ていてなんだか可愛らしい風景であった。
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