15 外の侍女
「さすが会長のお嬢様、すばらしいです」
アランは正直に感心したことを伝える。
リルのことは少しばかり話を聞いてはいるが、本当に少しだけだ。
ここで情報を引き出すのは有益だ、そう思って話を膨らませることにする。
「では、今もこの宮においでになることもあるんですね。お目にかかる機会があれば光栄です」
「いやいや、娘にもこちらの皆様のことは少しばかり話しております」
「そうなんですか」
「ええ、えらく興味を持ちまして、お会いできればいいなあとか申しておりました」
「それは光栄です」
アランはついでのように聞く。
「外の侍女でしたか、それはお嬢様お一人なんですか?」
「いや、何名かおられますな」
「ほう、みなさまご結婚された後も宮のお仕事をしていらっしゃるのですか」
「ええ、まあ、今のところはまだ十名にも満たない数ですが、月虹兵と同じようにまだもう少し増えるみたいなことは申しておりましたな」
「みなさま元侍女の方なんですね?」
「ええ、そうです。他にも娘と同じく月虹兵とご一緒になって外の侍女をやってらっしゃる方もおられます」
「そうなんですか」
この話は少しばかり妙な空気をもたらした。
「ええ。どうかなさいましたか?」
「あ、いえ、どの方がそうなのかなあ、と思いまして」
「どうでしょうなあ」
そう言ってから、アロが「あ」と口を押さえる。
「いやいや、いけませんぞ?」
「は?」
アランが意味が分からず聞き返す。
「これは、私は少々口が過ぎたかも知れません」
「え?」
やはり意味が分からない。
「いやいや、一部にそういう方もいらっしゃいますが、やはり宮に侍女としてお務めしようとの信念でここにいらっしゃる方々です。あまりそういう目で見るのはいかがかと」
「ああ」
得心した。アロは、アランが誰か自分好みの侍女に声をかけたい、そういう下心があるのではないか、と判断したらしい。
「いや、いやいや、俺はそんなつもりではなく、単にお嬢様の話から、そういうこともあるのか、と考えただけですので」
「さようですか?」
まだ怪しむような目でアランを見る。
「ええ、今は大切な任務中です。ただ、先日ここに来た時にすれ違った侍女の方たちがいらっしゃいましたよね。それからこの部屋の係をしてくださっている侍女の方、見たところ区別がつかないなと思っただけです」
「そうですか? でしたらよろしいのですが」
まだ完全には信じていないようだ。
「ええ。残念ながら、今は全くそんな気にはなれません」
もう一度きっぱりと言う。
「言われてみればそうかも知れませんなあ。あんな出来事があり、ご同僚があんなケガをなさった。いや、失礼いたしました」
アロが深々と頭を下げる。
「いえ、こちらの話の仕方が悪かったです。頭を上げてください」
そう言って笑うと、アロも頭を上げて照れくさそうに笑った。
「いやあ、何しろうちの娘がそういう出会いをして宮を辞しておりますからな。もっとも、娘の場合は元より行儀見習いとして入ったわけでして、適当な時期に退かせてどこぞに縁付けようと思っておりました。それが、月虹兵付きなどというお役をいただきましたので、これはもう生涯を捧げるつもりかと少しばかり覚悟しておりました。それが、そのお役目を共にしておりました月虹兵の方と一緒になりたいと申しまして、そういうことになりました」
「その行儀見習いと言いますのは?」
知っているが、一応アロからは初めて聞く単語だ、説明を求めてみる。
「あ、いや、これは、ご存知なかったですか。宮の侍女には2種類ありましてな。宮からの応募に募集して選ばれ、一生を宮に捧げるとして入る侍女と、うちの娘のように宮のお手伝いをするために一時期を宮で過ごす行儀見習いの侍女の2つがあるのです」
「ほう、それは興味深いお話です。では、応募で入られた方はもう一生ここで過ごすと決めた方たちなのですね」
「いや、一応はという感じです。2つにそう違いはないようです」
アロが軽く否定する。
「応募で入っても途中で出られる方もいらっしゃいますし、行儀見習いで入っても結果的に一生を侍女として過ごすと誓いを立てて道を決める方もいらっしゃいます。確か、今の侍女頭のキリエ様も、最初は行儀見習いで入ったとお聞きしたことが」
「そうなのですか」
これはトーヤも初耳の話であった。
「ええ、そういうことですので、一応区別はありますが、やはりどうなるかは分からぬようですぞ。現に、娘と同じように月虹兵と一緒になって外の侍女をやってらっしゃる方がおられまして、その方は娘の同期ですが、応募で入られた侍女の方です」
この言葉にトーヤは心の奥底が一瞬で冷えた。
「そうなのですか」
「ええ、まあそういうことです。ですので、応募で入ろうが行儀見習いで入ろうが、その者次第、うちの娘などは下手に出来がよく、マユリアにもお気に入られたりしたもので、奥宮への出入りも許され、シャンタルとも言葉を交わしたことがあるとかで、いやもうこれは、と覚悟いたしました」
アロの自慢話もトーヤの耳にはあまり入ってこなくなっていた。
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