6 時が止まった町
トーヤの言葉にディレンは返す言葉がなかった。
「あっちで会ったやつら、親しくなったやつらはどいつもこいつも優しかった。ほんとにびっくりするほど優しいんだよ。こんなんじゃ、俺が生きてた場所じゃあっという間にカモられて終わりだって呆れるほどにな。そんな中に俺と同じく『忌むべき者』になっちまったやつがいた。そいつの名前がルギだ」
聞いて思わず笑う。
「おまえと合いそうなやつだな、なんとなく」
「はあっ?」
トーヤは嫌そうに顔をしかめてそう返事を返しながらも、
「まあ、やなやつだが気に入っちまったような気もするな」
「そうか」
「気に入ったからって仲良くできると限ったもんでもねえし、敵にならねえって決まったもんでもねえ。どっちかってと、もう一回やり合うんじゃねえかって予感の方が強いかな」
「もう一回ってことは、一度やったんだな?」
「ああ、やり損ねたけどな」
ニヤッと笑って見せる。
「よかったなやり損ねて」
「だったのかも知れねえな」
そんな話をしながらのんびりと町の中央を歩く。
「ここが俺の宿だ」
町の中ほどにその宿はあった。
「船客の大部分はこのへんの宿に泊ってるか、もしくは船に戻った。宿に泊まるのももったいないってな」
「そうか、降りなくてもよかったか」
「ああ。だが奥様はそういうわけにはいくまい」
「だな」
馬を預け、ディレンが泊まっている部屋を見に行った。
「あっちの宿と似たようなもんか」
アルディナの安宿と違うのはベッドが1つでソファがないということぐらいか。
「1人半の宿ってのはないな。どうしてもここに一緒に泊まりたかったら同じベッドで窮屈に寝るか、1人は床だ」
「ケチくさいな」
「1人がソファってのとそこまで違うか?」
そう言ってディレンが笑う。
「船長は船にいなくていいのか?」
「船には船員が交代でいるからな。俺はここで色々な連絡を受けて、あっちこっちに手配する仕事がある」
「なるほど」
それなりの意味があって船長は陸のようだ。
「この町で一番力があるのは誰だ?」
トーヤが率直に聞く。
「町長かな。といっても、人のいいじいさんだが」
「ここにはリュセルスの人間が多いのか?」
「アロさんが声をかけた、言ってみりゃあっちこっちの
「なるほど」
大体が思ったような人間の集まりか。
「その割に
「ああ、見た目は人がいいが、中はしっかりした人だ。人望もある」
「まだ小さい町、進む方向の定まった町ならそういうのでいいか」
「そういうこった」
「なんにしろ、たった数年でここまで仕上げたってのはすげえな」
「アロさんの財力あってこそ、じゃねえかな」
「それは大事だな」
「それと宮が後ろ盾ってのもあるだろう」
「ああ、それはもっと大きいかもな」
シャンタリオの人間には宮は絶対だ。リュセルス以西ではやや影響は薄れるものの、それでも皆無というものでもない。
「それであんたに聞きたいことがある」
「なんだ?」
「あっち、どうなってる?」
「どうなってる、とは?」
「いや、あんたの目からどういう国に見えるかなと思ってな。あんたはあの国のどこまで行ったことがある? そんで、どんな話を聞いてる? 何を見た?」
「おいおい、一気にそう聞かれてもな」
そう言って苦笑する。
「そりゃまあそうか。じゃあ、あんたが見てここが変だとかよかったとか、そういうのあったら教えてくれねえか?」
「そりゃま、いいけどな。けど、そう変わったところがあるとも見えなかった気がするぞ」
「あそこがか?」
「俺はカトッティとリュセルスには3回行ったが、あっち着いても用事で忙しくしてるしな。サガンではさすがにちょっと気を抜いてゆっくりできたが、普通のどこにでもある港町だ」
「確かにあそこは他とあんまり変わんねえよな。けど、リュセルスはなーんか妙じゃなかったか?」
「妙?」
「きれい過ぎる、とかな」
「ああ」
ディレンにも思い当たったようだ。
「まあ、そういう店はカトッティの東に集まってたからな。けど、言われてみりゃ、あの町は時が止まったように感じた」
「なるほど、時が止まったか」
トーヤも感じたことをディレンも感じていたことに安心する。
「ってことは、あそこはそう変わってはないってことだな」
「そのへんは分からんが、おまえが言ってることを聞いてなるほどと思うような町だよな」
「そうだな」
「他に古い町にもいくつも行って、そこで似たような感じの町がなかったわけじゃないが、神様が今も生きてるってだけで少し違うのかと思ったことはあった」
「なるほど。そうか、そうだな、今もあそこにシャンタルはいるんだったな」
当時の「次代様」が今のシャンタルなのだ。今も生き神が住まう土地、それがリュセルスだ。
「聞いてもいいか?」
「何をだ?」
「なんであの神様を連れ出した」
「いきなりかよ」
トーヤがディレンの言葉に苦笑した。
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