第27話 討伐軍
≪サンチレイナ領都 ~聖樹教会~≫
「おお、アレクサーヌよ! 死んでしまうとは情けない」
光に包まれて立ち上がるわたくしにシュモネーが声を掛けてきましたの。その目はもうそれは見事なジト目でしたわ。
「こ、これで十二回目ですの……」
レイアとチャールズに聖樹の誓いの儀をしてもらうために、王都に向かったわたくしですが、これが思っていたより遥かに難易度が高かったのですわ。
今回も王都に向う途中、わたくしはリリアナとフレデリックの討伐軍と遭遇し、殺されてしまいましたの。
「またあの二人に邪魔されたのですわ! まったく! わたくしに恨みでもあるのかしら!」
……まぁ確かに? 心当たりはありますわ。
これまで12回も討伐軍に何度も殺されてきた中で、リリアナやフレデリックたちから聞いたことから、大体の事情は察しております。
聖剣を追っていた彼らはローラの眷属に蹴散らされ、一度王都へ逃げ帰っておりますの。
あろうことかフレデリックとリリアナは、国王に対し、わたくしが聖剣を持って魔族たちに協力していると報告したのですわ。
彼らは討伐軍を編成して、サンチレイナ領に向っている途中でしたの。
その目的は聖剣の奪還と、わたくしの首だそうでしてよ。
討伐軍の編成は六千。そのうち騎兵が一千。間違いなくサンチレイナ領を制圧するつもりですわ。
これまで何とか身を隠してやり過ごそうとしましたが、討伐軍の中に異常な索敵能力を持った部隊がいて、必ず彼らに見つかってしまうのです。
「こうなったら……」
わたくしは、教会の中でわたくしが死に戻るのを待っていたシュモネーをグッと睨みつけましたの。
「えっ……と、前にも言いましたが、私が介入するのは難しいことをご了承いただきたいというか……」
シュモネーは、わたくしの睨みを避けるようにして、言い訳を始めましたのよ。
王墓で出会ったときのシュモネーからすれば、えらい変わりようですわ。以前なら、相談する前からキッパリと断りを入れていたはずですの。
まさにこういうときのために、これまでサンチレイナ家で最高の待遇をしてきましたのよ。今では両親もシュモネーを家族の一員として受け入れているのですわ。なんとなれば、シュモネーを長兄の嫁にと母上は考えていて、色々画策しているようですのよ。
とはいえ、何でも頼めるとは思っておりません。何せ彼女はこの世界の理を越えた存在ですの。
「あまり無茶を言うつもりもありません。お願いは二つ。ひとつは討伐軍をやり過ごすためにローラに力を貸して貰いたいのですわ。これは問題ありませんわよね?」
「え、えぇ。ローラさんが了承されたのでしたら」
これで「シュモネーが問題ないって言ってましたわ!」とローラを言いくるめるための言質が取れましたの。
「それでシュモネー様には、討伐軍を殲滅……」
シュモネーの柳眉が高く上がりました。まぁ、当然ですわね。
「……なんて無茶は言いませんわ。討伐軍がサンチレイナ領に入って来ようとしたときに足止めしていただくだけでいいのです。足止め! わたくしが王都から戻るまでの間、お願いしますわ」
「あ、足止め……それだけでしたら……」
よっし! ですわ! シュモネーに足止めをお願いすることに成功しましたの!
六千もの軍勢を足止めする方法なんて、わたくしにはまったく想像がつきません。しかし、シュモネーにとっては超簡単なことのはずですわ。
「それじゃ、今すぐ出発しますわ! シュモネー様、後のことは頼みましたわよ!」
「えっ!? アッ!? ハ、ハイ!」
わたくしは、シュモネーが困惑から回復するのを待たず、全力疾走で教会を飛び出しましたの。
そのままサンチレイナ邸に戻り、メイド神拳の指導を受けていたローラを言いくるめました。
「わかった。お姉さまが良いって言ったなら、アレクサを手伝ってあげる」
ローラの返事を聞いた瞬間、わたくしは馬に跨り、ローラを前に乗せ、聖剣ハリアグリムを背負って、一路王都へと向かいました。
善は急げですのよ!
~ 討伐軍 ~
馬に乗って走っている間、わたくしはローラに討伐軍への対処をお願いしましたの。
「んっ、全員殺しちゃって良い?」
そう言ってわたくしを見上げるローラの瞳が妖しく輝き始めました。久しぶりに見た殲滅姫としてのローラの顔に、わたくしは背筋が凍る思いをしましたわ。
「もちろん駄目ですわ! ローラには人間と魔族の共存を目指す素敵な
「そ、そうよね! わかった! じゃぁ、殺すのは最小限にしてあげる!」
んーっ、ゼロにはできなかったですの。
とはいえ、討伐軍はわたくしを殺し、聖剣を奪い、サンチレイナ領を犯そうとしているのですから仕方ないですわね。
やがて街道の先に、サンチレイナ領に向う討伐軍が見えてまいりました。
まだ遠くて見えませんけれど、先頭にリリアナとフレデリックがいるのは間違いありません。
「このまま正面から突っ切ろうと思いますの。それで大丈夫かしら?」
わたくしの問いに、ローラが再び殲滅姫としての目を輝かせて、こう答えました。
「構わない」
ローラがそう答えた瞬間、わたくしは背後に物凄い圧を感じましたわ。
振り返ると、
わたしたちの後ろの空に、
無数の魔族が羽ばたいておりました。
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