第15話 最高火力の聖剣ゲット
シュモネーが要求する善行値は間違いなくクリアしているはず……。
ところが、聖剣ハリアグリムをわたくしに渡そうとする直前になってシュモネーはその手を止めましたの。
「な、なんですの……」
わたくしの困惑を見て異常を察したレイアとチャールズに緊張が走っているのが背中から感じられましたわ。
「ジィィィィィ」
シュモネーの瞳がまっすぐにわたくしを捉えています。もしかして、ゲームと違って善行値以外のパラメータが関与しているのでしょうか。もしそのパラメータをクリアしていなかったら、やはりシュモネーとの戦いになってしまいますの?
その場合まず勝ち目はありませんわ。いまのわたくしたちの実力では彼女から逃げ切ることも難しいでしょう。その先に待っているのは全滅エンドしか想像できません。
「ジィィィィィ」
「な、なんですの!? 何かご不満でも!?」
わたくしの声に今更気が付いたかのような感じで、シュモネーは少し驚いた表情を浮かべつつ聖剣ハリアグリムを渡してくれました。
「あっ、いえ……失礼しました。こちらをどうぞ」
「あ、ありがとうございます?」
最悪、戦闘を覚悟したわたくしは拍子が抜けてしまいました。
「えっと……その……行ってもよろしいかしら?」
「ええ」
シュモネーに色々と聞いてみたいことはありましたが、下手に地雷を踏んで全滅なんてことにならないよう、さっさとこの場を去ることを優先するのですわ。
「さっ、お二人とも王都へ戻りますわよ!」
「あっ、ああ……」
「ええっと、この方はこのままにしておいていいのですか?」
レイアが余計なことを言い出しました。
「あの……」
ほら見たことですわ! シュモネーが反応してしまったじゃないですの!
「なな、なんですの?」
「あの……大変申し訳ないのですが、今は王歴何年でしょうか? あと出来れば現在の王都の場所も……ハリアグリムのときと同じですか?」
シュモネーの奇妙な質問に戸惑いながらもレイアが答えましたわ。
「王歴って……古代の暦ですか。ハリアグリム王の時代からは二千年以上経っていますよ」
「ハリアグリム時代の王都跡はここよりずっと北方だ。現在の王都とは全く違う場所であることは間違いないだろうな」
「そうですか……では現在の王都の場所を教えていただけますか」
「王都へ行って何をするつもりですの?」
王国神話に付随する伝説のひとつを思い出し、わたくしの背中に冷たいものが走りました。
「神の使徒、都に下りて人々の不道徳と乱行を嘆く。その与えられし権限により炎と水を以て穢れを払う。その後、森が都を覆い全ての人々は土へ還った……」
レイアが神話伝承の一節を口にする。
「いえ、あれは違うんです! 違うんですよ! 事故、事故なんです! そもそもわたしはアレを放置しておくのはマズイですよって何度も警告してたのに……」
シュモネーが慌てふためいて何やら弁明を始めましたわ。何を言っているのか意味はさっぱりわかりませんでしたが。
「まさかあなた王都を滅ぼすおつもりですの!?」
わたくしを含めた三人の顔がさっと青ざめました。
「いえいえ!王都に向かうのはただ観光です! サイトシーイング! 物見遊山です! レジャーです!」
「観光!? 観光で王都を滅ぼすつもりですの!?」
「なにをどうすれば観光で王都を滅ぼせるのか興味はありますが、とりあえず『王都を滅ぼす』つもりはありませんし、わたしにはそんな力もありませんから!」
「シュモネー様は汚れた世界に神の怒りをもたらす使徒だったりは……」
レイアが恐る恐る尋ねましたの。
「しません! そもそもわたしがここにいたのはヒーさんとの約束『聖剣を彼の条件に適った人物に渡す』というのを果たすためで、それ以外の理由はありませんよ!」
「ヒーさん?」
「きっとヒエロニムス王のことですわ」
「ヒエロニムス王との約束を果たすために千年もここにいたというのか」
「ほとんどスリープ状態で待機していましたけれど、時折この場所に入ってくる方がいらっしゃるので、その際には対応させていただきました」
そういってシュモネーが指さした方向に注意を向けると、広間の端に幾つもの石棺が置かれているのが見えました。
「コッ、コホン!」
シュモネーが咳払いをして皆の注目を集めましたわ。何かやましいことでもあるのでしょうか。もちろん藪蛇をつつくなんてマネはしませんけれど。
「と……とにかく、ヒーさんとの約束は果たしましたのでわたくしの役目はこれで終了です。解放されたら世界一周ぶらり旅って決めてましたので、これからそうするつもりです」
「そうでしたの。それなら安心ですわね……なーんて言いながら、実は王都を滅ぼすつもりだったり……」
「しません」
「実は世界を……」
「滅ぼしません」
「アレクサ……その、もうその辺にしておいた方が良いのではないか?」
「そうですよ。失礼が過ぎます。仮にもヒエロニムス王のご友人……ということでよろしいのでしょうか」
「ええ。その友人の最後の願いで、その聖剣を預かったのです。ああ、そういえば聖剣がふさわしくない者の手に渡ったときは、取り戻すか破壊するかしてくれとも言われてました」
「「!」」
レイアとチャールズはシュモネーの言葉を聞いて思わず後ずさりしました。わたくしは逆に顎を突き上げてシュモネーを睨みつけてやりましたわ。まったく! わたくしが聖剣に相応しくないとでも言いたいのでしょか。
「とりあえずは正しいものの手に渡せたようで安心です」
わたくしの心を読みでもしたのか、シュモネーは柔和な笑みを浮かべてそう言いました。
もちろんそうでしょうとも!
とにもかくにも、これで最高火力の神話武器をゲットしましたわ!
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