第14話 王墓の守り手シュモネー
≪王家の谷 ~王墓宮殿~≫
王墓宮殿内にも敵は沸いて出ましたけれど、ソロのときと違って三人もいるのでサクサク進んでいきましたわ。余裕があったので、わたくしなんて一撃で仕留めるヘッドオフ攻撃だけ使って技の練習をさせていただきました。
サクサク敵の首を刈っているうちに、あっという間に地下最奥にある祭壇へと辿り着いてしまいました。地下とは思えないほどの荘厳な広間の奥には、巨大なハリアグリムの彫像が立っておりますの。
「これが古の英雄王ハリアグリムの墓所か……」
チャールズが感慨深げにつぶやきました。
「祭壇の前に何かいます!」
彫像の足元の祭壇に人影を見つけたレイアがエルフィンリュートを構えて警告を発します。
「大丈夫ですわ。お二人とも武器はお納めになってくださいまし」
わたしは二人を制止して、ゆっくりと祭壇前へと歩いて行きましたの。
祭壇の前には、一人の女性が両手で剣を抱くようにして立っていました。微動だにせず静かに佇むその姿を見て、
「これは人形……なのか?」
チャールズがそんな感想を口にしました。
「いいえ、彼女こそこの王墓の守り手シュモネー。そして彼女の手にあるのが聖剣ハリアグリムですわ」
「彼女と戦うのですか?」
レイアが不安げな視線をわたくしに向けました。レイアの気持ちはわかりますわ。シュモネーの顔立ちや細身の身体にはどことなく神話世界を想起させる美しさがあり、その艶やかな銀色の髪は毛先近くで黄色と赤に染められていますの。頭部には棒状の飾りが二本あって、それがこの世のものならざる違和感を醸しだしていますわ。
シュモネーの白磁のように透き通った白い肌に刃を突き立てるなんて、想像するだけでも嫌になりましてよ。でも、そもそも戦う必要なんてないのですわ。
「いいえ。お話をするだけですわ。お二人はそのままお待ちになって」
そう言ってわたくしはシュモネーの正面に進み、膝をついて頭を垂れました。
パアァァァァァッ
謎の効果音と共に頭上より謎のスポットライトがシュモネーを照らしましたわ。その神々しい風景をみたレイアとチャールズはその場に膝をついて頭を垂れました。
「汝、聖剣を求むる者であれば、我が前にて礼を執るがよい」
その言葉を受けて、わたくしも膝をつき礼を捧げました。すると、シュモネーはニッコリと微笑み、アイドルっぽい横ピースを決めましたの。
「ジィィィィィ」
わざわざ口に出してシュモネーはわたくしのことをじっくりと観察していました。
「彼女はいったい何をしているのですか?」
当惑したレイアがわたくしに問いかけてきましたわ。
「ジィィィィ……美少女 ~善行値計測中~」
わたくしが答えようとする前にシュモネーが表情を変えずにそう言いましたわ。それにしても自分のことを美少女なんて顔色ひとつ変えずに言い切るなんて相当ですわね。
≪善行値クリアしました≫
「やりましたわ!」
視界に浮かんだメッセージにわたくしは思わず声を上げてしまいました。
ゲームの本筋としては、聖剣ハリアグリムはリリアナが所持する設定になっていますの。主人公格の中でもドがつくほどのメインキャラであるリリアナの武器ということもあって、最高の性能を持っているのですわ。
物理では最高の火力を弾き出す上、剣というクセのない扱いやすさから初心者から上級者まで人気の武器ですの。ただし、リリアナ以外がこの武器を手にしようとするのは結構難題ですのよ。
リリアナ以外で聖剣を手に入れる最も手っ取り早い方法は、このシュモネーを倒して奪うことなのですけれど、彼女は『ゲームバランス的にどうなの?』というくらいの強敵。一般的には、選択した主人公格キャラの神話武器を入手した後、ようやく挑戦できるかどうかというところですわ。
難易度的にはラスボスよりもやっかいですし、ゲームクリアにおいてシュモネーとの対戦は必須条件ではないですの。なので自分の好きなキャラで聖剣を振り回したいという動機でもなければ、わざわざチャレンジすることもありませんわ。
シュモネーがゲームと同じく強者であれば、今のわたくしたち三人でシュモネーに挑んだとしても、勝つことなんて到底できそうにありません。とはいえ聖剣を手に入れる方法は他にもあるので問題はありませんわ。そしてその方法というのが『善行抜け』ですの。
リリアナ以外の者にシュモネーが聖剣を渡す相手を見極める基準は善行値。これはその名の通り『善い行い』をしたときにカウントされる値で、イベントをこなしたり、特定の敵を倒すことで累積していきますの。
順調にゲームを進めていけば、終盤頃にはシュモネーが要求する善行値の基準をクリアすることができるようになるにはなりますわ。でも今はそんな悠長なことをしている余裕がないので、わたくしの知っているちょっとした裏技でこれまで善行値を貯めてきたのですわ。
一度シュモネーから聖剣ハリアグリムを受け取ってさえしまえば、これまで細々と積み重ねてきたような善行を続ける必要はなくなりましてよ。浮気現場発覚の修羅場に割り込んで仲裁したり、道で拾った金貨袋をわざわざ持ち主を見つけて返したり、こちらを見向きもしない
だって今までの善行は、すべて聖剣を安全に手に入れるためだけにやってきたことですもの!
シュモネーがわたくしの瞳を見つめて告げましたわ。
「貴方は聖剣を受け取るに相応し……い?」
なぜ疑問形ですの!? なぜ首を傾げますの!?
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