神話武器集め
第5話 王都 ~聖樹教会~
レイアはわたくしの眼をじっと見つめて考え込み始めました。時間が経てば教会にも王宮のニュースが入ってきて、わたくしがアレクサーヌであるとレイアにも信じてもらえるかもしれません。
しかし、わたくしは超急いでいますの。拠点を開放したいだけでなく、早急に実現したいことがあるのですわ。
ゲームではアレクサーヌ断罪イベントの後、王国に対する魔王国の侵攻が始まりますの。実際に王国まで攻め入ってくるのは半年後ですが、その先触れとして王国内で魔物によるスプラッターな事件が多発するようになっていくのですわ。
さらに最悪なことにサンチレイア侯爵領は魔王軍侵攻の進路上にあるのです。なので一刻も早く魔王軍の侵攻を止めるか、最悪でも進路を変える必要があるのですわ。
「レイア様、わたくしを怪しむのは当然のことと存じますが、まずは聖樹に祈りを捧げることをお許しいただけませんか?」
「確かにそうですね。ではどうぞお入りください。お祈りが終わったら詳しく話を聞かせていただきますので」
レイアに導かれて、わたくしは大聖堂最奥部にある祈りの場へ向いましたの。
この世界にはいくつもの宗教が存在していますが、その多くが【世界樹】の原神話をベースに生まれているのですわ。聖樹教会もそのひとつであり、聖樹教会は世界樹の苗木と呼ばれる樹木【ミスティリナ】を守り、その力によって人々を救うという教義を持っていますの。
聖樹教会の大聖堂はミスティリナの樹木を中心に据えて建てられていて、わたくしはそのミスティリナの前に跪きましたわ。
「聖なる哉、聖なる哉、母なる大樹よ。救いの枝を以て我らを罪から救い給い、
わたくしが聖樹へ祈りの言葉を捧げると、わたくしを取り囲むように光の輪が出現しました。その光が消えると共に視界にメッセージが浮かびます。
≪拠点:聖樹教会を解放しました≫
「!」
「やりましたわ!」
「何をですか!?」
レイアはわたくしの周囲に光が現れたことに驚いていましたが、すぐに我に返ってわたくしの言葉に反応しました。
「もちろん聖樹にお祈りを捧げることができたことですわ」
「な、なるほど。それにしても今の光は……」
「お気になさらず。それよりも大切なお話がございますわ」
ゲームにおいては主人公格のキャラクターが拠点で祈りを捧げる際に光が出現するのですが、わたくしはNPCだったので光が出現しない可能性もありましたの。光が出現したということは、この世界においてわたくしは主人公格の存在として扱われているということですわ。きっと……たぶん?
このことをレイアに対して説明するのはとても面倒くさいですし、どうせ信じてもらえるとも思えないので、わたくしは即座に話を逸らすことにしました。
「話というのは、貴方がアレクサーヌ嬢であると信じろということか?」
「いいえ。聖樹に祝福されしエルフィンリュートの所在についてですわ」
「神話武器だと!!」
常に冷静沈着なレイアの切れ長の目がこれでもかというほど大きく開かれ、瞳孔が小さくなりました。ちょと引きました。怖いですの。
「どこにあるか知っているというのか!?」
「わたくしがご案内いたしましょう」
レイアの動揺する様子が見て取れますわ。もしわたくしが祈りを捧げているときに光が現れるのを見ていなければ、彼女はわたくしの話を一蹴していたことでしょう。
でも光は現れました。聖樹教会ではこの光をもってレイアを聖者候補として認定しています。これまではレイア以外の誰が祈っても光が現れることはなかったのでしょう。だとしたら彼女が困惑するのは無理からぬことです。
「あなたは、本当にアレクサーヌ嬢なのですか……」
「はい。それ以外の何者でもありませんわ」
自分で言うのも恥ずかしいのですが、貴族社会よりも、庶民――特に貧困層においてはわたくしの名を好意を持って口にする方は多いはずですわ。ちなみにリリアナは庶民ではありますが貧しさを知らない上流社会の出身。上昇志向の強い家庭に育ったこともあって、貧困層には接点も関心も持っていなかったようですわ。
これまでのわたくしは孤児院や戦傷兵士協会へ可能な限りの寄付を続け、貧民街にある教会へ頻繁に顔を出して子供たちの相手をしたり、配給や治療のお手伝いするのを楽しみとしていましたの。そのせいで貴族社会での付き合いが減り、多くの誤解を生むことになってしまったのですが。
そういう事情もあって、貧困者の支援を行っている聖樹教会においてアレクサーヌの名はそれなりに知られてはいたようですの。
「いまは訳あってこのように殿方の服装をしておりますが、聖樹に誓ってわたくしはサンチレイア侯爵家子女アレクサーヌですわ」
「聖樹に誓うというのであれば信じよう。だがもし聖樹を愚弄したことが明らかとなれば、私がタルタロスの業火となって貴方を魂まで焼き滅ぼす」
レイアの脅しはまったく効かないですわ。だってわたくしがアレクサーヌ本人ですもの。
「とにかく時間がありませんの。これから【エルフィンリュート】の元へご案内いたしますので、すぐにご支度を」
レイアはまだ躊躇していました。まぁ、慎重になるのは当然ですわ。
「道中、詳しくご説明申し上げます。その上でわたくしのことが――アレクサーヌ・サンチレイナのことがどうしても信用できないとなれば、お引き返しになれば良いだけですわ」
「うーむ……」
「それと、できればボンバルディア様もご一緒に同行を」
「チャ……ボンバルディア修士を!?」
レイアがクールなキャラに似合わない女子の裏声を上げました。
(かかったな!ですわ)
なんて思ったわたくしはやはり悪役令嬢なのかもしれないですわ。
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