ぼくをこっぴどく振った元カノが大人気グラビアアイドルになって迫ってくるけど、それより新しい恋人が欲しい

ラマンおいどん

第1話 玄関を開けたら、自分を振った元カノがいた

 夜中の11時にピンポンを連打されて仕方なく出たら、元カノがいて死ぬほど驚いた。


「やあキミ、夜分遅くに申し訳ない」

「なっ、リッカ!? いったいどうしたのさ!?」

「とりあえず中に入れてくれないか? いまボクは、死ぬほど疲れているんだ」


 入れたくねー、とアパートの住人である神田川シロは痛切に思った。

 なにしろ一年以上前、まだ中学生だった頃にこっぴどく振られた元カノである。

 けれど玄関で押し問答をしていては、他の住人に迷惑が掛かることは間違いない。

 ただでさえここのアパートは壁が薄いのだ。


「……どうぞ」

「すまない。お邪魔するよ……やあ、生活に必要なものが凝縮された、侘び寂びのあるいい部屋じゃあないか」

「あのさリッカ、家賃5万のワンルームを無理矢理褒めなくてもいいからね?」

「無理矢理なもんか。知ってるかいキミ、茶道において茶室は四畳半が至高なんだそうだ。つまり部屋の広さなぞそれで必要十分、それ以上は大きすぎるということさ」

「それはどうでもいいけど、なんでリッカは服を脱ぎだしてるのかな?」

「キミも知ってのとおり、ボクは家ではくつろぐ主義でね」

「いつからリッカは男の知り合いの家でも平気で服を脱ぐ痴女になったのさ」

「ばかを言え。普通ならこんなことはしないが、キミ相手には今さらボクのはしたない姿を見せても恥ずかしがる理由がない。なんたってキミは元カレだからね。だから特別さ」

「そんな特別はいらないんだけどね?」


 シロがやれやれと嘆息する。

 元カノこと六郷リッカは、別れた後もなにも変わっていないようだった。

 少なくともその独特の口調や、傍若無人ぶりなんかは。


「それでリッカ、こんな夜中に一体どうしたの?」

「ああそれなんだが。──最近のボクは、それこそ目が回るほどに忙しくてね」

「そうだろうね」


 今やテレビやネットニュースで、リッカの名前を見ない日は無い。

 およそ一年ちょっと前にシロと別れたリッカは、その後にグラビアアイドルとしてデビューして、またたく間にぶっちぎりのトップへと登り詰めた。

 なにしろリッカのデビュー動画は、わずか半年でなんと1000億回もの再生回数を稼いだのだ。

 今では全世界で、毎日10億人以上の男がリッカの動画でオナっているとさえ言われていた。無駄死にする精子の数は推定で毎日1.2京とかなんとか。


「それでそのめっちゃ忙しいスーパー売れっ子グラビアアイドルの六郷リッカさんが、どうしてこんなボロアパートに? あれ、ひょっとしてカメラ入ってる?」

「ボクの元カレを突撃訪問、ってかい? 無論そんな下世話な企画も山ほど来ているらしいがね、ボクはプライベートを切り売りする安い人間じゃないぞ。ましてや他人のプライベートなどネタにするはずもない」

「それは知ってるけどさ」

「じつは最近、ボクはあまりにも疲れてしまって、寝付きが悪くて肌も荒れてしまったのでね。ここらでひさびさに、キミにマッサージしてもらおうかなと思い立ったのさ。ついでに互いの近況でも語り合おうじゃないか」

「……ええ?」


 付き合っていた当時、シロはリッカによくマッサージをしていた。

 なにしろリッカは胸が滅茶苦茶大きい。

 それも生半可な巨乳ではない。

 デビュー数ヶ月で、世のグラビアアイドルをまとめて葬り去ってしまうくらいにバストが激しく膨らんでいる。

 ついでにウエストは折れそうなほど細く、上向きのヒップは健康的なお肉がパンパンに張り詰めていた。


「リッカならマネージャーでもテレビ局の人でも、近くにいる男に頼めば喜んでマッサージしてくれると思うけど?」

「ボクは身体が目的のエロ男に揉まれたいわけじゃない。身も心も疲れを癒したいだけなんだぞ」

「ならプロのマッサージを呼べばいいのに」

「それは理屈だね。でも残念ながら、キミより上手いマッサージ師にはいまだ出会えていないのさ」

「さすがにそれは言い過ぎだと思うよ?」

「まあとりあえずキミ、今日のところはお願いするよ。もちろんお礼はするから」

「……別にいいけど」


 審議は疑わしいけれどプロのマッサージ師より上手いとおだてられたうえ、美少女グラドルに正面からお願いされてはシロも弱い。だって男の子だもの。

 健全な青少年たるもの、振られた元カノへの苦手意識とは別に股間は正直。

 それが生理現象というものなのだ。


「ねえリッカ、マッサージが終わったら帰ってよ? ぼくは明日も学校なんだから」

「ボクだって明日も仕事さ。学校に行く暇も無いくらいね」

「でもボクの家に来る暇はあるんだ?」

「当然だろう。キミのマッサージと学校、どっちが大事だと思ってるんだ」


 そう言いながらベッドにうつ伏せになったリッカの胸元から、押し潰された乳肉がまるでなにかの冗談みたいに左右に広がる。

 今のリッカを写真に撮ってアップしたら超バズるんだろうな、なんて思いながらシロはリッカの全身を丹念に揉みほぐしていく。


「……あん♡」

「へんなエロ声出さないでよ。ただのマッサージだからね?」

「だって、久しぶりのキミのマッサージ、あまりに最高すぎて……はううんっ♡ しょ、しょこ気持ち良すぎっ♡」

「リッカってば、マッサージ受けるたびにこんな声上げてるの?」

「しょんなことない♡ キミだけっ♡ キミだけだぞっ♡」

「……なら別にいいけど」


 こっぴどく振られた元カノにマッサージしてヘンな声を出されるというのは、なんとも複雑な気持ちになることをシロは初めて知った。

 自分の腕で気持ち良くさせて嬉しい気持ち。

 リッカって本当にエロ可愛いよね、という男子の本能。

 でもぼく、こっぴどく振られてるしという深い悲しみ。


 結局、リッカへのマッサージは深夜の一時過ぎまで続いた。

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