#.15 冒険
道すがら既に何匹かのスライムを狩っているケビンとシエラの姿を応援しながら僕はのんびりと彼らの後を追っていた。
「よし、いいぞ頑張れ!」
「アル師匠私たちに任せて絶対楽してますよね?」
「そうだぞサボるな!」
「なんだよ、ケビンの望んでいた冒険だろう?」
本来であれば目的地には馬車で向かう筈だったので、目的地に向かう為の冒険らしい冒険というものは行う予定はなかった。
僕は冒険に行くよと誘ったシエラとケビンのことを僕は騙したとも言えるけど、結果として冒険出来ているのだから問題ない。
因みにロディも誘おうと思ったけど普通に断られたよ。
でも、まさかのユピルガに向かう馬車の存在が消滅していたとはね。
ユピルガという町は大きな町ではない。
大きな町でない場合に直通の馬車というのは原則ない。有名な公共事業があれば話は別だけど、基本的に利用するお客さん自体がいないからだ。
乗るお客さんを増やす為に馬車は小さな町を大きな町との中継地点にすることで、利用する人を増やしている。
ユピルガ方面にある大きな町というと、ラシェルの祖父の家系ナッシュ家の旧領地が存在する。
しかし、その家は潰したから当然そっちの町は栄えていない。つまり、僕が馬車の道を1本潰したことになるのだが……気にしたら負けだ。
あの家を潰れるべくして潰れたのだ。
よく見れば勿体ないからとシエラは狩ったスライムの剥ぎ取りを始めていた。そのスライムも売れば駄菓子買うくらいの金にはなるかな。
「アル師匠、スライムの剥ぎ取り部位ってどこ取ればいいんですか?」
「えっ、なんか核っぽいやつ」
「わからないですって、見てくださいよ!」
液体のような物が当たり一面に散らばっており、そこにスライムの核があるのか少し山のように盛り上がっている。
結構わかりやすくないか?
僕がそのスライムの山に手を突っ込んで形が残っている部分に触れる。透明でブルブルとした心筋のような形をしているその部位僕はゆっくりとすくい上げた。
「ほら」
「えっ気持ちわる」
「シエラが欲しがったんだろ」
とはいえ、スライムの部位が持ち運びにくいことには変わりない。水に近いためそのまま放置しても周囲にさほど影響は出ないので冒険者の中では放置が安定とはなっている。
「何かスライムとはいえ、核はもっと持ち運びやすい物と思っていました……ごめんなさい」
「これも勉強だよ」
そういえば、町で今までの生涯を過ごしいて外に出ていないって人も中には存在する。孤児院出身であれば、スライムのことを見たことない知らないとかそういうこともあったのか。
「ユピルガはあとどれ位なんですか?」
「ん? あと少しだよ」
幸いなことにユピルガの近くの小さい町までの直通馬車は存在していたので、そこまでは馬車で行きユピルガへは歩きで行くことになったというわけだ。
「足が痛い……疲れた」
「ほら、ケビンしっかり歩けよ」
「止めろよ尻を叩くな! 大体何であの馬車あんなに乗り心地が悪いんだよ!」
「あぁ、私も初めて馬車乗りましたけど2度と乗りたくない乗り心地でしたね」
「ま、帰りも乗るけどな」
小さい町への直通というのはその多くが体操乗り心地がよろしくない。いや、何も馬車が悪いんじゃない道が悪いんだ。
大きな町を中継する場合そこには必ず綺麗に整備された道がある。
金がある大きな町は他のところから人は来て欲しいから道は整備する。
だけど、小さな町には金がない。道を整備するにも金がかかるから1度作った道の整備がかなり甘くなる。
「くそっ、何でボクがこんなことを」
「冒険にどんな夢見てたか知らないけど、大抵そんなものだぞ」
酷い時には馬車だって使えない、どこに死があるかも分からない未開の地に探索しに行くことがだってある。それを楽しいと思えるなら別にいいんだけどさ。
そういう人種もいるし。
そうして僕たちはゆっくりとユピルガに向かって進んでいた筈だった。
「2人とも下がっていろ」
「そんなに不味い魔物なんですか?」
「オーガだ、あぁぁ嘘だ」
ケビンの言う通りで僕の倍の体の大きさを誇るその魔物の名前をオーガ、本来こんなところにいる筈のない魔物だ。
「どうしてこんなところにオーガが」
「フンッ!」
オーガの振るった金棒のような大きな骨を僕は回避しながら考える。本来、オーガのような強力な魔物は町の近くでは見ない。
元々賢く姿を見せないのもあるが、居れば冒険者が狩るからだ。
もしかして冒険者を使うことをケチったのか?
「まずは小手調べだ」
魔法陣を起動してオーガの視線を僕の方に誘導する。
「
僕の放った氷の刃は致命傷を与えることはなかったが、オーガの体を容易く切り裂き傷付ける。
表皮がそこまで硬いという訳ではないから、この位のオーガであれば僕1人でも大した苦労もなく狩れるだろう。
そう油断していた。
「
「グッガアアアアアア!」
「馬鹿ッ! 下がっていろって言っただろ!」
ケビンが放った炎の槍がオーガに当たる。たったそれだけのことで僕の作った状況は一変した。
放った弱々しい魔術程度では致命傷にならずに、狙いが生徒たちに移り彼らに向かって攻撃をしようとする。
「下がって――っ!」
「くそっ、
シエラが即座に力を発動してケビンの前に立つが、オーガの一撃を受ければどうなるかわかったものでもない。
僕が防ごうと短絡展開を発動させるよりも早く、誰かが僕たちの間に割って入った。
「よっと」
その男はオーガの一撃を軽く受け止めると、何とオーガと鍔迫り合いになり押し退ける。
「……アゼル」
「久しぶりだな、アルフォンス」
久しぶりに出会った友達は久しく呼ばなかった僕の名前を懐かしい声ともにそう呼んだ。
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