#.13 決着
コドルが魔術で起こした大洪水。
魔術による掌握された水がシエラを濡らして身体に重しを乗せたように体を重くし、体力を少しずつ奪っている。
それにも関わらず重しを感じさせないような動きでシエラはコドルに対して距離を詰める。
黒く淀んだ魔力を吐き出しながらシエラは体勢を低く取った、体を低くしたその姿は傍から見れば四足歩行の獣にも見える。
「気分が悪い」
そう吐き出すコドルだったが、その口角は上がり目は血走るほど大きく見開かれる。
まるでその姿を待ち望んでいたかのように。
「ガッ!」
ただ、小さく抑え込んでいた声が唸るようして吐き出される。
シエラはコドルの怪我をしている腕の方に回り込むと、拳で殴り掛かる。
「ぬぅ、オラァ!」
防御しきれなかったコドルはシエラの殴りを受けるが、その時思いっきりシエラの腹を怪我をしている腕で殴り飛ばした。
「――ッ!?」
重い拳での一撃を受けたシエラが闘技場の中央まで戻される。
それは今日の戦いで初めてシエラがまともに受けた肉体的なダメージであった。
吹き飛ばされたシエラは魔力で形成された爪を両手に出した。その爪は燃えるように炎が上がっている。
それを見てコドルは魔法陣を起動した。
先程コドルが起こした大洪水により闘技場はコドルが掌握した魔素によって作られた水が残っている。
「
起動した魔法陣は周囲の濡れた水が形を取って、まるで大きなタコの怪物のように触手のような水の鞭が形をとる。
コドルが軽く手を振るとその動きに連動するようにして1本の水の鞭がシエラに向かって振るわれた。
「があ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」
打ち付けられたところが抉り取られるようにして高圧の水はシエラの肉を削いで血が吹き出す。
「グルルルルッ!」
シエラが避けることを棄てて自身の作り出した爪で迎撃する。焼き切るようにして蒸発させるとシエラとコドルの距離は少しずつ詰まっていく。
シエラから滴れ落ちる血は地面に広がる水と混ざり合い、闘技場が少しずつ赤く染まっていく。
「ククッ、ハハハハハハハ」
それを見てコドルは1人笑っていた。
「――良いんですか?」
ティムが黒く淀んだ魔力を放つシエラを見て止めなくていいのか、と聞いてきた。
僕はシエラのその姿を観察する。
狼のような耳を生やし身体能力は普段の倍は上、なるほど確かに足りない部分を上乗せするには余りあるくらいには強い。
魔術も使えるようで普段使っている魔術よりも威力はあるように見える、それは純粋に肉体が強化されて魔力に対する許容量も増えているということも意味しているのだろう。
何よりロディの時のように命を削っているという印象は受けない。
ロディに与えられた力の完成形……いや、こっちが正しい姿であるというべきか。
その姿は魔物と称するのに謙遜ないくらいには完成されている。
「何、ティムは止めると思ってたの?」
「はい、僕としてはこの力を見れただけで満足ですが先生は止めると思ってました」
「何で?」
「先生はあの力のこと好きではないですよね?」
それは勿論好きか好きじゃないか、で聞かれたら好きじゃないけどさ。死ぬリスクがないなら止める理由も特にない。
ただ、理性がないっぽいのは不安だが。
「まぁ大丈夫だろな」
「随分余裕がありますね教え子があんな姿になっているのに」
ティムがそう言って闘技場の方を見ると、辺りには血が飛び散って闘技場は真っ赤に染まっている。
見ているものの中には血の臭いにやらて気分が悪くなっているものすら存在する。
「死なすよりマシだろ」
「言ってくれますね」
僕の皮肉をティムはさらりと流す。
思ったことを言うのであれば、何か理由があるのだろうとしか言えない。
何せこの戦いは勝てる戦いだったのだから。
「なんで態々力を使ってのかは知らないけどさ、まだあいつはもう1つの魔術も使ってないしね」
シエラに言われて知ったけれどシエラの本来の得意な属性は風じゃない。今無意識で使っているであろう炎の方だ。
――ふと間があった。
コドルが振るった手に水の鞭の反応が悪くなっている。少しずつ、少しずつシエラに対して鞭が当たらなくなっている。
「っち、どうしてだ! どうして当たらないっ!」
コドルが そう言いながら水の触手の方を見る、その触手は色を変え濁るように赤く染まっている。
地面に撒いた水を起点にしているのだから、血は個人の魔力を象徴する。
溢れた血に侵食された水の掌握は他人の魔力を掌握するという矛盾を内包し崩壊する。
いつしか水の触手は形を保てなくなっていた。
「コドルさん満足出来ましたか?」
黒い魔力は消え去り耳が消えたシエラがコドルの方を見てそう尋ねた。
「満足、一体何の話だ?」
「私最初に言いましたよね、ぶつけたいなら私に全部ぶつけろって」
シエラはコドルに対して静かに怒っていた。
「私に攻撃出来なかったんですよね。あの子の友達である私に」
「そんな訳ないだろう」
「いいえありますね」
まともにコドルがシエラを殴った時など存在しない。それは全て力を使った後の話だ。
コドルは常に水の魔術や持久戦でシエラの体力や気力を奪うような戦いに注力していた。
「現に俺はこうしてぶつけて――」
「――全部私が力を使ってからの話じゃないですか、私はコドルさんに勝ちたいっ!」
それがシエラの本心だった。手加減されていたとわかったからコドルが憎んでやまない力を使って力を使わせた。
「本気で来てください、全部超えてみせるので」
その言葉を聞いた時、穏やかに笑ってコドルはシエラを見ていた。
「――あぁ認めよう。お前は強いよ
「
コドルの組んだ魔法陣が闘技場を飲み込むほどに大きく展開される。
対して、シエラの組んでいる炎の魔術が色を変え緑が少しずつ混ざる。それはアルフォンスが使った
「――【
「――【
観客が悲鳴を上げるほどの大きな魔術のぶつかり合いが起きた。【デリュージ】で起こした大洪水が小さく見えるほどの水と、シエラの組んだ最大級の炎の魔術はお互いを削り合い爆発した。
爆風と水蒸気による煙が少しずつ晴れると、競技場には倒れ伏したシエラに向かってアルフォンスは歩いて近寄った。
もう戦いは終わった。
「――アル師匠、試合どうなりました?」
倒れ伏して体の動かせないシエラはアルフォンスにそう尋ねる。
アルフォンスがコドルに視線を向けるとコドルは両手を上げながら小さく首を振った。
「あぁお前の勝ちだよ」
「そうですかそれは良かったです」
その言葉に満足したのかシエラは静かに眠る。
対して、コドルは立ち上がると静かに競技場を立ち去ろうとしたところにアルフォンスは声をかけた。
「いいのか、去年は使ってなかっただろ? 競技祭で使う為の魔術だったんだろ?」
「良いんですよ、俺はシエラの思いに応えるに相応しいと思ったから使ったんです」
そう答えたコドルの横顔はどこか影の取れた清々しい顔をしているようにアルフォンスは見えた。
「保健室まで僕が連れていこうか?」
「先生俺にもカッコつけさせてくれ……競技祭までにはもっと強くなっている、シエラにもそう伝えてください」
「わかったよ」
1人で体を引き摺るようにして帰っていくコドルの姿を見送ると、アルフォンスはシエラを抱えて保健室に向かった。
その姿を1人の少年が競技場の観客に紛れて見ている。その目にはどこか情景の光が浮かんでいるのにはまだ誰も気が付かない。
――――――
テンボ重視して今まで駆け足で書いたけど、描きたいシーンかけたので余は満足。幕間2のコドル妹話は書けたら上げるって方針で行きます、
まだ#13なんだけど#30までにはこの話終わる予定なんだ……多分ね?
フォロー、応援や感想、レビューとか私だってホシいいい!!!
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