#10.5 内側
アルフォンスがみんなで戦いっておいて、とだけ残して校舎に向かって走っていく後ろ姿をロディとスージーは見送っていた。
「私がこの中で最弱か」
対して、シエラは1人三角座りをして落ち込んでいた。そこに自分の力が及ばないことに関する悔しさのような悲痛感はない。
「シエラちゃんそんなに落ち込まないでよー」
「そうだね、もう1回お願い出来る?」
「そうだねやろっか!」
アルフォンスが戦っておいてと言ったこともあり、シエラはすぐに気を取り直してスージーと戦いを始めようと距離を取る。
「じゃあロディ合図出して!」
「悪いスージーちょっと待ってくれ、シエラ」
「何?」
スージーとの距離が開いたまま、ロディはシエラに近づくとスージーには聞こえて欲しくないのか少し声を抑えて話しかけた。
「どうしたの?」
「これは純粋な疑問だから気を悪くしないでくれ、お前こんなに弱かったか?」
「素の私は最初からこの程度だったよ」
ロディの声色に変化はない。純粋に疑問に思ったから口に出しただけといった問いかけに対して、シエラは淡々と事実を述べる。
「そうか」
それだけでロディにも事情は察せられたようで一言だけ相槌を返す。
「早く始めたいんだけど」
「あぁ悪い。ついでに言っておくけど、俺も実験は協力するの止めた」
「止めたって、勿体ないとは思わないの?」
この学院で実験に参加する人間は多い。
最も簡単に力が手に入るということもあるが、協力して優秀な成績を残したまま卒業出来た場合に報酬として幾つかの職場にコネで就職出来るようになる。
望めば宮廷魔術師団への内定だって取れるようになるだろう。
実験に参加する人間の8割はそれを目的にしていると言えば、その立場にどれだけの価値があるか分かるだろう。
ロディの成績は優秀だ。あのまま行けば、きっと内定だって貰えていただろう。
「思わないな。俺は死にかけたっていうのが理由って言いたいけど」
「それだけで十分な理由だと思うけど」
「いや、たった1回しか勝てない力貰ったって嬉しくなかったんだよなぁ」
辺境の貴族の出自であり、周囲との繋がりも深かいスージーとロディとの間には昔からそれなりの交友があった。
場所が変われば、流行る遊びだって子供の中では変わっていく。そんな中で唯一2人の間で共通の遊びが魔術だった。
しかし、魔術に関してのスージーの才能は1級品であったことはロディの人生を大きく変えることになる。
ロディは未だスージーに対して魔術で挑んで勝てたことがない。
それでもスージーはロディと魔術を遊ぶのが楽しかったらしい。いや、そもそもスージーに対して魔術で食らいつけるだけの人間が周りに存在していなかったからだろう。
2人の遊び道具はいつまでも魔術だった。
「初めはただの意地だよ。どうしてもスージーに勝ちたくて、その力が欲しくて実験に参加した」
それとは対照的にスージーは雑に断っていたことだけはロディも聞いている。楽しくなさそうだからいいや、と。
「だけどさ、実際に実験で貰える力を使ってわかったのは結局のところ虚しくなるだけってことだ」
「欲しかった力が手に入ったのに?」
「なんて言えばいいんだろ、ほんとに遊び道具だったんだよな俺達にとって魔術って」
シエラにとって、死んでまで貰える力は嬉しくないし欲しくもない。だから、友達を死なせるティムに対してどこまでも嫌悪して怒りを見せた。
だけど、当の本人すら望んでいたものを手に入れた時に虚しくなるというのはどういうことなのか、シエラにはよくわからなかった。
「怖くなったってこと?」
「別に死ぬのが怖くなった訳じゃなかったよ。ただ、やり直しも効かない1度しか一緒に遊べないって面白くないだろ」
「もぉ、早く始めようよ! 妬いちゃうなー」
2人が話しているのを見て、頬を膨らませて私怒っていますという風な表情を見せるスージーにロディは手で止める。待ての姿勢だ。
「あとちょっとだけだから!」
「ほんとにー?」
「ほんとほんと」
と、ここまで長く色々と喋ってきたのだけれど肝心のどうしてこんなことを話しているのか、という部分をシエラは聞いていない。
「で、何が言いたいの?」
「いや、俺のこと毛嫌いしてたかは立場明確にしとこうってな」
ロディは言った。
「シエラは俺より先に止めてったから、俺と同じように何かに気付いたんだろう?」
その影響で失う前じゃなく、失ってから気付いたのだからロディの思っていることとは違うとシエラはその言葉を否定しようと来て止めた。
「じゃ、スージーもう大丈夫だぞ!」
「待ちくたびれたよ!」
ぶんぶんと腕を振るってアピールする姿を見ながらロディは苦笑を浮かべると、シエラに向かって一言激励をかけた。
「じゃあ、頑張れスージーは強いから」
「うん」
空返事だ。
シエラは今考え事をしていて適当に相槌を打っていた。だけど、ロディはそれに気が付かなかったらしい。
「よーい、始め!」
「いっくよ!
「えっ、ちょっ待――」
開始の宣言をしてしまったが為に考え事をしていたシエラに対して、スージーの魔術が直撃した。
「シエラちゃん!?」
岩の小さな弾丸が仰向けで思いっきり吹っ飛んで、そのままシエラは気絶した。
「シエラちゃああああん!」
「一体何があったの?」
戻ってきたアルフォンスが見たのはうわんうわんと泣きながら気絶するシエラを抱き抱えるスージーの姿だった。
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