ラブソングに似ている

@nunu_12

ラブソングに似ている

何分待とうが何時間待とうが何年待とうが君は来ないだろう。


ホテルのロビーラウンジで少しの期待を持っている。その少しの期待からか花束を持って来ている僕。花束と言っても一輪だけの赤色のチューリップを職場の近くにあるお洒落なカフェや雑貨店が並ぶ通りにある花屋で買っただけだ。待ち合わせの午後三時よりも三十分早くついた僕はその一輪だけの花束を優しく目の前のテーブルに置いた。


待ち合わせまであと十五分。待つ間少しでも落ち着こうと一杯のコーヒーを頼んだ。だが緊張しているのかいまいち味がわからない。ただコーヒー特有の苦味だけはなんとなく分かるが特有の酸味など他の味はわからない。僕の座っている席はちょうどホテルの三つの回転扉が見ることが出来る場所にいる。僕の周りにはお茶をして雑談をしているおばさま方やインスタ映えなどを狙って来たのかアフタヌーンティーを楽しんでいる大学生ぐらいの年齢の女子たち。高そうスーツを来て新聞を読みながら商談相手なのか誰かを待っているであろう少し小太りの中年の男性が窓側の席でドサっと座っていたり様々な理由でこのホテルのラウンジにいるのが分かる。僕もその一人である。


待ち合わせまであと五分。窓側に座っていた小太りの中年男性のもとには待ち合わせをしていたであろう相手が来て雑談をしながらパソコンやタブレットを出して話している。おばさまたちも先ほどよりも会話が進んでいる。女子たちもアフタヌーンティーの二段目も終わり等になっている。そして僕の待ち人は変わらずこない。


 待ち合わせの時間を三十分過ぎても僕の待ち人は来ない。一杯目に飲んだコーヒーは無くなりラウンジのスタッフが気を利かせてもう一杯注いでくれた物も半分ほど飲んだがもう冷め切ってしまった。おばさま方はもういない。アフタヌーンティーを楽しんでいた女子たちも食べ終わり帰りの準備をしながら身なりを少し整え始めた。僕の目の前に置いているチューリップも心なしか華やかさは感じない。


また三十分が過ぎ僕は、椅子の背もたれにもたれかかりながら少しネクタイを緩めホテル特有の立派はシャンデリアが飾られている豪華な天井を眺めた。それから十分ぐらいしてから左胸ポケットにいていたスマホが揺れた。それを取り出し僕は、画面をみた。そこには僕の待ち人ではない番号。そしてそこに公衆電話と映し出されていた。普段の僕なら出ないがこの時ばかりは出てしまった。


「…もしもし」

「…ごめんなさい。」

「…。いいですよ。」

そうして電話は切れた。


僕は泣くわけでも無く、目の間に置いた一輪のチューリップを見てため息をし、首を少し傾けて回転扉の向こう側をみた。



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