男子学生

駅構内の狂っぽー

第1話

 大学受験は我々の人生を決めるといっても過言でないことは日本に住んでいる高校生以上の人であれば身に染みて理解できるのではないか。現実から逃避した先で現実を突きつけることは中々残酷ではあるかもしれないが、これは本題ではないからして私の話を聞いてほしい。

 かくいう私は現在高校三年生で、小学四年の時分からかれこれ七年ぶりに塾というものに通うことになった。久方ぶりの塾が私にとっては異世界と表現しても差し支えないレベルの空間なのではないかという懸念があることは先に明言しておく。それは主に女生徒との交流が発生するからである。というのも私は私立の男子校に現在在籍しており、前に女子と同じ空間で勉学に励んだのはかれこれ三年前になる。(といっても勉学に励んだこと自体も三年以上遡らなければいけないかもしれないが)

 この特殊な事情が私の進学を妨げるかと思っていたが、現実はそうではなかった。塾初日が終了した。端的に言えば、塾という場所では女子との交流など一切発生しなかった。そういえば現実とはそんなものであった。ドラマもロマンティックもくそもへったくれもない、ただのむき出しのノスタルジーだけがそこに自己主張の強いトイレの芳香剤みたいに漂っている。これが現実だったのだ。話はこの翌日から始まる。

 翌日、いつものように自転車で登校すると教室には既に旭川がいた。旭川は私と似た者同士であるというだけで半年ほど前からつるんでいる不思議なやつである。彼も私も変わり者と称されることがあるが,私からしてみれば彼のほうがよっぽど不思議な人間であることは間違いない。旭川に昨日の落胆と事の顛末を伝えると、彼は呆れたような顔をした。

「昨日の話、真面目に言ってたとは思わなかった」

どうやら、私の話を真に受けていなかったらしい旭川は続ける。

「塾で出会いがあることは事実かもしれないけれど、それをものに出来るならそもそも塾に行かずとも、今頃そこらへんでナンパでもして何人も女の子を手籠めにしてると思わない?」

「ソウオモイマス」

彼の言葉は私の不純で純粋な願いを打ち砕いた。

「女子と話せるからって何になるのさ、どうせどもって何も言えないんだろう?

「全くその通りでございます」

彼の言うことは毒っぽくはあるが、しっかりと私という人間の本質を突いていた。

「そもそもさ、塾って勉強しに行くところだからね」

私はもう何も言えなくなっていた。

「すぐホームルーム始まるから準備しなよ」

何故私は平日の朝にここまで惨めな気持ちにならなければならないのだろうか。朝の教室の賑やかさから置き去りにされて私の憂鬱な一日は幕を開けた。

 あれからというもの、塾で女子をあまり意識することが無くなった。邪念が消えたのか。否、旭川の言葉が何かにつけて私の頭の中で靄のように薄く広がって私の邪魔をするのだ。直に英語の授業が塾で始まろうというのに、私の頭は旭川のあの冷ややかな目線と彼が愛飲する知的炭酸飲料の独特な香りで溢れかえってしまっている。

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男子学生 駅構内の狂っぽー @ayata0224

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