淫乱紗理奈の初恋

廣丸 豪

第1話 八木沢紗理奈の幸福

 私が幼稚園に入園したばかりの頃、父が亡くなった。スキルス性の胃がんで、発見されたときにはすでに手遅れだったそうだ。葬式では大泣きしたらしいが、私には実の父親の記憶がほとんどない。


 生命保険のおかげで都心のターミナル駅から三十分ほどの駅にある2LDKのマンションのローンは完済され、さしあたり困らないくらいのお金も残ったらしい。母は看護師として働き続け、私は、時として寂しい思いをすることはあったけど、生活に不自由することなく小学生になった。


 私たち母子の生活に大きな転機が訪れたのは、私が小学校三年の時だった、母の木下優香が草野球でアキレス腱を断裂して入院していた八木沢健司と恋仲になり、めでたく再婚することになった。私は木下紗理奈から八木沢紗理奈になった。

 一人暮らしをしていた八木沢のお兄ちゃんが新しいパパとして私たちの住むマンションに引っ越してきて、家族三人の新しい生活が始まった。父親というものを知らなかった私にとって、母の再婚は嬉しいことであり、私は新しいパパにすぐに親しんだ。義父も私を実の娘同様にとてもかわいがってくれた。

 それまで友達が父親の話をするたびに寂しい想いをしてきた私にとって、母より五歳年下の若々しいパパは私の自慢だった。


 それは私が小学校五年生になったある夜のことだった。尿意を感じて目が覚めた私がトイレに行こうと部屋を出ると、両親の寝室から母の獣じみた唸り声が聞こえてきた。ママに大変なことが起きたのではと、私はおそるおそる寝室に近づき、ドアを少しだけ開けて覗いてみた。


 さして広くない両親の寝室は、そのほとんどのスペースを真新しいダブルベッドが占有していた。そのベッドサイドのかすかな灯りの中に、逞しい身体の義父とやや肉付きの良い母が全裸で絡み合う姿が浮かび上がった。

 最初は、ママが狐憑きになって、パパがそれを必死に抑えているのかと思った。

ママは口を半開きにして、間の抜けた、でもどこか神々しくもある表情をしていた。子供心に、ママは苦しんでいるのではない。気持ちよくて悦んでいるのだと分かった。パパがエッチな悪魔を召喚して、ママを生贄に儀式を行っているのかと思いなおした。

 

 普段の二人からは想像もつかない、両親のグロテスクな行為に、私の目は釘付けになった。

 パパが来る前はこの部屋で並べて布団を敷いて寝ていたのに、パパが来てこのベッドを買ってからは、ママは私と一緒に寝てくれることはなくなった。それはこんな儀式をするためだったのだ。

 私はママが心底羨ましかった。私を仲間外れにして、こっそりパパを独り占めして、ママはずるいと思った。私もママみたいにされて気持ちよくなりたいとも思った。

 

 母がひときわ大きな声を上げ、身体を痙攣させで義父にしがみついた。生贄の役割を果たし終えたママは、ぐったりと身体をベッドに投げ出して満足げな表情をうかべていた。

 私はそっとドアを閉め、部屋に戻った。ベッドに横になってパジャマの下に手を入れると、そこは熱く、しっとりと湿っていた。


 しっかり者のママと優しいパパが全裸で絡み合う姿は、私にとって、網膜から消し去ることができない、あまりにも強烈で衝撃的な映像だった。思い出すと必ず熱くなる、ママと違ってまだ幼い私の女性の部分。それを小さな自分の指で撫でると甘美な電流が身体に流れる。

 私は、毎夜この行為にふけるようになった。


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