第153話 黒い雲 3

 セアラは語る。


 先ずはフレヤがひとりで行こうとしていた事と、それから意図せずメッセージを『乗せて』しまった経緯から始まった。


 そうなれば取り敢えずの話題は、この広い空で見失ったフレヤを……偶然以外でどうやって見つけ出したのか?


 あの、陽炎かげろうよりも朧げで儚く、空気のゆらぎの様な色の無い影……


「そう!それがワタシ…いえっ、私達が見つけた新たな力……私はこれを『ゴーストピクチャーズ』と名付けましぃたっ!!」


 思いきり振りかぶったセアラが満を辞して得意満面に言った。ところが、ソフィアとエラが顔を見合わせて……


「セアラ?あなた……アーサラさんとソノ話をちゃんとしましたの?」


「え?アノハナシーは言いそびれてそのまんま……してなかったケド、どして?」


 すると二人は、また目を見合わせて頷いた。


「あのねセアラちゃん……私はあの日、帰ってすぐにアノ話をお母さんにしたらね、思い出したようにこう言われたの……『あ!ああ…アレね?ええ、ええ……勿論知っているわよ』て、苦笑いされた……」


「え……え??ええーーっ!?」


 ふたりはさぞや驚いて感心されるに違いないと思っていたのに、驚かされたのは逆にセアラの方だった。


「何でっ?!どゆこと?え、じゃあ、まさかエラさんも??」


「そ、そうですわね。お母さまもお婆さまも…やはりご存知のご様子で、私が少し興奮してせいかクスクスと笑っていらしたわ……」


 セアラの眉尻がピクピクと動く。


「ええ?待ってまって……ということは、もしやお母さんも知ってるってこと?」


「そうでしょうね。皆んな知っている、と、お母さまもおっしゃっていたし。だから当然、セアラも話を聞いているものかと……」


「な……な、な、なんでーーーっ?!じゃあ私たちのビッグディスカバリーはーーっ?!何でお母さんは今まで教えてくれなかったのよー??」


 どちらにしてもテンションの下がらないセアラは二人に苦笑いされることになった。


「うぅ……挙句にふたりにそんな顔をされて…………。ん?苦笑い……?ソフィアさん、何でオリアナさんは苦笑いしてたの?そもそも、何で私達のお母さんはこの力の事を教えてくれなかったの……?」


 これは聞き返しているはずだとセアラは身を乗り出した。


「へ、片利共生……」


 そう呟いたソフィアにセアラが首を捻る。


「one-sided symbiosis《片利共生》?」


「うん。場合によって無遠慮なこの力はなんとも使いづらい、て……」


「どゆこと?」


「親しき仲にも礼儀あり…という事ですわ、セアラ……」


「ん?」


 エラを見て今度は逆に首を曲げる。


「あぁ、つまり……プライバシーてこと?」


「そうですわね。私が聞かされた話では、この力は大人になってから発現することがほとんどのようです。ただ中には、一度もこの力を知ること無く生涯を過ごした者もいたようですわ」


「へ、へぇ……それじゃあ人によるんだ」


「ええ。そして、コレは大切な誰かを見つけたい時には、自分が魔女に生まれて本当に良かったと思える力……例えば、自分の子供が迷子になってしまった時ですとか、例えば、昨日のあなたのようなとき……」


「お?ええ、ええ…でも私は、魔女に生まれついた事をいつも感謝していますけどね!」


 セアラが鼻を膨らませて胸を張る。


「そうですわね。でも、いくら親しくても、たとえ家族であっても監視するような事はしたくはないでしょう?」


「ん、んん……私は構わないけど、たしかに『探す』方はちょっと気が引けるかなぁ。もっともフレヤさんには全然、気兼ねなんかしないけど」


 すると、エラは意外そうな顔をした。


「あら…ワタクシ達にも気を遣っていないように見えていたけれど……?」


「えぇー、遣ってますよー!もちょっと攻めたいトコロを我慢してるものー」


 エラは身じろぐ……


「そ、そうでしたの?」


「粘着体質は親ゆずりですから」


「体質…ですの、それ?」


「ベトベトです!」


「べと……っ?!」


 セアラが組みつこうと身構えるとエラは更に身を引いて、ソフィアは楽しそうに笑った。


「ウフフ…結局ね、セアラちゃん……お母さん達もこの力に気がついてからしばらくして、この力について皆んなと話をしてみたら……誰もが気兼ねして進んでは使わないようにしていたらしいの……」


「ほうほう……」


「それでね…この力は時には救いにもなるけど知らなければそれでもいいし、あえてこだわったり、無理に継承する必要は無い……そう結論したんだって…………」


「ふうむ、つまりは覗き見するようで後ろめたかった、と……。まあ、それなりに納得……要は使いどころだね?」


 コクコクと頷いて事の経緯には納得するが……何かの『つかえ』を気にして考え込んでいた。


「ナニ?セアラちゃん?」


「ん…でもね、コノ事については納得できるし、お母さん達の言う事は分かるけどね、あの日…私達がメイポールに集まったことは偶然とは思えないし、この力だけでは…というか、ちょっと違う何かに導かれたような……?」


 議題とは少し外れたセアラの言う事に意表をつかれ、しかしエラとソフィアも答えが出せずに困惑していた。

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