第92話 First fight 3
イプスウィッチを飛び立った全機が無事に帰還した。しばらくぶりの実戦の後……操縦席で大きく息を吐く者もいれば、無事を感謝して愛機にキスを贈る者もいる。
アトキンズの場合は自分の
そして犠牲者の出なかった帰還の後は大抵が賑やかになった。
「うおーっ、やっぱり!!横っ腹に穴が開いてるーっ!おろしたてだったのにー……ニコルズさーん!」
「いちいち騒ぐなっそんなもの。ツバでも付けとけよ……」
降りるやいなや機体に開いた弾痕を見つけて騒ぎだしたアルドリッジのアタマをオルドリーニが
しかし、操縦席から手の届く場所に刻まれたこの擦り傷、リーアムにとって死にかけた今日の傷跡は、彼の心にも傷痕を残す特別なものになった。
彼はそのキズを撫でてからアトキンズの元に歩み寄っていった。
「アトキンズ少佐……」
「!、おう、お疲れさん」
「あの……ありがとうございました。あの時呼び掛けてくれたのは、少佐ですよね?」
アトキンズはそう聞かれると頭を掻いて
「……ああ、いや…すまなかったな。サポートが間に合わなくて俺も焦ったよ……」
「いえっ、的確なサポートでした!おかげで命拾いしましたよ」
こぶしを突き出したリーアムにアトキンズは小さな息を吐いた。
「まあ、ホッとしたよ。それにしても、あのユンカースは上手かったな……?」
「ですよね?どうしても捉えられなかったし、ああも上手く誘いこめるものなんですね?」
「そうだな。あのパイロットの常套手段なのか、咄嗟にBfのパイロットからそう指示を受けたのか……どちらにしてもそう簡単に出来る事じゃあないな」
「忘れませんよ、この経験は!せっかく生きて帰ってきましたから……」
リーアムは右の拳を左手に叩きつけた。
「そうか。人は死にはぐれると強くなるというが……でも、無茶はするなよ?戦争は一時だが、君の人生はまだ長い……これからも生きて帰ることこそが、強さの証明だぞ?」
「もちろん死ぬつもりなんか無いですよ!」
リーアムは若者らしく怖さに向き合ってもそれを強さに変えて前に進もうとしている。そしてニカっと不敵に笑おうとしていた。
「それにしても流石でしたね、少佐。あの立ち回りには驚きましたよー。もう、ただ唖然としているあっという間に立て続けに2機を中破ですからねえ、さすがのウデマエです!」
「ああ、アレはウデじゃなくてタイミングだよ。誰にでも出来ることだぞ?」
「は?え…タイミング……?」
アトキンズの言うことに首を傾げる。
「先頭にいたJuは俺たちを見つけてから旋回を始めただろう?」
「はあ……」
リーアムは頼りなく頷く。
「おそらくコッチの射程に入る前に旋回出来ると踏んで、パイロットの注意は後ろから追ってくる友軍に向いていたんだよ。だからこちらから見れば無防備に横を見せていたよな……?」
「ええ…と、そうですかね……でも近づけばすぐに…あっそうか!」
「そうだ、だから下から相手の翼に隠れて近づいたんだよ。コッチからコックピットが見えないようにすれば向こうからも見えないだろう?それにうまいことに降下を利用してスピードを乗せることも出来るシチュエーションだったしな」
段々と強く頷くようになる。
「たしかにっ」
「ましてや護衛機も忙しくてあまりこちらに注意をしていなかった。どうだ?そう考えるとかなり楽な状況じゃなかったか?」
「はい!奇襲を掛けるにはもってこいです」
冷静に思い返してみるとあのJuの動きは
「だから散開の指示で俺は飛び出した。それに2機目のBfも同じだぞ。アイツはJuが撃たれて慌ててソッチに向かって行ったろ?俺が真上に居るのを無視してな。まあ、いくらJuを守るのが最優先でもあれも迂闊な行動だったな」
「な、なるほど……敵の技量も分からないのに、勝手に判断して隙を作ってしまった……と」
「そういうことだ。敵をナメてかかればああなるということだ」
リーアムは腕を組んでアトキンズの言う事を噛みしめた。しかし、
「ううむ……少佐の言う通り、だとは思いますが……やっぱり誰にでも出来ることじゃ無いですよ。特にあの射撃の精度には鳥肌が立ちました、ヤバいです」
「先ずは状況を把握して素早く動くことだ。流れを作ることが出来れば攻めるにも逃げるにも余裕ができるからな。お前はその流れに乗せられて誘い込まれたんだよ」
「!、は…はい!」
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