ギュゲースの指輪

hanetori.

第1話 序章 血脈


 血脈……


 もう人々の記憶からは薄れるほど遠い昔のことになるのだろう……この空と、そして飛ぶ事を愛してやまない、男と女がいた。





「ゴーールぅーーーっ!完璧なフライトですっそして当然ノーペナルティのタイムはっ?!1分0秒525ーー!第5戦エアレースインジャパンっ、優勝は第4戦に続きテレシア・アトキンズがさらっていったーーーっ!!」


 気がつけば人類最速の女性パイロットと注目されるようになっていた。エアレースの人気が高まっている今はそこそこ有名人にもなった。しかし、コクピットのカメラに手を振る今のこの私に、本当にこんな鉄の翼が必要だったのかは…正直分からない。


 でも私は…受け継がれてきた『血脈』の欲求に従ってパイロットになった。


 まだ私が幼い頃、長生きだった私の曽祖母は以前、彼女越しに空を見上げる小さな私に大空を背負ってこんな事を言っていた。


「テレシア…この自由の空を自分のものにしたいのなら、誰よりも速く、そして華麗に舞わないとね……?」


 空を見上げてそんな話しを誇らしげに語っていた曽祖母は、晴天の夜に飛ぶことが何より好きだと言っていた。そしてそれは曽祖父も同じで、どんなデートよりも楽しかったのは何度もふたりだけで夜空を舞っていた、当時の思い出だと話してくれた……


 私はいつもレースの後は、昂ぶった心を冷やすために夜空に浮かびながら2人のことを…曽祖母と祖母、そして母が聞かせてくれた話しを思い出し、その物語を自分に語っている。いつか恋人が出来て結婚をして、自分の娘に話して聞かせる日のために……


 私はテレシア・アトキンズ、曽祖父は英国義勇軍エースパイロット、そして曽祖母は……『魔女』だった。


 ああ、因みにおばあちゃんと母さんは今も元気だけどね……!

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