おばばの嘘

大西元希

おばばの嘘

とある町に、日本人なのに金髪の美しい髪を持った少女がいました。

 町の住民は少女のことを良くは思わず、虐げました。

 これはそんなお話です。


 金髪の髪を靡かせて歩く少女——赤宮 アリサ。

 町は木造住宅で、暖かい木の雰囲気がそこにはありました。

 住民は和気あいあいとしていて、とても楽しそうです。

 市場で買い物を始めるアリサ。リンゴを手に持ち、店主にこれが欲しいと頼みました。

「お前、ニホンガイジンだろ。無理無理、帰れよ。お前に渡す商品はねーよ」

 アリサに侮蔑の眼差しを向けます。

 困るアリサ。

「でも、私は買い物がしたいのよ」

「だったら隣町のおばばに髪を染める呪文をかけてもらうんだな」

 おばばとは、隣町に住む魔女のことです。アリサは噂でおばばのことを知っていました。その噂はおばばが人を貪り食べる、というものでした。それを思い出してアリサは店主に、行きたくない、と言いました。

「いーや。じゃねーと店の物は渡せねーよ。他の店でも同じだろう。皆んなお前を目の敵にしているからな」

 ガハハ、と笑う店主。

 下唇を噛んでフツフツと沸き起こる怒りを堪えました。

 しょうがなく、アリサは帰ることにしました。

 その帰り道で、図体のでかい少年たちに驚かされました。

「よぉ、ニホンガイジンよ。金持ってんだろ」

「持ってないよ」

 必死にサイフを隠そうとします。でもそれが見つかります。

「持ってんじゃねーかよ」

 丸坊主に殴られ、地面に疼くまるアリサ。転がるサイフ。それをしめしめと手に持って、金を抜き取ります。

「じゃーな」

 笑いながら立ち去る少年達。恨めしくその後ろ姿を見つめる。


 家に帰ると、何も買ってこなかったアリサに父は激昂しました。

「何をやってたんだ。金まで使い果たしてきて。このヤロー」

 右の頬を殴られ、その痛みで涙がぽつぽつと溢れてきます。

「ごめんなさい」

 苦しくて、悔しくて、どうしようもなく怖いけれど、アリサは生きるために謝ります。

「もういい、明日、おばばのところに行ってこい。お前なんか食べられてしまえ」

 アリサは頷きます。自分の意見は通らないと分かっているからです。

 アリサのその日の夕飯は抜きでした。スープを啜る音を立てる父。それが聞こえないようにアリサは布団の中で耳を塞いでいました。


「おばばにはもう伝えている。もう帰ってこなくていいからな」

「分かりました」

 アリサは父との別れを悲しまずに、死ぬ覚悟で家を出ました。

 不気味な森の中に入るとアリサは体が震えました。体の防衛本能がこの森の奥に行くことを拒んでいるからです。

 一羽のカラスが空を飛んでいました。そのカラスはアリサのことを睨んでいたような気がしました。

 突如現れた古びた屋敷。そこがおばばの家です。

 蔦が這いずり回っている門をあけて、屋敷の中に入ります。

 中は蝋燭の灯火があって、恐怖からなぜか安堵感へと変わりました。

 背後からおばばの声が聞こえました。

「来てしまったか」

「あのーあなたがおばばですか?」

「そうだよ」

 おばばに案内されて、食堂に入ります。

「今、食事を用意するからね」

 出された料理は唐揚げでした。食べると不思議な味がしました。

「私、家出してきたんです」

「知っているよ。あんたは虐げられてきた存在だからな。あたいもそうだった。虐げられて、殻に閉じこもったんだ」

 おいしいか? と聞かれ、アリサは頷きました。


(了)

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おばばの嘘 大西元希 @seisyun0615

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