第22話 首輪は付けた者のみが抱く幻想にして

 私は焦っていた。

 開戦から半年、アジロム(8月)になってやっと本格的に戦争をするフリ・・・・・・・ができるのだ。


 ここまで国内の好戦派を押さえるのは大変だった。

 これまで周辺各国の大小問わず様々な国を力で屈服させてきた自信からか、開戦以来海の向こうの国であるにも関わらず早く攻め落とせと煩かったのだ。


 順序立てて考えればユラントス王国を攻め落とし、そこを足場としてからイグナスを攻撃するのが良いのだろう。途中に広大なソトール海を挟んでの戦争なんて無理がありすぎる。


 だが迫ってきた、彼の国の彼の皇子は迫ってきた。

 私の喉元にナイフを突きつけ「開戦せよ」と。


 昨年のマルヴァム12月に、この城に1人の密使が現れた。イグナス連邦第一皇子ルメイ=アルフィール=モロスの使いだと言う。

 最初はもちろん半信半疑だったが、密使から恭しく渡された封書の封蝋は、間違いなくイグナス皇室のものだった。封蝋の偽造はどこの国でも大罪なので、間違い無いのだろう。


 貿易協定も結んでいない海の向こうの国から何の用だとその封書を読み、そのあまりに衝撃的な内容から思わず顔を上げた時のあの密使の無表情な顔は、今でも思い出しては反吐がでる。


 その中の文書には、この権力を勝ち取るまでに、そしてこの権力を使った不正の数々が羅列してあったのだ。

 貴族が王となるのがこの国だが、当然そこに至るまでには汚職、贈賄、それこそ魑魅魍魎の渦巻く出世競争を勝ち抜かねばならない。綺麗事だけでは政治は回らないのだ。

 だが勿論それらの証拠は厳重に隠匿してある。それをこうも易々と持って来られるとは……


 この使いと話したいと人払いをした後に、震える声で聞いた。


「お、お前達はどこでこれを……?」

「お答えできません。但し、我が国の国力を侮るな。と、我々の主は申しております」


 そう言うと密使は切り取られた人間の皮膚の一部を取り出した。

 それを見て私はまたも愕然とした。


 確かにイグナス連邦に野心が無いかと言われれば嘘になる。上質な石炭を産出するアレイファンやリコレイ、それに突出した工業力を持つというリメルァールはかなり魅力的だ。


 ただそれはユラントスを占領してからなので、まだ数年から数十年は先の事だと思っていた。しかし事前の情報は開戦前にしか得られないと、間諜を何人も送り込んで国力や弱点を調べさせていたのだ。そして出された皮膚は、その間諜の目立たないところに彫らせた識別用の刺青の部分だった。


 それを持って来られたとなれば、認めざるを得まい。イグナスの間諜はこちらより遥かに強かで、恐ろしいと言う事を。


「……わかった。それでお前達はこの私に、リハルト公国相手に何を要求したいのだ?」


 見事にこちらの弱みを握ってきたのだ。欲しいのは金か? 情報か? それとも利権か? そう思い聞いたところ、全く意外な答えが返ってきた。


「我が国に宣戦布告をしてください」

「……今なんと?」


 私は思わず聞き返した。どこに相手の弱みを握ってまで、その相手に自分と戦争をしてくれなどと言う人がいるのだろうか。何かの聞き間違いかと思ったが、しかし密使は静かに繰り返した。


「我が国と戦争をして欲しいと言っているのです。それが、我々の主からの要求です」


 ――遠い海の向こうにはいるようだ。そのような阿呆が。


「聞くまでも無いが、もし断れば……?」

「勿論、貴方様がその地位を確立するまでの不正の数々を、貴方様の国に流す事になります。他の油断ならない貴族に王位を簒奪されるより前に処刑されるかもわかりませんね」


 不思議とリハルト語が堪能な密使は淡々と語る。

 考えてみれば難しい話ではない。側近の数人や国内世論では、確かに次は海の向こうだと言う声も上がっている。その声に応えるだけだ。

 どのみちやる他無い決めた私は、リハルト公国の大公であるヤルト-ハン-ディーロスはこれをどう脚色して臣下に伝えようかと悩む事になった。


 そして今年のグラシム2月になってやっと宣戦布告をしたと思ったら、またもイグナスから密使がやってきた。


 もう昨年みたいに定期航路があるわけでも無いのに、沿岸警備の目を掻い潜ってどうやって来たのかと尋ねると、

「無差別に侵略の手を広げた弊害ですよ」

 と半笑いで言われた。屈辱でしかなかったが、事実こうして密入国出来ているのだから私はもはや黙る他ない。


 そしてその密使の携えてきた文書には同じくイグナス皇室の封蝋があり、中の文書にはまたも意味不明なことが書いてあった。


「侵攻の速度をそちらに合わせろだと?」

「えぇそうです。我々の主も考え無しに戦争しているわけではないので」


 何故だ、と聞こうとしたがやめた。異議を唱えようものなら、強請られるのがオチだ。


 その後はほとんど密使の携える文書に従って行動していたと言ってもいい。

 一度だけこちらがイグナスに潜ませた間諜から得た情報を元に、重要な戦略物資を運ぶとされた貨物列車を襲わせた。しかしその列車は運良く逃げたらしく、返礼にそれを報告した間諜の刺青部分の皮膚が送られてきた。


 嫌がらせのように艦砲射撃を行ったのもある。イグナスの主要な軍港であるルーデンバースにたった2隻の艦船を送ったこともある。

 だがその封書の指示以外のことをすれば自らの身が危ういので派手な動きは出来ず、とはいえ宣戦布告しているにも関わらず戦火を開かないのは逆に国内から不審の目を向けられる。ルーデンバースに送った2隻の方はその目を誤魔化す為のものでもあったが、やり合った割に死者が僅かしかおらず安心した程だ。


 だがアジロム8月も中旬になった頃、ようやく本格的に動けとの文書が来た。

 理由が理由だったので国内の好戦派を黙らせるのに苦労したが、これでようやく大手を振って行動できる。


 私はこの時を待っていたのだ。モロス皇子よ、何が目的かは知らないが、お前の失敗は我がリハルト公国を利用しようとしたところだ。私の不正の文書を手に入れた程度で喜ぶのは早い、ならばそれごとイグナスの息の根を止めればいいだけの話だ。

 リハルト公国が誇る最強の軍隊を侮るでないぞ。


 *


 イグナス連邦、皇都サルタン。

 その中心、二重堀の巡らせた内側に、皇族が住まい執政も行う宮殿があった。

 外からやって来た者が堀を一つ越えれば女中や近衛が住む町、二つ越えれば堀の近くを側近や重臣の住まう家が取り囲み中心に皇帝の住む宮殿と皇子の住む一の館、二の館があった。


 そして一の館では、ある女中がやや緊張しながら、目の前の戸を叩いた。


「失礼します、ルフィアです」

「入れ」


 入室の許可を経て、ルフィアと名乗った女性は一の館にあるモロス皇子の執務室へ入った。スァナイム5月に入って外は麗らかな陽気なのに、この皇子は窓さえ開けないので中はやや蒸し暑い。


「ミラム様から、珍しい菓子が手に入ったからモロス様にもとの事でしたので持ってまいりました」


 そう言いながらルフィアはモロスの執務机の上に菓子と茶を置いた。


「ふむ、わかった。下がって良いぞ」


 そう言うとモロスはルフィアの方も見ずに言った。

 モロスがちらりと目をやって菓子を見るや、


「所詮平民上がりはこの程度か」


 と呟いたのをルフィアは聞き逃さなかったが、ここで意を唱えたりはしない。


 主人である以上に親友であるミラム、モロス皇子の妻であるアルフィール=ミラムの事を悪く言われるのは業腹だが、それ以上に執務机に散乱している書類が問題なのだ。

 事実菓子を置く間にも、その目は注意深く机の書類を観察していた。ルフィアの方を見もしないモロスがそれに気がつく筈も無い。

 入ってきた時と同じようにつつがなくルフィアが退室しても、モロスは顔を上げなかった。


「どうだった? ルフィア」

「あのお方は本当に身内の心配はしないんだね。そのうち寝首を掻かれそうな気もするけど」


 ルフィアと親しげに話している人こそ、モロス皇子の妻であるアルフィール=ミラムだ。

 2人は宮中では皇太子妃と女中いう主従関係にあるが、市井に下ってしまえばただの親友だ。お互いにカグルの出身で、初等舎からの付き合いである。


 贔屓目に見なくてもミラムは美人だった。明るい茶髪の長い髪にすっきりした顔立ち、長い脚は道行く男たちが揃って振り返るほどで、それがルフィアにとっても自慢だった。

 だがそれが偶然視察で街に来ていたモロス皇子に見染められ、強引に婚約、そして結婚へと相成った。


 ルフィアはその際にミラムの口添えで、本来なら皇都の宮中高等舎を卒業しなければ入れない宮仕え職の、それも皇太子妃の女中という仕事をする事になったのだ。それ以来、ルフィアとミラムはよくこうしてミラムの自室で会っている。


「まぁね、でもあれで結構周りを固めてる側近や近衛兵には袖の下を握らせてるから……

 それで、竜に関する文書はあった?」


 ミラムはモロスが良からぬ事を考えている事には薄々気が付いていた。しかしあの夫のことだ。何か探ろうとすればすぐに勘付かれてしまうだろうし、側近たちや近衛の者は随分と甘い汁を吸っているはずなので協力してくれるわけもない。

 だが放置しておくわけにもいかないので、ミラムにとって本当に信用できるルフィアを始めとした数人と側近や近衛、近習たちにモロスの計画を探されているのだった。


 そしてその中で幾度となく「竜」に関する文書が見つかったのがミラムには引っかかっていた。

 信頼できる側近の話によると、数ヶ月前にそれまで伝説の生き物とされていた竜が本当に見つかったのだそうだ。


 勿論俄かには信じられない話だったが、その側近は親しくしている軍の高官から聞いたらしく、信憑性は高いとのことだった。

 そしてミラムはモロスがその竜を悪用しようとしているらしいと知って、秘密裏に動いている。


 そもそも結婚した当初からおかしいと思うことは色々とあったのだ。祝いと称していかにも高そうな置物や冠、着物とか送ってきたけども、そのいずれにもまさに高級品の象徴とも言える白銀鳥の羽根飾りがあった。

 いくら皇子という身分とは言え、あまりに金使いが荒すぎる。一体そんな金がどこから湧いて出てくるのかと問うたのは、その時以来もはや一度や二度ではない程だった。


 特に先日勅命という扱いで読売に掲載させた記事は酷い。いくら皇帝ライナス様が病に臥せっているとは言え、読売を使ってあまり下手な事をやると国民生活に与える影響が大きすぎる。しかもあの高額すぎる賞金ときたら!

 それを知ってやっているのなら、やはりモロス様は何も学ばない人なのだということは平民の出のミラムでも分かる事だった。


「でも……ミラムはいいの? 仮にも旦那の悪事をばらすことになるんだよ?」


 ルフィアが先程モロスの執務机に置いてきたものと同じ菓子をつまみながら聞いた。


「いいのよ、元々あの人好きなわけじゃないし」


 ミラムは同じく菓子を食べながらあっけらかんと言って、そして笑った。


「もう1年も経つのね、私の意見も聞かずに強引に婚約して結婚だもの。私、あの人に好きだなんて言った覚えは無いんだけどね。それにね」


 そう言ってミラムは一旦言葉を切り、ルフィアを見据えた。


「仮にも妻なら、夫の行動を律するのも役目だわ」


 ルフィアはそのまっすぐな目を幾度となく見てきた。初等舎からの無二の親友として、ミラムの性格はよくわかっている。一度決めたら何が何でも突き通すということも。

 結婚して数ヶ月した頃、それはつまりルフィアが宮仕えを始めて数ヶ月経った頃だが、突然ミラムに私室に呼ばれ『モロス皇子の悪事を暴きたい』と言われた時は驚いたものだ。


 話を聞いているうちに、宮中の毒に侵されすっかり忘れていた正義心がふつふつと湧いてくるのが自分でもわかった。そして同時に、次期皇帝とされているのが第二皇子のローランド皇子である理由もわかった。要するに、皇帝や重臣の目から見てもモロス皇子は政を執り行う能力が無いのだ。


 ミラムは学舎では物事の中心に立つような性格では無かったのでなおさら政治の良し悪しは分からなかったが、何年か前のリメルァール攻撃の際の失敗の話を聞いた時には心が冷えた。

 ミラムの兄はロヴェル機甲師団の軍人として、リメルァール攻撃の際に散ったからだ。


 兄が亡くなってからというもの、侵攻してきたノータス王国にいい感情は持っていなかったが、その話を聞いてからというもののそれはモロス皇子に向けられた。

 ただルフィアは、あくまで自分はミラムの為に働く。と割り切り、モロス皇子の前では心に蓋をするようにして仕えている。

 そうでなければミラムは早晩、一国の皇子を殺そうとしていたであろう。


「しかし……」


 ミラムが話を変えるかのように呟いた。


「その竜ってのも見てみたい気はするわね。シナークで訓練してるんでしょ? 見に行ったりできないかしら」

「そうだ、言い忘れてたんだけども」


 ミラムが無邪気な提案に、ルフィアは顔を近づけた。


「これで竜がもっと沢山集まってシナークに送られたら、モロス皇子が現地視察に行くなんて話があったわよ」

「本当に? なら随行していっても大丈夫かな?」


 そう言うミラムは子供のように無邪気な顔をしていた。


「大丈夫よ、仮にも妻なんだから。それにこれはカナン少将の入れ知恵なんだけど、今のうちに妻らしい事して警戒心を完全に解いておいた方が後で動きやすいって」


 カナン少将は軍部の中でも数少ない、表立ってミラムを支える人物だ。

 それでなくても軍の、特にロヴェル機甲師団第二聯隊と第三聯隊の中には反モロス派と呼べる人は多い。とは言え皇子を相手に表立って異を唱えることは、最悪自らの将来に関わるので口を閉じる者もこれまた多い。その中でカナン少将はあからさまにモロス皇子の皇位継承反対を訴えてきた。


 見た目は数多の戦場をくぐり抜けた戦士と言った様だが実際は娘と孫を愛する好々爺で、モロスとミラムの結婚式の際にもミラムを見るや気分が悪いのかと最初に話しかけたのがカナンだったのだ。

 最初は皇族や軍人は全員敵、ぐらいに思っていたミラムも、カナンの人となりに触れて信用していった。そのおかげで、現在ではミラムの強い後ろ盾にもなっている。


「言われてみればそうね。逃げたら世界の果てまで追ってきそうだからここに居座ってるけど、早く暴くもの暴いて逃げたいもの」


 そう言ってまたミラムは笑った。


 *


 モロス皇子に振り回されている人は隣国のノータス王国にもいた。その名をヨナク=ナールファルト。


 ノータス王国はシャルドール教という宗教を中心に生活や政治が行われており、その教義によってリコ派、ガブラル派、ヨナク派に分かれる。


 現在政権を握るのはリコ派であり、これが正当なシャルドールの教えを引き継ぐ宗派である。対するのがガブラル派で、こちらは長きに渡るシャルドールの教えの中でも現代にそぐわないところを一部改変し、それを新たなシャルドール教だとする宗派だ。


 そしてヨナク派、この宗派はシャルドール教の唯一神にして絶対の存在であるシャルレ神の代理人とされるヨナク一族を中心としている。ヨナク一族の語る言葉は即ち神の言葉であり、神の意志であった。

 勿論リコ派もガブラル派もそれは異端だとして弾劾しているが、この宗派は厳しい戒律も無く、ただひたすらにヨナク一族に奉仕していればその分高位な存在になれる。


「世界を創造したもうシャルレ神に感謝を」「神に祈りを、さすれば祝福あらん」を標榜とするシャルドール教において、要はヨナク宗派とは誰にでも分かりやすい神の形なのだ。

 そしてそのヨナク宗派を率いているのが、一の館でモロスと密会したヨナク=ナールファルトであった。


 そんな滅茶苦茶な教義であるヨナク宗派は当然参政出来る訳もなく、国軍にも反乱を恐れてヨナク宗派の人間はいない。それどころか国全体からして過激派の烙印を押されている。


 しかしヨナクには考えがあった。

 とにかく力なのだ。この国、ノータスには資源が無い。資源が無いと言うことはそれらを輸入に頼らねばならず、つまり輸出国次第でいつでもノータスは窮地に陥る可能性があると言うわけだ。


 そこでヨナクはリコ派もガブラル派も黙らざるを得ないような資源を探していた。

 実際、国内では動力革命以来急増する石炭の確保に奔走していた。ノータス王国にも炭鉱はあるが、とても国内の需要を賄えるほどではない。ヨナクはそこに目をつけたのだ。


 *


 ――何度思い返してもあの黄色い石は凄かった。どの程度埋蔵されているかはわからないが、少なくとも石炭よりよっぽどいい燃料になるはずだ。


 アジロム8月のはじめ、ヨナクは自らの邸宅の中で今後の作戦を練っていた。

 あの黄色い石の話をモロス皇子から持ちかけられてもう5ヶ月になる。それ以来何度か文書でやり取りしているうちに、モロス皇子は黄色い石が埋蔵されている辺りを攻撃するのはこちらの準備が完了してからという約束を交わした。


 向こうからすれば一刻も早く占拠された地域を取り返したいはずなのに、わざわざ時期を指定してくるのは不審極まりない。だが本格的な武力衝突を考えればこちらにも準備期間は要る。


「失礼します。ヨナク師、モロス皇子からの手紙でございます」


 暑いからと言って開け放った戸を叩いて、枢機卿のミツオルが入ってきた。


「ふむ。今度は何て言って来たのかな、あの馬鹿皇子は」


 そう言ってミツオルから手紙を受け取った。

 乱暴に封を切ると、中からは普段通り1枚の紙が入っていた。


 一応皇子からの手紙ということもあり季節の挨拶に始まり社交辞令だらけの文章ではあったが、要約すれば『オゥトム10月に動け。駒はこちらで用意する』とのことだ。


「駒はこちらで、か。相手は"イグナス軍の制服を着た何者か"だ。しかしそれがもし正規軍であれば、まともに戦えば勝ち目は無い。こう言ってくるということは、やっと人質の目処が付いたということだな」


 モロスはヨナクに円滑にシナークを攻めさせるために、適当な人質を用意するからそれを人間の盾として攻めよ。と指示をしており、今回の手紙ではその用意が整ったから10月になったら攻撃をしてくれとの手紙だった。


「しかしあの皇子も、よくそんな他国の軍を易々と自国に入れるような真似ができますね」

「ふん、だから馬鹿皇子だと言うのだ。あの男は採掘場の権利をくれてやると言ったな、ならばこちらはその人質をそのまま活用してあの辺りを占領するまでよ。

 周囲に人質を並べ、同時にそのような非人道的なことをしたと言うことをイグナス中に喧伝する。そうすれば世論はモロス批判に傾き、平原の一つ占領したぐらいで大した批判は無いはずだ」

「仰る通りです、ヨナク師。あの青二才も、我々の力を侮りすぎですな。

 こちらの戦力も十分です。シナーク攻撃隊として500名ほど準備しました、あの皇子によればシナークの一部分のみの制圧なのでこの程度で十分でしょう」


 それを聞くとヨナクは満足そうに頷いた。


 侵攻は2ヶ月後、それまでに完全に制圧する算段を立てねばならない。完全に見下げた態度を取ってくるあの皇子に制圧した場所は渡さぬと言ったらどんな顔をするのか、楽しみで仕方なかった。

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