第12話 傷
テレビ通話をして段々と心を開いてくれたひょっとこ少女は、名を「
そんな望月は最近誕生日を迎えたらしく15歳なのに「14です」と言って、またしてもトマト化。
『ではまた今度、一緒にゲームしましょう』
「そんだね。その時はお兄さんもやってくれるかな?」
「素人でよければ、ね……」
極度のゲーム好きらしく、針ケ谷の提案でオンラインボードゲームで、レクリエーションをした。ゲームの内容はヒット&ブローというゲーム。ルール説明は難しいし、特に必要もないと思うから省くけど。
今ハマっているのはスマホゲームのFPSで、パソコンのFPSがお上手らしい。反射神経がゴミの僕は足手まとい間違いなし。
しかしそれで交流が取れるなら安い買い物と思い、さっそくダウンロードしてみたが、……ゲームのグラフィックが、何ともグロテスクな印象。あまり好みじゃ無い。ヒット&ブローしよさ。
『瑞ちゃんもまた連絡してね。あっ、でもゲーム中はダメだよ。通知で負けるのは納得いかないからね!』
ゲーマーだ。おそらくこの子はかなりのゲーマーだ。「無理なのい課金は無課金だよ」ってタイプだ。
「わかってるわかってる。この後ちょっとあるから、また今度ね」
『うん、またね。ばいばーい』
「ばいばーい。…………っと、随分と時間取っちゃったね。本当は挨拶だけのつもりだったのに」
「あんなに楽しそうに喋りだしたら誰だってやめにくいわ」
最初のひょっとこトマトは嘘みたいに、望月は流れるように喋りだし、ゲームの最新情報に対して推測と対策を考えたり、一緒にやりたい新作ゲームのプレゼンをしたり、オンラインゲームで追加された料理が美味しそうなので針ヶ谷に再現してほしいと頼んだり、もう神宮寺並みに喋った。
「優紀がいつ帰ってくるか分からないから、先にするべきかな……」
「…………ん?」
「LINEしたじゃん。『見せたい物がある』って」
「………望月じゃなくて?」
「………彼女は『人』だ。見せたい『物』じゃない。顔合わせさせたかったのは確かだけど…………」
「じゃあ何を?」
「それはね。…………これだよ」
そう言って針ヶ谷は首に巻いている長いマフラーに、下から手を突っ込んで、何やらモゾモゾとしている。
ドラ○もんの四次元ポケットみたいにやかんでも取り出すのかと思ったが、針えもんがマフラーから取り出したのは僕のトラウマだった。
なんと、ジャージのジッパーを掴んで下げている。
「………は?」
ジッパーをするする下にさげて、ジャージの前が段々と開いていくのを目で追いながら、僕は目を見開いた。
数日前に起きた、例の脅迫事件が僕の頭を走り回る。フラッシュバックってやつだ。
「何やってんの!?」
「別に、ちゃんとシャツを着ている。それとも素肌にジャージの方が良かったか?」
「そういう問題じゃない!?」
怖いというかヤバいというか、頭の警報機がガンガンと鳴っているのだ。逃げろと本能が訴えてるのだ。
まさか針ヶ谷が神宮寺みたいなことをするとは思わなかった。どう考えても神宮寺より知性があるから!
どうにかこうにか逃げ出したい。針ヶ谷の後ろにある通路を抜けて玄関から飛び出したい。
でももし僕が何かしらの行動でバランスを崩して、さっきまでなかったはずのバナナの皮を踏んづけてすっ転び、あり得ないとは思うけど、ラブコメ的ハプニングで彼女を押し倒そうものなら、僕は今度こそ牢屋行きだ。無期懲役にはならないが、釈放されても女性恐怖症で日常生活が送れなくなる。
「赤面するとは、意外とうぶなんだねお兄さん」
「赤面してるように見えますか!?個人的には真っ青なんですが!?」
人生の危機を感じてる僕をよそに針ヶ谷はジッパーを切り外し、ジャージの真ん中に黒のシャツが一本線に見える。
「まぁ、色気なんて僕にはかけらも無いけどね」
そんな事ありませんよマジで!ちょっとロリコン体質な奴ならすぐ虜にして、ハプニング起こした僕をミンチにするぐらいは可愛い子だよ!ってふざけてる場合じゃなくて!
「これを見たら、色気もクソも無いよ」
そう言って針ヶ谷はシャツの
まくり上げてしまったら最後、僕はミンチにされるだろう。グッチャグチャのハンバーグにされて廃棄処分だぜ!
やめてほしいと願っても針ヶ谷は手を止めない。そして目を瞑ればいいという解決策は、思いついた時にはもう遅かった。
「……………………………………」
見てしまった。
見えてしまった。
滑らな白い肌にある、痛々しい痣が。
それも一つや二つじゃ無い。
ウエスト辺りをぐるり囲むようにあれば、ミミズ腫れのような不規則な痣。皮膚の色が違う箇所も多々。切り傷や、糸で縫った跡も。
あまりに衝撃的で、唐突で、僕は生まれて初めて、息を飲んだ。
そして、あの日のアレが、見間違いじゃない事が決定して、息を忘れた。
「ほら。色気なんてこれっぽっちもない。赤面してくれて嬉しいけど、僕自身、こんな体を見た後に赤面したら、その人の常識を疑うね」
「…………それ、は……?」
上手い聞き方がわからずに、もはやこの状態で、上手い聞き方なんてものは無いのかもしれないけど、僕はそんな聞き方しかできなかった。
「これはね、僕が小さい頃に受けた虐待の痕だよ」
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