第12話

告白する前に終わってしまっている。

還りたい。

森に還りたい。


意を決してチャイムを鳴らしたら、ドアを開けたのがイクサバくんだった。

フレイルくんの家なのに、対応したのはイクサバくん。

ということは、つまり、そう言う事なのだ。

ああ、わたしはなんて勘違い大馬鹿駄目鷹なのだろうか。


目の前ではイクサバくんが石像のように固まってしまっている。

急な訪問にとても困っているのだろう。

面目ない。

その石化を解いてから、愚かなる鷹は森へ還ろう。


「イクサバくん、しっかり」


両肩に手を置き、癒しの魔法をかける。

イクサバくんが「ハっ」と息を吹き返した。


「イクサバくん、驚かせてしまいすまなかった。わたしは森に還る。今まで多大なる迷惑を掛け続け本当に申し訳無かった。君には特に不愉快な」


「…」


「…思いをさせ続け…イクサバくん?」


石化は解けているのに、イクサバくんの両目が大きく開いたまま動かない。

どうしたんだろうか。

息は、している。


「はわわわわぁああああああああああっ!」


「わぁ…イクサバくん!?どうしたんだい?敵?怪獣?怪我?病気?」


いきなり大声を上げたイクサバくんが、わたしを足元から頭のてっぺんまで何度も見る。


「ヤッバ!イケメンっ!スッゲ!ヤッバ!!!」


「い、イクサバくん…落ち着いてくれ…」


「落ち着けないっす!永久に忘れられないっす!何してんすか?!何本気出して…!!ナルホド!!俺今理解したっす!!!」


「い、イクサバくん…声が大きいよ…夜なのだから」


「了解っす!!!イクサバ・コーレ理解したっす!!!ターゲットは居間に居るっす!!!多少アルコールがはいっていますが問題無しと報告するっす!!!それでは失礼致しますっす!!!!!」


イクサバくんが大きな声でそう告げ、敬礼。

足早に去ってゆく。

家の中ではなく、夜の闇へ。

えーと、えっと。

と、とりあえずご在宅と言うことなので、イクサバくんが何処かへ出かけてしまった旨を伝えてこよう。

一目見て、説明、後、森に還ろう。


「お、じゃまします…」


玄関を一応施錠し、廊下を歩く。

彼の匂いがした。

ずっとここに居たいと思ってしまう。

いや、ここは早くお暇すべきだ。


居間へと続く扉をそっと開ける。


「…なに騒いでたんだよイック…近所迷惑になるから止めろよな」


一人掛けのソファから声がした。

扉に背を向ける位置に置かれているので、わたしをイクサバくんと勘違いしているようだ。


「それより早く戻って聞いてくれよ…もう俺馬鹿でどうしょうもないよ…こんなに好きなのに…なんで素直になれないのか分かんないよ…あんなに笑顔向けてくれるのに…話しかけてくれるのに…俺の話じゃないからって拗ねて…戦で無茶して…何度も死に掛けて…いやだよもう…つらいよ…」


わたしは森に還りたい。

そんなに好きだなんて。

還りたい。

涙が溢れた。


踵を返そうとしたけれど、止める。

逃げたいと思っても、言わないと前に進めない。

ハットくんとエールくんに、そう言われたのだ。

告白してちゃんと振られない限り、わたしは次の恋にちゃんと進めないと。

そういうものなのだと。

ならば。

わたしは。

人を知りたいと思う切っ掛けの君へ、告白しよう。

そして初恋と、さよならするのだ。


最初から終わっていた恋と、決別を。

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