魔女と東の灯台屋
Q
第1話
自然光が降り注ぐ不思議な作りの建物に住んでいる齢30の白い魔女。
塔の真ん中に螺旋階段が建っており、壁は一面棚になっておる。
壁の棚には、箱やら大きな布に巻かれたものなどがびっしりと積まれている。
そんな螺旋階段の途中に座り込み、私は古い魔導書の表紙を撫でながら大切に、ひと針ひと針治していく。
直し終わった魔導書は喜ぶように魔力が溜まっていく。
私は元のあった場所に、それを戻し背表紙を撫でる。
「早くいい人が見つかるといいね」
店内にかわいたコンコンカランという子気味いい音が鳴る。
「あら?いらっしゃい。」
「すいません。魔導書が壊されてしまって…治してもらいたいんです。大切に使ってたんですけど…」
入っていたのは見習い魔女。
星のワッペンが2つついている。
階段から降りて彼女の顔を見ると今にも泣きそうな顔をして大きな瞳に涙を貯めていて、ぎゅうっと大きな魔導書が抱きしめられている。
服はびちょびちょで、少しだけ臭う。
「あらあら、大切に使っていたのね?」
彼女は口をぎゅっととじ唇を噛んでいる。
彼女が大きく頷くと、帽子が下がって顔がみえなくなった。
つばから垂れる雫が彼女の気持ちを形容している。
「まぁまぁ、そな時もあるわ?あと、室内では帽子は取りなさい。」
「はぁい…」
トンと頭に手をのせると、彼女は帽子を素直に取った。
◇◇◆◆◇◇
魔導書を見ると酷い有様だった。
ビリビリに破かれたページに、背表紙は刃物で切られ剥がされていた。
素直に怒りが湧いてくる。
丁寧に扱われていたはずの魔導書がビリビリになっている。
素人ながら、丁寧に縫われた魔導書を撫でるとぶつぶつの呪文を唱える。
私のオリジナル魔法、魔導書の素材の言の葉を汲み取る魔法。
魔導書から言葉が流れてくる。
『まだ恩返ししてない』『まだ守りたい』『ずっとそばに居たい』『何もしてあげられなくてごめん』
この魔導書からはそんな言葉が溢れてきた。
「そっかぁ、わかった。わたしがなんとかしてあげるから…と言ったものの、」
私は風呂を見る。
ザァーっとシャワーを浴びている人影がうっすらと見える。
あまりにもぐちゃぐちゃだったため、お風呂を勧めたのだ。
あと少しだけ臭ったので…。
少女の服を水の魔法と石鹸液ですすぎ、火と風の魔法で、乾かしていく。
匂いを嗅ぐと無臭になっている。
まあ、いいか。
風呂のすぐ横の椅子に畳んで置いておく。
「君をあの子に合うように治してあげたいね。」
背表紙の布を丁寧に外し、ちぎれた部分から少しだけ解く。
毛の質から見て一角兎の糸で織った布のよう。
かつて流行った作り方である。
バラシ終わると1本の長い夢鯨の髭がでてきた。
きっとこれで、表紙を縫っていたのだろう。
「あの子と一緒に行きたい子いるかしら?」
部屋全体に問うと、部屋のあちこちが光った。
光った子達を集めると、私は頭を悩ませる。
◆◆◇◇◆◆
「お風呂ありがどうございました。ってええ?!私の魔導書が…」
きっとバラバラになった魔道書を見て泣きそうな顔をしているのだろう。
私は構うことなく話し始める。
「ええ、治すために必要なんだもの。所であなたはただ治すだけでもいいの?それともあなたに合うように直して欲しい?」
「えっと、出来れば合うように…」
「ええ、出来るわ。だけどお金はあるのかしら?」
「うっ…」
そんな彼女の姿にはァっとため息をつく。
世の中そんなに甘くない。
「ひぃばあちゃんの形見で…」
「今はそんなこと聞いてないわ?貴方私が善意でこれを直すとでも思っているの?社会は甘くないわ。魔女に優しいところは多いわよ?けど私は甘くしない。割引もしないわ。ただの修繕なら金貨3枚あなたに合うものに変えて欲しいなら金貨20枚ね。どうする?」
「……私に合うやつにして欲しいです。けどお金が無いです……私をここで働かして貰ってもいいですか?」
「え?」
「一生懸命働きますから!」
私は少しだけ考えた。
私の仕事が3分の1でもなくなると考えるとこの子に給料を払う意味って言うのもあるかもしれない…、いいかもしれない。
普段やってる事を頭の中で考えいくつか彼女にも出来そうな仕事を見つける。
「それもいいわね。…あなた学校はどうするの?」
「私研究科なんです。なのでほとんどの授業が免除でして…。」
「いいわね!研究科!私の後輩じゃない!いいわ!ここで働かしてあげるわ!そうしたら待ってね…」
私はサラサラっと雇用誓約書を魔力で書く。
「えっとまず雇用期間はとりあえず、貴方の学校卒業までとします。やってもらうことは住み込みの雑務です。支払い金額と別に勤務態度等を見ながら別途支払いましょう。仕事があるからと言って学校をサボることは許しません。魔女の学校というのは大人への重要な第一歩ですからね。」
「よろしくお願いします!あと、師匠と呼ばせていただいても…」
「ダメ。名前で呼んで。私はピッピ貴方は?」
「ティオンです。よろしくお願いしますピッピ先生!」
「ピッピ」
「ピッピさん?」
「ピッピ!」
「ピッピ!」
「よろしい。」
こうして魔法道具屋の少しだけ不思議な店主としっかり者のアルバイトの話が始まった。
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