運動会

蓮巳とは気まづいまま運動会当日を迎えた。




日差しが強いグラウンド。


私と蛍は隣に座って観覧していた。



「そろそろ3年のリレーだから行かないと。」


私はそう言うと持っていた団扇を蛍に預けた。



蛍は、紫外線に弱いし激しい運動ができないから先生と相談した結果大玉ころがし以外は見学するそうだ。


「行ってらっしゃい」



蛍に行ってくる、と告げて待機列へ混じった。




なんという因果か。



私と蓮巳は両方ともアンカーだった。



合わせた訳でもない。


私はじゃんけんに負けて決まったんだから。





結果を言えば負けた。



蓮巳があんなに足が早いと思わなかった。



ーーいや、蓮巳じゃない蓮巳のフリをした怪物。



怪物だから足も速いということだろう。




称賛される蓮巳を見ると私は自然と睨みつけていた。


ぽんっと私の肩に手が置かれた。



反射的に睨んだまま後ろを振り返れば、火憐がいた。




「あんまし思い詰めるなよ。」



それは火憐なりの優しさだったのかもしれない。


私の返事を待たずに火憐は行ってしまった。





私はただじっと火憐の背中を見ていた。








「次は部活動対抗リレーです。 」




とうとう午前最終種目。



私はまた蛍に上着を預けて足早に待機列へ向かった。


ただなんとも言えないほど気まづかった。



幸いに私は第1走者。


次に私がバトンを繋ぐのは千川先生だ。


蓮巳じゃなくて本当に良かったとじゃんけんの神に感謝をした。


ちなみに、本来なら生徒だけで走るのだが


うちは蛍がいないため4人。


代わりに出て欲しいと千川先生にお願いしたらなんとOKを出してくれたのだ。



「いちについて…よーい


どん!」




我ながらいいスタートダッシュだと思う。


私は残念ながら足が速いほうではないが遅いというわけでもない。


陸上部が勢いよく追い越していく。


その背中を見ながらさすが運動部だ…と感心した。

陸上部の流れに合わせて、バレー部とバスケ部が走り去って行く。




あっという間に私が最下位になった。


それはそうだ。


みんなとも話をしていたけれど、運動会なんて運動部の式典のようなもの。


この学校唯一の文化部である美術部が活躍する場では無いのだ。





「先生!」



こちらに向かって手を伸ばす千川先生が目に入る。


私はなんとか手を伸ばしそのバトンを手渡した。


掴んだ瞬間先生は笑いながら走って行った。

なんで笑ってるんだ?と思い下を見ると


靴紐が解けていた。


脇に避け、靴紐を結び直す。



ちらっと今の状況を見ると、千川先生がもうすぐ走り終わるタイミングだった。



次は火憐だ。


火憐は嫌そうに手を伸ばしている。


早くしろと言わんばかりに手首を回している。



相変わらずだな…と苦笑いした。


先生のバトンが火憐の手に…


そのまま勢いよく掴んで走り去る火憐。


遠くで見えなかったが少しもたついたような気がした。



そんな心配はよそに火憐は走っていく。



その勢いは凄まじく、卓球部を抜かした。



あっという間に蓮巳へとバトンが渡る。


さっきのような怪物のスピードを見せつけるのかと嘲笑に近い目で見ていたが、

そのスピードは遅かった。


卓球部に抜かされている。



何がしたいの?蓮巳は。



そんな声が頭に浮かぶ。


疑問疑心。




言葉にならないまま口を開けたままその様子を見ていた。




そしてそのバトンはアンカーである澄華の手の中へ。





結局、美術部は最下位だった。






そのまま昼休憩へ。



私はおばあちゃんの元へ駆け寄った。


おばあちゃんは大きな包みを出してにこにこと笑っていた。


「こんなに食べれないよ」



そう私が笑うとおばあちゃんは「あれ?」と声を上げた。



「こんなにって……蓮巳ちゃんもいるんだから。」



そうだ。



毎年毎年運動会の日は必ず蓮巳とご飯を食べていた。


蓮巳のお母さんは忙しいらしく滅多に行事に来ない。

そんな蓮巳を私が誘ったのがきっかけで、毎年恒例になったのだ。


すっかり忘れていた。




「おばあちゃん…その……私は……」


どうしよう、どうしよう

早く、早く言わないと。

もしかしたら私を探して蓮巳がすぐ傍まで来ているかもしれない。

はやく、ここから立ち去らないと!



「類」



「ひっ!」



私が声を上げて振り返ると


「類、なんでぼけーっと突っ立ってんの。」



火憐だった。



私はホッと胸を撫で下ろす。



その様子を訝しそうに火憐が見つめていた。



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