美術部の5人




「明日から制服移行期間に入ったみたいだけど、みんなはどうすんの?」

ー放課後。


私たちは美術部の部室に来て談笑をしていた。


「しばらくブレザーでいいわー。別にまだ暑くもねぇし……澄華は?」

椅子ではなく机に腰掛ける九栗火憐はそう言った。


話を振られた赤橋澄華はえっ、と声を上げた。


「うーーーーん、特に考えてなかったな~明日起きた時に決めると思うっ」

そんな曖昧な返事を返してきた。


残りの、蓮巳、蛍の2人も澄華の意見に同調していた。


私含めたこの5人が3年生の美術部部員である。


女子5人なので伸び伸びとさせてもらっている。


だが、最初からこの5人というわけではなかった。


火憐なんて、元々入学して最初の頃はバレー部に所属していたのだ。

訳あって美術部にやって来たが、元バレー部なだけあってこの中で最も運動神経が良く、運動会の部活動対抗リレーではどれだけ頼りにさせてもらったか……。


幼なじみの蓮巳も、1年の最初は帰宅部だったが内申点のためだと言って部活に入ると言ってきた。

そんな時に私が美術部に誘い、「運動したくないから美術部でいいや」と誘いに乗ってくれた。


澄華は、特に深い理由はないが「日焼けしちゃう!」という理由で運動部は却下だったようで消去法で美術部に来た。


私と蛍は元々絵が好きだったことと、体験入部の時に顧問の千川先生と仲良くなったことがきっかけで美術部に入部した。


蛍は1年の二学期から学校に来なくなり3年生に入るまでは一切教室に姿を現さなかった。

それが原因で幽霊だの都市伝説だのなんだの言われていたが私は諦めずに保健室登校していた蛍に熱烈にアプローチしてもう一度教室に復帰させた。


学校側が配慮してくれたのか同じクラスで楽しく過ごしている。


そんなこんなでこの5人になったというわけである。


私たちが楽しく談笑を交えていると勢いよくドアが開かれる。


「今週土曜日、写生大会に行くぞ!場所は隣町の水族館だ。現地集合だから遅れないように!あ、九栗。プリント配ってくれ」


嵐のようにやって来た千川先生がプリントを雑に放り投げた。

部長だからだろう、呼びつけられた火憐は露骨に嫌そうな顔をしながら渋々プリントを配っていた。


席に帰ってきた時舌打ちをして千川先生を睨みつけていた。

ーーー火憐の千川先生嫌いは今日も健在だなぁ。

なんてことを思いながらプリントを手に取った。




寝る直前、私は携帯で蓮巳とやり取りをしていた。


『今日びっくりしたー!

写生大会とかそんなの初めてじゃん、千川先生急にどうしんだろ笑』


と送る。


『今までがおかしかったんだよ。

冬はかるた部に改名するし、秋は読書部だし、行事ごとでは面倒事を引き受けるから雑用部って呼ばれるし…』


と蓮巳から返事が来た。


たしかにそうだ。


うちの部は千川先生の気まぐれと趣味でその名と活動がコロコロと変わる。


その変わりようは部員としては最初の頃は絶句し呆れていたが、


冬にかるたをして秋に読書をしたり運動会でカラーコーンや得点板を動かすのも割と楽しいもので

ここまで来ると飽きがなくて良いと思う。



『千川先生はほんとに何考えてるかわかんないよね!眠くなってきたから、そろそろ寝る!

おやすみ』


返事は来なかったが、

私は写生大会に胸を躍らせながら眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る