第8話 鬼

 VDCの筐体自体はコンパクトなものだ。

 だが、会場の観戦者用の大型スクリーンのせいもあってとても大きく見える。

 その左右にある筐体の片方、先ほどの対戦で負けた方が出て来た筐体にカズマは滑り込む。

「うっわ!汗くせぇ。ファブもってくりゃ良かった。」

 そう吐き捨てながらカズマはパーソナルデヴァイスを筐体に接続して、試合への最終エントリーを済ませる。

 そうすると筐体の扉が閉まり筐体内は暗闇に包まれる。

「デモンズ・ウェリング。」

 カズマがそう呟くと一瞬にしてカズマの意識が光に包まれる。

 見渡せば石で出来たローマのコロッセオのような円形上の建物の中にいる。

 見上げればいくつもの青いウインドウがあり、そこにはカズマを見る好奇のまなざしと罵声が飛び出してきている。

 今カズマはVDCの中にいるのだ。

 ここで対戦相手との死闘を繰り広げて観客たちの見世物になる。それがVDCと言うゲームなのだ。


 金のために戦い、そんな奴を見て金を払う。

 それがこの世界での常識だ。


「まったく最高じゃねーか。俺達悪魔憑きは戦わずには生きられない。その戦いで生活を潤せるんだからよぉ。本能に、意識に、肉体に、サイコーにキマッテルよな!」

 フィールドにエントリーされたカズマの姿は赤い肌をした二本の角が生えた鬼だった。


―――――――――――――――――――――――――――――


【鬼】


 日本古来より語り継がれる化け物の1つ。

 その姿は長い歴史の中で赤や青、黒や白などのヴァリエーションが豊富なほど多くの伝承に語られている。

 人のように二本足で立ち筋骨隆々の背丈をしていることが多いが、人型のもの以外も鬼と呼ばれることがある。

 これは隠という訳の分からない物をさしていた言葉がなまって鬼と呼ぶようになった。

 また鬼とは死者の魂という意味を起源としてる他、地獄の住人で罪人たちを苦しませる存在だとされている。

 そんな鬼の中で一つ欠かせない特徴が角である。数はいろんな例があるが、鬼と言えば角が生えている物なのである。


―――――――――――――――――――――――――――――


 カズマの鬼は典型的な赤鬼だった。

 頭に日本の角を生やして縮れた髪を伸ばし放題。

 鋭い爪や牙を持つ2mくらいの赤鬼。

 腰にはトラの毛皮で出来た腰みのを巻いている姿は陰鬱でどこか覇気が無く鬱々とした猫背気味で今から戦おうという気概は見えなかった。

「かはぁぁぁぁぁ~~~~~~。」

 しかし、それが不気味さを醸し出して観戦してるものに何が起きるのか分からない――――怖い好奇心を刺激していたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る