ディアブル・ド・ラプラス
軽井 空気
プロローグ ある医師の手記
2020年代後半。
悪魔憑きと呼ばれる奇病が世界で蔓延し始めた。
その奇病に感染したものは情緒が不安定になり、やがては人としての倫理観を喪失してしまうモノだった。
加えて、彼等は病気の進行と共に火を吐いたり、氷の礫を撃ちだしたりと、現代科学では証明のできない奇行を可能にするようになていた。
2028年12月24日。東京。
ついにその事件は起きた。
クリスマスイブに賑わう町中で、1人のストーカー男子が女性を襲った。
その姿はもはや人間のそれではなくなっていて、頭は豹の様なネコ科の動物。
体も獣の体毛に覆われて、手足の爪は人体をたやすく引き裂くほどの鋭いものに変化していた。
その様はまさに変身と言っていいモノだった。
その男はストーカーしていた女性の彼氏に襲い掛かり、その爪で引き裂き食い殺した。
その場を目撃した女性は恐慌をきたして男を拒もうとするものの、化け物になった男に襲われ犯されてしまう。
騒ぎを聞きつけた者が警察を呼び、化け物になった男の射殺命令はすぐに出た。
しかし、拳銃の弾丸を受けても化け物と化した男には傷をつけることが出来ず、多くの人々が犠牲となった。
事件の終焉は奇しくも同じ悪魔憑きにおかされていた青年の手によって行われた。
豹頭の魔人と化した男に、髪を逆立て歌舞伎の化粧のような模様を顔に浮かべた青年が戦いを挑んで、激戦の上に豹頭の魔人は打倒されたのだった。
この事件を切っ掛けに悪魔憑きへの世間の風当たりがいい意味でも悪い意味でも強くなった。
私は悪魔憑きの患者を診る医師の一人として診察の結果を世界に公表せざる負えなかった。
悪魔憑きになる者は強いストレスを受けて精神を病んだものに起こる病であるということ。
病状にはいくつかの段階があり、最初はただの精神疾患であるのだが、一定の域を超えると特殊なエネルギーを観測できるようになってくる。
私はそれをエレクチオン・ラーマ反応と呼んでいる。
このエレクチオン・ラーマ反応が観測されてはじめて悪魔憑きと呼べる状態になるのである。
この域に達すると例外なく何かしらの異能を発揮し始める。
ここまでくると現代医療での回復は不可能であり、さらには先の事件のように異形に至る例も見られるようになって来る。
私個人の感想だが、早急にこの奇病の原因究明と感染者の隔離が必要になると思う。
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