その、魔女の名前を―

王顎

【序幕】

 火の粉が舞い散る風景を、群衆の中から赤い髪の少女が眺めている。

 毛足の長い黒猫を、胸に抱えている。


 ***


 寒い冬の季節だった。

 その時の私は、世の中の事を何も知らず、

 無知で居る事を愚かだとも思わず、

 この先もずっと平穏で居続けることができると信じているような、

 ―――― 一人の平凡な少女だった。


『頭が真っ白になる』という事を、初めて経験した。

 頭の先から足の先まで、真っ白に燃えているような気持ちになったのをよく覚えてる。

 色んな記憶が頭の中をぐるぐる回り、意識が遠ざかりそうになった。

 それでも幸いだったのは、真っ白に支配された私にただ一つだけ残った感情が、



 悲しみではなく怒りだった事。

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