桜井家は超絶複雑な家族だけど愛情にあふれています~おかげで俺の理性が崩壊寸前です・・・~

黄色いキツネ☆

第1話 俺の家族構成とは・・・




「悠くん、いつもありがとう。おかげで助かっているわ」


 俺・桜井悠希さくらいゆうき(17歳 高校2年生)は家で夕食を作っていた。

 まあ作っていたと言っても、どちらかというと手伝いだけど。


 メインで作っていたのは、俺に礼を言ってきた女性である。


 彼女は桜井朱美さくらいあけみ(23歳)。

 お嬢様の様なほわほわとした雰囲気と、今は料理するために長い髪を後ろで束ねているせいで、綺麗な顔がより一層際立つ。


 ・・・俺の姉なのかって?


 ・・・・・


 それは違う・・・

 違うんだ・・・


 彼女は決して俺の姉ではない・・・


 彼女は戸籍上では・・・


 俺の義母なのである・・・

 つまり、親父の再婚相手という事だ。


 若すぎじゃね?

 お前の父親ハッスルし過ぎじゃね?


 というような声も聞こえてくる気がするが・・・


 それには訳があるんだよ・・・


 まあ、どういう事情なのかというのは、また後程説明することにしよう。


 それよりも、夕食を摂るために食卓を囲んでいるのだが・・・


「今日のご飯も美味しそうね♪」

「お腹すいたよぉ。早く食べよう?」


 と、俺と母である朱美さんの他に2人の女性が食卓を囲んでいた。


 1人は桜井穂香さくらいほのか(16歳 高校2年生)。

 ロングの髪を前髪と触覚部分だけを残し、サイドテールにしている女の子。

 ポニーにしたりと色々と髪型を変える事はあるが、どちらにしても後ろで束ねる事が多い。


 そしてもう1人は、桜井唯さくらいゆい(15歳 高校1年生)。

 セミロングの髪にリボンをつけているのが特徴的な女の子。

 いつもニコニコと明るく、でも雰囲気はゆるゆるな感じである。


 そして2人共、スカウトされてもおかしくはないほど、顔立ちが整っている美人姉妹である。


 今度こそ、2人は俺の姉妹なのかって?


 ・・・・・


 一言だけ言っておこう。


 俺は親父が再婚するまでは1人っ子だった。


 じゃあ、2人は再婚相手である母の姉妹なのかって?


 ・・・よく考えてほしい。

 穂香も唯も、籍を移した朱美さんや俺と同じ苗字だという事を。


 朱美さんの姉妹であるならば、元々の苗字が俺と同じでなければ有り得ない事。

 ちなみに、穂香と唯の元々の苗字は五十嵐である。


 どういう事なのか、ますます意味がわからない?


 うん、大丈夫だ!

 俺も意味がわからない・・・


 いや、わかるにはわかるんだけど、実際そんな事が現実にあるのかという驚きが強いって感じかな。


 多分、驚くと思うが・・・


 穂香(16歳)と唯(15歳)は、朱美さん(23歳)の連れ子なのである・・・


 ・・・


 な!?

 意味わからんだろ!?


 事情を知っている俺には意味は分かるし理解出来るが、知らん人からしたらマジで意味不だよな・・・


 そんなうちの家族関係はというと・・・


「兄さん、醤油取ってもらってもいい?」

「あいよ。ほらっ、出し過ぎないように気を付けて使えよ」

「うん、ありがとう」

「どういたしまして」


「これはお兄ちゃんが作ったの?」

「ああ、そうだよ」

「やっぱり?お母さんの料理も美味しいけど、お兄ちゃんが作った物も美味しいね♪」

「そっか、ありがとな」


 穂香も唯も・・・もちろん朱美さんも・・・

 そして俺や親父も、この状況をすんなり受け入れており家族関係は良好である。


 なぜ、こんな複雑な事になっているのかというと・・・


 朱美さんの境遇を話しつつ、順を追って説明していくとしよう。


 朱美さんは中学・高校・大学と全て女子校に通っていたらしい。

 だから男というものをあまり知らずに過ごしてきた。


 そして、大学3年のゼミを受けた時、初めて近しい男性・教授と出会ったようだ。

 物凄く熱心であり、かなり誠実な人だったと聞いている。


 その当時の彼は41歳で、若くして妻を亡くしてしまっていた。

 その教授と亡くなった奥さんの子供が、穂香と唯である。


 ただ、妻を亡くしてからは再婚することはしなかったようだ。

 というのも、かなり優秀で研究熱心なため、その分野の第一人者としても有名だった事でかなり忙しい日々を送っていたからだ。


 本当は忙しいからこそ、再婚して子供を妻に任せたかったようだが、相手を見つける余裕もなかったそうだ。


 しかし、それでも子供はきちんと育てないといけない・・・いや、育てたい。

 そこで、子供に親の愛情を注ぐことが出来ずに申し訳ないと思いつつも、家政婦を雇って代わりに育ててもらっていたらしい。


 穂香と唯も幼いながらに、そんな父親の事を理解していたため、文句などは全く出なかったという。


 そのまま教授は再婚する事なく十数年が経った頃に、朱美さんと出会ったのである。


 女子校通いだった朱美さんは、初めて頼れる男性と近しく接したため、恋に落ちるのも時間の問題であった。

 そこに年齢や子供がいる事などは気にならない程に。


 しかし教授は、自分は忙しい上に子供もいる事から、自分の恋愛を優先するつもりなどなかった。

 子供の為に母が必要とは思うものの、気が付けば子供はすでに中学生と大きくなってしまっていた事も、申し訳なさと同時に焦らない要因になってしまっていた。


 父親の事情をわかっている穂香や唯は、家政婦さんに良くしてもらっている事もあり、自分達が置かれている境遇に不満を言う事もなかった。

 むしろ、自分達の為に母親をと考えるよりも、父親が幸せになるための恋愛を望んでいたくらいらしい。


 本当に良く出来た子達だと思う。


 そんな中で、朱美さんがアプローチをかけていたんだとか。

 まあアプローチといっても、女子校育ちの彼女が積極的な行動をとれるわけもなく、さりげなくであり端から見ると微笑ましい感じではあったそうだが。


 最初は朱美さんの好意にも気づかぬふりを続けていた教授も、朱美さんの人柄に惹かれていき、自分の過去や現在の境遇を話してくれるようになったんだとか。


 そして教授は、自分の境遇を全てわかった上でそれでも好きでいてくれるのだと知ると、朱美さんが大学4年になったのと同時期くらいに受け入れる事にしたらしい。


 ただし籍を入れるのは、子供達が納得してくれる事を第一条件とした。


 それに関しては、教授が朱美さんを穂香と唯に紹介すると、何も問題なく受け入れられた。

 むしろ、母親になるとはいえ自分達と歳が近い事もあり、どちらかというと姉の様な存在として喜ばれたそうだ。


 その後、全員が納得の上で籍を入れた。


 ただ、朱美さんには大学は卒業してほしいという事と、教授自身忙しくあまり一緒にはいられないという理由で、籍は入れても朱美さんの卒業までは子供は作らないと決めたそうだ。


 籍を入れてすぐに、朱美さんは教授の家に住む事となる。

 それは、穂香と唯の為である。


 彼女達と少しでも多く一緒に過ごすことで、彼女達の寂しさを少しでも紛らわせてあげたいと考えたからだ。


 実際、穂香と唯は朱美さんに懐き、教授が不在でも楽しく過ごす事が出来た。


 これから皆が幸せになれる。

 そう考えて、数カ月経った時・・・


 教授は出張先の事故により、命を落としてしまった。


 朱美さん、穂香、唯が絶望と悲しみに明け暮れる。


 そんな中でも、朱美さんにはどうしても考えなければいけない事があった。


 籍を入れた時点で、穂香と唯は朱美さんの娘となっている。

 更に言えば教授と籍を入れた事で、朱美さんにも遺産相続が発生する。


 教授を愛し娘達を愛そうと考えていた朱美さんにとって、究極の選択を突き付けられていた気分だったそうだ。


 というのも、教授の身内・ご両親や兄弟からすれば、遺産目当てのように見られる可能性。

 更には、数カ月しか一緒に過ごさなかった娘達との確執が生まれる可能性。


 要は、教授の家族からすれば、年齢差を考えると金目当ての結婚。

 娘達からしてみれば、朱美さんと結婚したせいで教授が亡くなった。


 そう思われるかもしれない・・・

 というより、事実は違えど状況的にそう考えられても仕方がない・・・


 ただでさえ愛すべき人を失ったのに、彼が愛した人達からもそう思われると考えると・・・


 精神的に押しつぶされそうになった・・・


 そのため朱美さんは娘達と籍を外し、更には全ての相続を放棄しようとした。


 のだが・・・


 結果として、それは全て杞憂に終わった。


 というのも、娘達・穂香と唯には籍を外すのを断固拒否され、教授のご両親や兄弟達からも優しく諭された上で、法律規定上の相続財産を分与されたからである。


 穂香と唯にとっては、それだけ朱美さんという新しい家族が嬉しかったし、朱美さんを1人にしたくないと思った事。

 教授のご家族にとって、穂香と唯を可愛がっていたため今後の心配をしていたという事に加え、朱美さん自身の人となりも気に入っていたため快く受け入れられており、可愛く思っていた彼女の事も心配した事。


 全員が全員、自分達の事よりも他人を心配し思いやるような心優しい人達。

 その巡り合わせこそが、朱美さんにとって不幸中の幸いであったと言える。


 そのおかげで、朱美さんが爪弾つまはじきにされる事もなく、誰一人として揉めることがなかったのである。


 ――ちなみに余談ではあるけど、俺もその教授のご家族に会った事があるが、俺と親父の事も優しく受け入れてくれるような滅茶苦茶いい人達だった――


 教授がいない事の悲しみを皆で分かち合い、皆で乗り越えていく事で、全員がふさぎ込む事なく過ごしていく事が出来たそうだ。


 そして朱美さんが大学を卒業すると、まだ学生である娘達・穂香と唯を養うために就職をする。

 出来るだけ教授のお金には手を付けず、自分の力で養っていきたいと考えていたそうだ。


 その就職先で、俺の親父と出会ったのである。


 ・・・ちなみに、うちも母親を早くに亡くし父子家庭である。


 俺自身、ずっと一人で過ごしてきた。

 母親がいない寂しさはあったが、親父も仕事がない時は出来るだけ一緒にいてくれたから、そこまで寂しい思いをしてきたとは思わない。


 でも、やはり父親としては心苦しいものがあったようだ。


 だから俺の為に、出来るだけ早く新しい母親を見つけたいと思っていたようだが、親父が亡くした母をどれだけ愛していたのかを知っている俺は、全く気にしてないから無理すんなと言ってあった。


 俺自身、そんな自分の言葉も忘れかけていた中。


 入社した朱美さんが、親父の部下に配属され指導を受ける事になったのである。


 その中で、親しくなった2人が身の上話などをした結果、互いの境遇を知り互いに同情するようになった。


 そこで、自分の為ではなく子供達と朱美さんの為にという、親父の強引な薦めにより2人は婚姻を結ぶ事になったというわけ。

 実際、親父は朱美さんに好感を抱いてはいるが、本当に俺や朱美さん、穂香、唯の事を第一として考えた結果らしい。


 朱美さん自身も、その事は納得したようだ。


 そして、朱美さんには母親として家に居て子供達を出迎えてほしいと親父は説得した。

 朱美さんも子供の事を引き合いに出されると嫌とは言えず、退社する事を決意したのだ。


 そして朱美さんは現在、専業主婦である。


 まあ、話は長くなったが・・・


 そういう事情により、朱美さん(23歳)の義理の連れ子である、穂香(16歳)と唯(15歳)と家族となったのである。


 ・・・ね?

 中々複雑な関係だろう?


 中身を要約してしまえば・・・

 →朱美さんは大学時代にシングルファザーの教授と籍を入れて、当時中学生だった穂香と唯が義理の娘となる。

 →籍を入れて数か月後、教授に先立たれる。

 →朱美さんが就職後、シングルファザーだった俺の親父と籍を入れる。

 →その結果、朱美さんは俺の母親に、そして穂香・唯が俺の妹となった。


 という事。


 ちなみに、俺の親父と朱美さんが籍を入れたのは、およそ一カ月前。

 俺が高校2年に上がる春休みの間である。


 彼女達がうちに住むようになったのも、その時からである。


 唯はちょうど高校に入る時だから苗字が変わっても特に問題はなかったが、穂香は友人達に色々と聞かれたらしい。

 まあ、その時は親が再婚したくらいしか言ってなかったようだが。


 もう一つ付け加えておくと、穂香も唯も俺と同じ高校だったりする。

 まあ穂香とはクラスは違うんだけどな。


 その話はいいとして・・・


 考えてみれば朱美さんにとっては、大学卒業前のおよそ2年と卒業後の約1年・・・

 たったの3年くらいの間で起こった出来事なんだよな・・・


 まだ俺とそんなに歳が違わなくて若いのに、なかなか波乱万丈な人生を歩んでるよな。


 そんな朱美さんを俺も支えていくつもりだ。


 だから俺は、夕食の準備なども手伝っていた。

 まあ、元々父子家庭だったのだから、家事は一通りやっていたからな。


 そうそう、ちなみに俺と穂香は同い年だけど、生まれ月で言えば俺の方が早いため兄という立場になった。

 まあそもそも、穂香にとっては兄が欲しかったという事で、生まれ月は関係なかったそうだが・・・


『ごちそうさまでした!』


 そんな事を考えている間に、全員食事を食べ終えていた。


「お風呂も沸かしてあるから、すぐに入ってきたらどう?」


 各々が食べ終えた食器を台所に片付けると、朱美さんが俺達に向かって言った。


「俺は食器洗ったり、他にも色々とやる事あるから後でいいよ。先に母さんか穂香か唯が入ってきなよ」


 と、俺は理由をつけてやんわりと断る。


 ちなみに俺は、朱美さんに対して母さんと呼ぶことに抵抗はない。


 ただ朱美さんの事を家では母さん、外では朱美さんと呼んでいる。

 こんなに若い人を外で母さんとか言ったら、聞いた人が変な顔をするに決まっているからな。


 それに朱美さん自身も、母と呼ばれたくもあり、逆にまだ若いから名前で呼ばれたいという気持ちもあるらしく、どちらの欲求も満たせるという事で満足しているらしい。


「え~?食器は私が洗っておくから、兄さんが先に入ってくれば?」


 後でいいと断った俺に対して、穂香は俺に先に入れと言ってくる。


 穂香や唯も、俺の家に来るまでは家政婦さんが家事をしてくれていたとはいえ、ある程度の事は自分達でも出来る。


 そのため、うちの家事は誰が何をやるというより、自分から進んでやっていくスタイルである。

 だから、穂香の申し出も普通ならおかしな事ではない。


 しかし・・・


「あ、いや・・・わかった、とりあえず食器は頼むよ・・・ただ、どちらにしても風呂は後でいいから」


 そう・・・

 俺は是が非でも・・・


 先に入るわけにはいかないのである・・・


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