第211話 マエサルにて

 僕が気がついたのは翌日の夜のこと。


 あの日、あのとき、リヴァルドはペンダントを使ったんだ。

 すべてを破壊する力。

 強大な魔力を持つリヴァルドのあらゆる枷を外した力が、僕らもエッセル号をも、すべてを無に帰すべく放たれたのだという。


 僕は仲間のみんなに守られた。


 一瞬遅れて気付いた僕は、白い魔法を使った、らしい。

 無我夢中で、みんなを助けたくて、自分では何をやったか分からないけど。


 僕の結界はそこにいたすべての人と、エッセル号を包み込んで、それとは別に放たれたリヴァルドの魔法を押し込んだんだって。

 ママは船の番もあって、エッセル号に残っていた。それで、エッセル号を結界で守ってくれたから、エッセル号は難破しなくてすんだみたい。


 白い光が消えて、ママは慌てて陸へとやってきた。

 みんな僕のことを守ろうと結界を張ってくれたみたいで、魔力欠乏で倒れちゃってたみたい。

 けど、ママの介護でなんとか目覚めた。

 僕の白い魔法も、みんなを少し癒やしていたみたい。

 少し休んでみんなは動けるようになったって聞いた。


 リヴァルドたち一派。


 ペンダントを使ったのは、最初に船を攻撃した2人。

 そしてリヴァルド。

 死んだと思ってた。

 ううん、死んでいたのは間違いないって。


 だけど、僕の白い魔法。

 その影響を受けて、ほんの少し魔力が供給されたんだって。

 魔力がなく止まっていた心臓が再び奇跡的に動き出したらしい。

 3人とも、ただ息を吹き返しただけで、いまだに目覚めてはいない。


 他に魔導師2人騎士4人がいた。

 みんなに気絶させられて岩場に寝てたけど、その人達は、僕の結界にいて無事だった。むしろ爆発で目を覚ましたみたい。呆けていて、立ってすらいなかったらしいけど。


 ママは、エッセル号をリュックに入れた。

 動かすと開いた穴がどう影響するかわかんないからね。

 敵に見られたかも知れないけど、まぁいいかって。

 そもそも異空間に収納するなんてのは、リュックのオリジナル。この世界に他には無いものだから、エッセル号が消えた、とは思っても、収納した、なんて思わないだろうって。ひょっとしたら岩場に隠れて見えないだろうし、ママが証拠隠滅に船を破壊した、ぐらいに思ったかもね、なんて言ってる。


 船は収納したけど、僕が寝たままで、リュックから出せなかったから、荷物はリュックの中。

 ただ、ママが船を収納する前に、船に出していた鞄やなんかは下ろしていたから、必要最小限の物はある。

 シューバも2頭いたしね。本当は馬車を引っ張って貰う用だったけど、その子たちに荷物を持って貰うことにしたみたいです。テントとかちょっとした食べ物とかお金とか。一応旅を続けられるぐらいのものは、普段からみんな用意はしてるんだ。


 みんなは街道に出て、僕と荷物をシューバに載せ、1回野営をしつつ、近くの都会、マエサルの港町までやってきた。

 リヴァルド一味だけど、起きている人はみんな大人しく従ってくれて、起きない人を起きている人が順番に担ぎながらついてきたらしい。今は、町の憲兵さんの詰め所にある牢屋で大人しくしている。

 ちなみに、要所要所は国の騎士団が押さえてくれているから、領主が消えても治安は戻ってるそうです。ここマエサルは、川を渡ればトレネーだし、船を出すのと並行して騎士団が派遣されていたから、騒動自体起こってないんだって。


 でね、そんな風に王様が命令して騎士団を派遣したり、領主が反旗を翻したりしたでしょ。ここらもミモザと同じく、暫定国王直轄地、ううん今回の場合は、直轄領ってことになったみたい。

 ミモザからの街道と川沿い、そしてトレシュク領が、暫定的に国王の直轄となったって、勅命が飛んだんだって。


 今回、僕が寝ちゃったこともあって、ここマエサルでしばらく休憩していいことになったみたいです。僕だけじゃなくて、船のみんなはほぼ倒れちゃったしね。それに気を失ったままとはいえ、リヴァルドをこの地に放置は困るって。

 騎士団経由で、いろいろお話しがあったみたい。


 僕たちは、ゆっくりとここマエサルで休養ってことになったんだけどね、目覚めて数日、割と忙しく過ごしてます。

 なんかね、王様は一応?王都に帰ったみたい。

 そのときにね、ミモザ代官に今回の直轄地の管理を命じる、なんていう命令書を置いてったんだって。

 複雑な形をとってる、って言ってたミモザ代官、これってドクのことじゃない?その補佐?にゴーダン?だったっけ?

 ちゃんとした理屈はよく分からない。子供の僕には内緒の理屈があるらしいけど、エッセル島を確保するために受けたこの代官のお仕事、ちょっと無茶振りが増えすぎじゃない?

 まぁ、これに関しては、ドクとゴーダンが、騎士団となんだかんだやってるみたいです。

 だもんで、そうじゃないことは、なんとなくママやヨシュ兄がさばいてるんだけど・・・


 トレサでの戦いの噂は、あっという間に、離れたこの町に届いてました。

 それと、先日のリヴァルドとの戦いも、あれだけ派手にやれば遠目に見た人もいたらしく、こちらの噂も・・・

 で、さらなる噂。

 夜空の髪の子供が無双?

 いやいや、そんな目立つことは・・・・そんなには、してなかった・・・・と、思いたい。

 なんだか尾ひれに背びれ、どころか下手したら翼までついちゃって、とんでもないお子ちゃまヒーローみたいに噂されています。

 そんな本人がいるっていうことで、お外に出ても宿にいても、すぐに人が集まっちゃう。

 ママも聖女とか女神とか・・・

 ママも、領都で随分治療したから目立っちゃったみたいで、僕たち親子の扱いが大変です。

 一応ね、騎士の人達が王様にこんな危険があるかも、って言われてて,対策をとってくれてるみたいなんだけどね。それが、ちょっぴり憂鬱です。

 だって、どこに行くのも5、6人ものフル装備した騎士の人が前後左右に警備してのお出かけなんだよ。お陰で人が近づかなくなったけど、遠巻きに手を振ってきたり、物が飛んできたり。あ、いじめってわけじゃないよ。なんかプレゼント、らしいです。直接渡せないからって、投げてくるの。1人やればみんな真似しちゃって大変。お花に人形、食べ物なんかも・・・

 結局出歩かないようにしようってなっちゃった。



 そうこうしているうちに、カイザーたち陸地班が合流したよ。一応トンツーの魔法で連絡はしてたからね、無事合流です。

 合流できたらみんなでミモザへ帰ろうって話だったんだ。

 やっと、この隠れての生活から解放されるって思うとホッとする。

 ただね、いざ帰ろうってなったとき、捕まえてたリヴァルド一味どうするかって、騎士団ともめたみたいなんだ。

 せめてこの人たちの処遇決まるまで待って欲しいって泣きつかれたって、ゴーダンがプリプリしてたよ。

 結局、カイザーがエッセル号を最低限修理するってことになって、修理の間はちょっぴり足止め。

 僕は、この修理にお手伝いすることにしたよ。ここまで野次馬さんたちはやってこないしね。じっと宿で籠もってるのは、もう勘弁。



 なんかね、途中で不屈の美蝶が領主を発見したんだって。

 ナオル港のすぐ近くの集落を占拠して、隠れてたそうです。

 その集落、不屈の美蝶が行きに通ったところだったんだそうで、彼女たちが確保したんだって。

 探す都合もあるし、ってことで、勝手知ったる行きの道をそのまま帰りながら捜索を手伝おうってなってたらしい。彼女たちはナオルまで西へ行って、そこから南下するっていうルートで領都に入ったらしいからね、たまたま見つけたってことみたい。

 彼女たちもナオルで足止めみたいです。


 結局、行きのルートで戻った虐殺の輪舞は、同じようにレンソ村から川を渡り、もう領都に入った頃だろうって。

 ちょっと、というか、かなりうらやましいです。僕も早くおうちに帰りたい。



 そんな日々を送っていると、やっと連絡がきたよ。

 えっとね、ザドヴァ国の人間はザドヴァ国へ送り返すことになったみたい。外交ルートで、賠償金とか送って貰うお礼とか、そんなものをたっぷり貰うんだそうです。

 トレサに詰めていた軍船が半分くらい戻ってくるようです。

 半分は残って、トレサで警備についたって。

 で、数艇がマエサルでリヴァルドたち9名をピックアップして、Uターン。そのままザドヴァへ行くとのこと。

 この前ね、マエサルには王都から文官もやってきたんだ。外交官ってことかな?

 一緒にお船に乗ってザドヴァへ向かっていったよ。もちろん文官の人は、ザドヴァ人とは別のお船に乗ったようです。




 てことで、やっとです。

 やっとおうちへ帰れるかな。

 とりあえず、エッセル号の応急処置は完了、ってことで、僕ら宵の明星勢揃いで乗船だ。

 みんなで、とりあえずはミモザへ向かいます。

 あそこの代官屋敷も、完全身内だしね。

 だけど、できたらエッセル島かダンシュタのおうちでゆっくりしたい。自分のお部屋で眠りたいなぁ。

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