第150話 本当のところ

 「良かったのか?」

 お部屋に、僕とアホルと一緒に帰っての、バンミの第一声。

 「うん。」

 「教官に知れたら大変なんだぞ。」

 「そうだけど、誰も言わないでしょ。」

 「なんでそう思う?」

 「うーん、勘?」

 「はぁ?」

 バンミは呆れたって顔してるけど、本当は完全な勘でもないんだよね。



 あそこにいた子は、まだ魔法が使えない、言ってみればここに連れられてきて間もない子たち。まだいろいろと諦めちゃってる長くいる子とは違うって思ったんだ。

 ご飯の時とかに、ほとんどここにいる子たちとはすれ違うんだけどね、長そうな子ほど、いろいろ諦めてるし、心がなくなってる。


 僕は、小さい頃からテレパシーな能力を使ってきたからか、力を使うつもりがなくても、意識しないと、人の気持ちとか入って来ちゃうんだよね。で、普段は意識してそういうのが入らないようにブロックしてる。っていうか、小さいときからブロックしてるから今では普通の状態がブロックした状態になってるって感じで、よっぽど強い感情じゃないと、入らないようにしてるんだけどね。人様のプライバシー保護っていうより、僕の精神的な防御、って意味が強いんだけど。


 普段はそうやってブロックしてるけど、ここの人達ってそんなに魔法すごい人は残ってないってバフマに聞いて、このブロックをちょっと緩めてるんだ。

 町中でやると僕が耐えられないけど、ここでは案外大丈夫だった。だってここの人達は、ほとんど諦めの感情が多くって、人に対してどうこうしようっていうドス暗い感情はほとんど入ってこないから。


 子供たちが思っているのは、ほぼほぼ怒らせないようにがんばらなきゃ、ってことばっかりだ。高みを目指すっていう気持ちもなければ、褒めて貰いたいってことすらない。目立たず、命じられたことを命じられた範囲で。


 少し長くなると、それすら思ってないみたい。

 心が死んじゃってる?

 あのね、教官たちも実はこの子たちと同じだ。

 鞭を振るってるときさえ、無関心。ていうか、こうすべきだからやってる作業、みたいな感じ。

 そんな人達の、ちょっぴり心が動くのが、疑問をなげかけられたとき。って言っても、これをやってるの、ほとんど僕なんだけどね。

 僕が、「なんで?」「どうして?」ていう言葉を出すと、一瞬戸惑いがあって、感情がムクムクって出てくる。その感情は何かわからないけど、感情が出てきたことにさらに戸惑い、戸惑わせている原因に向けて、怒りが爆発する、そんな感じ。

 これはね、さっきの座学の時間に気付いたんだ。

 検証するのに何回もぶたれて、痛い検証代になったけど、今までの違和感、ての?他の教官との会話とかも思い出して、僕がぶたれるまでのいろいろを思い出したら、きっとこれが正解なんだと思う。

 バンミが、ここの卒業後の進路の一つで、エリートじゃなかった子が教官になるって聞いたのもあって、教官たちも、被害者だって思うことにしたよ。



 まぁ、僕と一緒に来た子から教官まで、ここにいる人達はこんな教育を受けて、段々と心が空っぽになっていったんだと思う。

 てことはね、僕がヒールしてあげて、脱出を誘った5人てのは、まだまだ心が生きてるってこと。

 アホルから聞いてたみたいに、もともとここの国の教育で、気持ちを表に表さないようにって育てられてるし、教会に行ってたら同じように体罰受けてたり、家庭でも体罰が普通に行われてる国だってことみたいだけど、さすがにここほどひどくはなさそうなんだ。それじゃないと、長いほど心が死んじゃう、なんてことないもん。この施設ではあえて、心が死ぬぐらい痛めつけることに熱心になってる、そんな気がするんだ。


 じゃあ、なんでそんなことを?


 それはきっと、あのペンダントとかの魔法陣のためだ。

 以前ドクが言ってたんだよね。なんでそんな死んじゃうまで魔力を吸わせられるんだろう?って。

 「人間の本能ってのは、なかなか馬鹿に出来ないもんじゃ。どんなに暗示が深くても『死ね』ってのは難しい。じゃから工夫して、たとえば『歯に仕込んだカプセルを噛め』とか命じるんじゃ。」なんて言ってた。自殺は命じてもさせることはできないないけど、裏技はあるって言ってたんだ。

 それと同じで魔力が枯渇したら最悪死ぬから、その直前で人はストッパーをかけられるはず。なのにどうやって死ぬまで引き出してるんだろう、って頭を悩ませていた。絶対に裏技があるはずじゃって、それでないとこの魔法陣で死ぬまで吸えるのは、理論ではできても実際無理のはず、って・・・


 僕は思う。

 なんのことはない。答えは、魔導師の方にあったんだ、ってこと。

 バフマの言う第二段階。これは最後のストッパーを外す技なんだと思う。



 まぁ、それはいいとして、僕が5人に話した理由。

 それは簡単。


 だってね、まだこの子たちは、ここで痛めつけられることになれてないんだ。

 ヒールをかけてあげて、痛みから解放されたときの呆けた感じ。そのとき、あきらからホッとしてたんだ。痛みがなくなって泣くほど嬉しかったんだ。

 で、僕は言ったんだ。

 「ここでずっと痛い目に遭って魔法が使えるようになって、そのせいで死んじゃうのと、自由を目指して死ぬ気で脱出するのと、どっちがいい?」って。

 あのとき、みんなは痛い目に遭うことにものすごく怯えてたよ。

 ぶたれることだけじゃなくて、今は魔法の道を通している段階で、それもどうやら強引にやってるみたいだから、色々とボロボロでとっても痛かったんだと思う。

 それで、僕がヒールをかけて、痛みがなくなったんだ。それがまたあの痛いのに戻る、しかも僕は「死ぬ」なんて言葉を使ったから、余計に怖くなっちゃってる。

 今の痛みのない状態を覚えちゃったから余計に怖くなる、って言ったら、僕が悪いことしちゃったのかも。別にわざとじゃなかったんだけどね。余りに痛そうだし、って思わずヒールしちゃっただけだし。

 そのとき、無意識に僕にすがりつく感情っていうのか、そんなの感じたんだ。


 後の行動は、正直話すと、衝動的でした。ハハ。何も考えずに言っちゃった。

 でも、ゾエアンが言い訳みたいなこと言ってたけど、それでも、その心の中で、「でも本当は助けて!」て叫んでるの、僕はちゃんと聞いたよ。

 だから、言っちゃったのは考えなしだけど、結果オーライだと思う。

 うん。

 だから誰も告げ口なんてしない。

 僕はそう信じてる。



 「なぁ、ダー。さっきの話、本当か?」

 僕とバンミが言ってるのを聞いて、アホルが言った。

 「家族がなんとかなるんなら、俺は敵は味方にまわりたい。」


 ほらね。

 僕は、アホルに抱きついたんだ。

 

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