第8話 異世界技能の片鱗
まさかの野宿。
いや、まあキャンプだと思って我慢しよう。
そう思えば、初めてのキャンプだ。
何故だろう。ワクワクするもんだ。
ワンタッチテントを張り、エアマットをテントに引く。
ライトダウンコンフォートをかけて寝床はできあがりだ。
トイレ用テントを張り、バイオトイレを車に接続。
折りたたみ式ソーラーパネルや蓄電器もあるけれど、日が陰っているので車の充電容量に期待。
エアバスプールに電気ポンプを接続。
電気ポンプはまだ一つあるけれど、こっちは保険だ。
ヒーターも繋いで風呂を沸かす。
ガスコンロに鍋を置き、今日は……よし、ラーメンで。
時代は便利になった。
ありがとう2055年。
楽しんでるだけじゃダメだ。一応野獣には注意。
といっても、その気になれば銃もボウガンも格納済み。
気が付けるかどうかだけが勝負だ。
そう、おれはハンター。
俺の後ろに立つんじゃないぜ。
……暇だ。
何も出てこねー。
たまに烏みたいなのが鳴いてる。
『アホ-』
おっけ、撃ち落とすから出てらっしゃい。
……
……
寝ようかな……
結局1日目を何事も鳴く無事に過ごし、2日目。
折りたたみソーラーパネルを朝から広げ、長期滞在準備バッチこいだ。
何で俺はアイツの言うこと素直に聞いてるんだろうか?
他に宛てがないからさ。フッ。
一流の登山家みたいなことを言ってしまった。
しかしガチな話、このまま待ってて所持品を無駄にしてるのもねぇ。
……狩りでもしようかな。
俺狩人だし。
とはいえ人をアホ呼ばわりする鳥を獲るのはどうなんだろう。
ここで保護云々を語る気はないが、ばっちそうで嫌。
しゃーなし、魚で我慢しよう。
水中銃もあるし。
潜る気はないが、たまに跳びはねてる鮎っぽい何かはどうだろう。
車の中に塩もあったし。
気分はハンター、というかスナイパー。
カロリーバーを葉巻のようにプハーとかしながら水中銃を川の中にそっと入れる。
気付かない魚。トリガーをそっと引く。
思ったより順調でびっくり。
これをイレグイというのは釣り人に失礼か。釣ってねーし。
十匹ほど「獲ったどー!」をしたところで終了……飽きた。
まだ昼なのに。どうしよう。
車の中の斧を取り出し、木を縦に裂く。剣鉈で先を尖らせて、串が完成。
一応川の水をすくって沸騰させ、お湯で串を洗う。そして魚を刺す。
何故俺はやり方も知らないのに踊り串なんて目指したのだろうか?
夜、やることがない。
昼頑張った魚の串焼きを食べるくらい。
車にタブレットがあったことを思いだし、引っ張り出す。
開いて一人歓声を上げる。
「イサギリ工業」が提供するアプリ「ディクション」が入っていた。
これは嬉しい。
ディクションは防災に関連する言葉の入ったサイトを勝手にコピーし、画像とリンク先をダウンロードするアプリだ。ダウンロードしているからインターネットが使えない緊急時でも使用できる。
今や7G、ほとんどのアプリがオンラインサービスしかやっていない中、余りに余ったハードのメモリをこれでもかと使ったサービスだ。
「野外で簡単調理」とか、「古の知恵」なんてものも対象になっているので、「これがあれば異世界行っても余裕www」だと、とあるサイトでは評判だ。
よかろう、検証してくれるわ!!
……ZZZ。
はっ!?
三日目、朝慌てて目覚めた。
ディクションを読んでたつもりだったが五行目以降の記憶がない。
というか油断しすぎじゃないだろうか俺?
これも精神異常耐性のおかげなら、寧ろマイナス補正だ。
さて、今日の朝飯は……できれば持ってる食料は節約したいんだよね……。
そういえば女が持ってったリンゴ。あれはかなりの薬効があるらしい。
漢方みたいなもんかな?
つまり毒ではないらしい。
朝のフルーツ、いいじゃない。
よしあれにしよう。
……驚きの発見。
金のリンゴは一口食べると赤い普通のリンゴになった。
因みに味は桃。
ホワイイセカイフルーツ!?
ところで、数日とは何日以内のことを言うのだろう?
四日目。
熊に襲われた。
正確には熊っぽい何かだけど。
銃が火を噴いた。
他特記事項なし。
以上。
五日目。
昼は若干飽きたけど一昨日格納した魚にしようかな……そういえば魚って毒あるやついるよね!? って思ってたら来客があった。
後ろにガッツリ荷物を載せた、荷馬車の御者席に乗るのはジャンヌとおっさん。
鉢巻きした厳ついタンクトップ。渋い無精髭のナイスミドルだ。
……ハゲだけど。
「お待たせしました」
ジャンヌに言われて、ひとまず見捨てられた訳ではないと安心する。
「あー……ハジメ……マシテ」
思わずドモった。コミュ症か俺は?
いや、得体の知れないおっさんを前にしたら皆大概こうなるさ(偏見)。
「よう、アンタが嬢ちゃんの言ってた得体の知れない記憶喪失の浮浪者か」
失礼にも程がある。
ジャンヌはあとでシバこう。間違ったこと言ってない気もするけど。
「ちょっと、ゴモラさん!?」
このハゲ、ゴモラというらしい。
「おっと悪い悪い。で、御依頼の品はどれだい?」
何のこっちゃ?
流石に俺が困っている間にジャンヌは勝手に話を進める。
「あの黒い車輪の金属箱です」
「おう、あれか。……うへぇー、なんじゃこりゃ……確かに馬車には見えねえなー」
「お願いできますか?」
「ああ、もう金も貰っちまったしな。細かいことは訊きゃしねえよ!! 任しときねぃ!!」
豪快に威勢良く声を上げながら、荷台の荷物を降ろすおっさん。
一見大工道具に見える。残りは……材木?
「なあ、何すんだ?」
流石に不安になってジャンヌに尋ねる。
「アナタのあの……変な箱を偽装します。」
「変て……。車ね? クルージアのワゴン軽。ホライゾン・タフネスギア。」
「くるくるごんけい? ……なんですか?」
「いや、いい。で偽装って?」
「だから、あの箱の周りを木の壁で囲って、馬を繋いで引いているフリをすれば、関所も簡単に通り抜けられるじゃないですか。」
「おお!! ……って車に傷つけたりしないよね?」
「安心して下さい。ゴモラさんはベテランの大工職人ですよ?」
根拠が弱い気もするが、確かに良い案だと思ったので任せることにした。
早い。大工とかやったことないけど素人でも分かる。
定規も巻き尺も使わず、適当に切っているように見える木材は、同じ長さに揃えられている。
どこからともなく出てきた釘で木材に打ち付けられたと思ったらそれは壁を成した。
木材が乗っていた荷馬車の床を抜いて、車に合うよう大きさを調整。
四方に木の壁をつけた俺の車は、確かに一見只の馬車のようになった。
二時間かかっただろうか? まだ日も沈んでいない。
「終わったぜ!!しっかし、詮索するなと言われたが……なんなんだこりゃ?」
改めて車に驚いているらしい。
「くるくるごんけいだ」
「へー、まあいいや」
いいんかい。
………………
馬車に引っ張られているふりをしながら車を走らせる。
ちゃんと前と荷台のドアを開けられて、前が見える辺りこのおっさん只者じゃない。いや、そこは普通か?
やたらと防音性が高まった車内でジャンヌとおっさんが操る馬の速度に合わせながら、俺は漸く人里への侵入に成功した。
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