第38話 モニカがお嫁に行く日(ルミとの別れの日もあるので閲覧注意でお願いします!)

 娘の成長は早い。


 あっという間に大きくなって、嫁ぐ日がやってくる。


 と、思っていたのだけど、


「お母様、私、お嫁に行くの、やめます!!」


 その娘が駆け寄ってきたかと思うと、抱きつかれて、泣かれていた。


「事情を話してくれないかな?そうじゃないと、そこで花束を持って石化している貴方の婚約者が不憫だから」


 モニカは顔を上げると、涙で濡れた瞳を、タイミング良くそこに訪れていた婚約者であるユリウスの部下に向けた。


 モニカの婚約者は、侯爵家の次男坊だ。


 ユリウス専属の騎士として仕えていたけど、モニカに一目惚れして、


 モニカに話しかける許可を得る為に365回ユリウスと決闘を繰り返し(つまり1年だ)、


 モニカと二人でお茶をする許可を得る為に180回ユリウスと決闘を繰り返し(つまり半年だ)、


 モニカに贈り物をする許可を得る為に90回決闘を繰り返(つまり3ヶ月だ)、


 モニカと二人で出かける許可を得る為に120回決闘を繰り返し(4ヶ月だな)、


 モニカにプロポーズする許可を得る為に365回決闘を繰り返した結果、


 やっと辿り着いた二人の結婚だけど、


 突然の結婚やめる宣言だ。


 マリッジブルーなんかじゃない。


 私は何でモニカがこんな事を言い出したのかは想像がつく。


 でも、ちゃんと彼に説明する責任はある。


 誠実に向き合ってくれる真面目な彼に、ちゃんと話さなければ。


 結婚なんかやめて、いつまでもいていいと言うユリウスは無視していい。


「ちゃんと話せる?」


 涙を拭いながらコクンと頷いて、婚約者の手を引いて客間に座らせていた。


「突然、ごめんなさい。貴方との結婚が嫌なのではなくて、今は、家から離れたくなくて……」


 そこでやっと次男坊は落ち着きを取り戻して、モニカの肩にそっと触れた。


「それは、ルミ殿の事ででしょうか?」


 返事の代わりに、また涙を溢れさせながら、頷き返していた。


 やっぱりと思うと同時に、次男坊も納得している様子だった。


 ルミはもうほとんど起き上がる元気がなく、ベッド代わりの籠の中で一日中寝ている。


 17年とちょっと。


 猫にしては長生きしたと思う。


 いつその寿命が尽きてもおかしくはないんだ。


 生き物と関わる以上は避けては通れない道だ。


 結婚式の招待者にとりあえず延期の連絡いれないとなー。


 大変だけど、仕方ないかなって思っていると、


「モニカお嬢様と御両親の許可を得られればですが、結婚式をこちらの屋敷で行う事はできないでしょうか。ルミ殿がお休みになられているサロンは、中庭が見渡せます。そちらで式を執り行い、私は、モニカお嬢様の御両親とルミ殿に貴女を幸せにすると誓いたい。そして、結婚してからもモニカお嬢様はこちらでルミ殿とお過ごしください。私は近くの森で野営して、そこからお嬢様の元へ通います。野営は慣れていますので、なんの問題もありません。お嬢様もルミ殿もどこにも行く必要はありません。御二方はいつまでも一緒です」


 それを聞いたモニカは、顔を覆って泣いていた。


 どこかの元ワンコに聞かせてやりたいし、爪の垢を煎じて飲ませてあげたかった。


 もちろん、私が二人にその許可を出したよ。


 そして、よく晴れた空の下で、予定通り、二人の結婚式は行われていた。


 柔らかい日差しがルミのいるサロンに差し込んでおり、そこから式場となった庭が見渡せている。


 ルミは頭を少しあげて、二人の幸せそうな式の様子をちゃんと見届けていた。


 とても満足そうな顔をしていた。


 結婚式が終わって、それからしばらくして、その日はやって来た。


 モニカは明け方からずっと、ルミを膝に乗せて話しかけていた。


 今まで一緒に過ごしてきた思い出をだ。


 そしてそれを話し終えた頃、ルミは息を引き取った。


 もちろん、モニカは泣いて、たくさん泣いて、夫となった次男坊はそれを受け止めてくれていた。


 しばらくは動かないルミを腕の中に抱いたままだったけど、自分で場所を探して、自分で埋めてあげる穴を掘って、納得のいくお別れができたのか、穏やかな顔でルミを土の中へ還してあげていた。


 モニカは、夫と仲良く、ここの屋敷で過ごしている。


 結婚してすぐに二人で住めるように、私が許可をしたからだ。


 だから、ルミが眠っている場所のすぐ近くにいる。


 幸せそうな声が届いているはずだ。


 たまに邪魔する奴の声が届いているかもだけど、その時は私がお仕置きをしているから、勘弁してあげてほしい。


 間もなく家族が増えるから、ますます賑やかな声が、そこに届けられると思うよ。











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