第37話 モニカとルミ

 空が綺麗な日に、可愛い我が子は生まれた。


 名前は、モニカ。


 女の子なんだけど、私に似た容姿で蜂蜜色の髪に榛色の瞳をしていた。


 生まれたばかりの赤ちゃんは、手も頰も足もフニフニで、こんなに小さくて大丈夫かと思ったけど、


「こんなに小さくて、大丈夫なのか?」


 ベビーベッドを覗き込むユリウスを見て思った。


 口には出さなかったけど、ルゥよりは大きいから大丈夫だと。


 私も自分のベッドの上で上体を起こしていたけど、足下にニャーと小さな声が聞こえたから、その子を抱き上げてモニカの顔を見せてあげた。


 一瞬、ユリウスが顔をしかめたけど、見なかった事にする。


 この日から私達のさらに幸福な毎日が始まった。


 子供の成長は、びっくりするくらい、あっという間だった。


「るみ」


 2歳を過ぎたモニカがニコニコしながら、大の仲良しの白猫を呼んだ。


 猫の方も、甘えるようにモニカの小さな膝の上に乗っている。


 私が名付けた別の名前があったんだけど、何度教えてもモニカがルミと呼ぶから、その白猫の名前はいつの間にかルミになっていた。


 モニカとルミは、リシュアとルゥみたいにいつも一緒で、一人と1匹で仲良く大きくなっていった。


「猫とばかり遊んでいないで、俺とも遊んでくれ、モニカ~」


 ユリウスの情けない声が聞こえてきた。


 娘が生まれてから、完全に骨抜きにされている。


 悪鬼の見る影もない。


「やー、パパ、ルミにイジワル、だから、やー!」


「モニカ~」


 そろそろうるさいな。




「ルゥ、伏せ!!」




 途端に、匍匐前進のような体勢でユリウスが地面に伏せた。


「ティ、ティエラ……」


 物悲しい顔で、私を振り仰いでいる。


 スタスタとユリウスの隣まで行って、伏せているその横にしゃがんだ。


 頭をよしよしと撫でる。


「モニカは今はルミと遊んでいるのだから、ジャマしちゃダメだよ」


「……分かった」


「散歩行く?」


「行く……」


 ユリウスの手を引いて、モニカ達から引き離すべく庭に散歩に出た。


 森と同化しつつある広い庭は、散歩を満喫できる。


 そして適当な場所に腰をおろすと、ユリウスは私の膝枕に突っ伏してきた。


 いじけているらしい。


 スリスリと顔を擦り付けている。


 あまりにも子供っぽいその姿に、悪戯心も芽生えるけど……


「あんまり、お腹を押さないでね。今度はパパ苦しいって怒られるよ」


 それを伝えると、ガバッと体を起こして私の顔を見た。


「子供がいるのか?」


 ユリウスの手が恐る恐るといった様子でお腹に触れる。


「うん」


 呆けたような顔を見せた後、抱えた膝に顔を埋めていた。


「ありがとう、ティエラ。俺は、幸せだ」


 顔を上げずにそれを言ったから、泣いているのかもと思った。


「パパーママー!」


 モニカが満面の笑みで、両手いっぱいに花を抱いてきた。


 足下には、ルミが並走して走ってきている。


「おはな。パパとママと、あかちゃんに!」


 はい!と、花を差し出されていた。


 それは、綺麗なクチナシの花だった。


「俺にも、くれるのか?」


 顔を上げたユリウスは、少しだけ震える手で花を受け取っていた。


「うん!ルミに、イジワル、のパパは、キライだけど、モニカにやさしい、パパはスキ!」


「………」


 ユリウスは、また抱えた膝に顔を埋めて肩を震わせていた。


「綺麗なお花をありがとう、モニカ。花瓶に生けに行こうか」


 二人に声をかけて、みんなで仲良く屋敷に戻っていく。


「え、子供の事知らなかったの、俺だけか?」


 その途中でそんな疑問をユリウスは口にしていたけど、私とモニカは二人でくすくすと笑い合って誤魔化していた。















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