第12話 疎まれていても
私がどうしてユリウスを嫌わないのか。
嫌えないと言った方がいいのかな?
それは、あの屋敷での生活とこの城での生活の中で、ユリウスだけが、私を人として扱ってくれたから。
初対面の時こそ敵を見る目だったけど、でも、ユリウスが出征するまでの短い結婚生活と呼ぶそれは、酷いものではなかった。
寝室の外では接触は最低限だったし、寝室の中でもそんなに会話があったわけではない。
一日一言会話があればマシなくらい交流は希薄だったけど、ユリウスは使用人達ですら私の事を蔑ろにしようとしたのに、それを止めさせてくれていた。
何も知らない私に知識を身につけさせようとしていた。
実際に今、その知識があるから一人でも生活ができている。
何を思ってそうしたかはわからない。
でも、少なくともユリウスがここにいる間は、私を人として扱ってくれていた。
多少は庇護する対象だと見ている面もあったと思う。
それが事実としてあったから、ユリウスが元気に帰ってきてくれるのをここで待とうと思っていた。
誰からも疎まれていたとしても、ユリウスが帰ってくるまではここに居ようと決めていた。
それから、ちゃんとお別れをすればいいだけで、それに、一人でも別に構わないし……
嫌味なくらいよく晴れた空の下、奥まった所にある狭い中庭で大きな息を一つ吐く。
「仕事以外で人と話す機会がないから虚しいとは言ったけど……」
私だって、話し相手は選びたい。
こっちに近付いてくる人物を見てうんざりしていた。
相変わらず、私の生活は誰も助けてなんかくれないから、一人で水を汲みに来たところだった。
「あら。これはこれは、第一王子妃様ではありませんか。お変わりはありませんか」
耳障りな声でとても分かりやすく慇懃無礼な態度で挨拶をしてきたのは、デラクール公爵令嬢のジャクリーン。
私の1つ上で、まもなく17歳になるはずだ。
ユリウスと同じ歳。
「………」
「ふふっ。生まれと育ちが卑しい人は、言葉も知らないようね。貴女がまだ生きていたなんてびっくりよ」
「おかげさまで……王宮の片隅に住まわせてもらっていますので、絶好調ですよ。デラクール嬢」
「あら、汚らわしい豚は人の言葉を話せたのね」
いちいち暴言の一つ一つに感情が動くことはないけど、何がしたいのかな……この暇人は。
こっちは生きるのに忙しいと言うのに。
「随分と分不相応な物を身につけているのね」
ジャクリーンの視線が、私の左手首に止まり、
「ユリウス様の瞳の色と同じ、サファイアね」
咄嗟にブレスレットを袖の中に隠す。
これ、サファイアだったの?
ガラスとかくらいに思ってたから、ちょっとだけ自分に呆れた。
ジャクリーンの言う通り分不相応だよ。
2年近く身につけていて、その価値を理解していなかったのだから。
やっぱり、何を考えてユリウスがこれを私の手首に残していったのかがわからない。
私が考え込んでいる間もジャクリーンは何か言っていたけど、反応の薄い私に飽きたのか、
「とにかく、貴女はユリウス様とさっさと別れるべきよ」
そう言って去って言った。
私に言ったって、私に決定権はないのだけどなぁ……
ジャクリーンの訪問は小石につまずいたくらいに思うことにして、私は私の仕事に戻っていた。
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