第7話 私とユリウスは

 その日の夜、アンベールさんに報告を受けたのか、ユリウスが何か言いたげな様子だったけど、結局、横になるまで話しかけてくることはなかった。


 声をかけられたのは、お互いに背中を向けて寝ようとした時だった。


「悪かった」


 一瞬、何のことを言っているのかわからなかった。


 背を向け合ったままだから、どんな顔でそれを言っているのかも分からない。


「マリエットは、俺の側近が雇った者だ」


 ああ、そう言うことか。


「別に、問題になる前にアンベールさんが解決してくれたから」


「いや、それだけじゃないだろ。お前、食事にまで嫌がらせされていたんだろ?」


「毎食じゃないから、いいよ」


「一回でもあれば問題だ。監視は許可しても、嫌がらせを許可した覚えはない。あんな事を俺が指示したと思われるのも嫌だ」


「そんな事は思っていないよ。潔癖だね、ユリウスは」


 自分が関係ないのなら放っておけばいいのに、私に何と思われようと王子様には関係ないはずだけど。


 私に恨まれて、何か仕返しをされる事を警戒している?


「お前みたいな何も持っていない無力な子供に、ネチネチ嫌がらせをしていると少しでも思われるのが腹立たしい。俺はそんな小者じゃない」


 ですよねー。


 はい、無力な子供です。


 やっぱり私の心配じゃなくて、自分の心配してるのね。


 安心しましたよ。


「俺がお前への警戒を解く事はないが、俺がいる限りは、お前の三食と昼寝は保証する」


「あと、おやつね」


「……分かった」


 こんな約束の後しばらくは私の食事にイタズラされることはなく、マリエットの事は忘れかけていた。


 もちろん彼女はクビになった。


 目の前からいなくなってくれるのなら、その後の事はどうでも良かったけど、耳に入ってきたのは、仕事が見つからなくて結局結婚して、だけどその結婚先で問題が起きて────


 やっぱりどうでもいいか。あんな人。


 自分の今日と明日の事を考えるだけで精一杯だ。


 毎晩、私とユリウスが生きていることに感謝しているよ。


 それで、布団に潜って思う事は、ルゥを抱きしめたいなってこと。


 ルゥを抱っこできるだけで、極上の癒しになるのに。


 リシュアの時は、ルゥと寝るのが当たり前だったから、1人でベッドに寝ていると、そればかり考えていた。


 結婚した時から、私とユリウスは同じ寝室に押し込められていた。


 王室のしきたりだとか、何とか言われたけど、調べるとそんなものは無かった。


 そもそも、10歳かそこらで結婚させることが異常だろ。


 前例に遡ると、数百年も前の事だ。


 今ではこんな事あり得ない。 


 子供に何をやらす気だとは思ったけど、でも、別に私達の間に、何かあったことは一度もない。


 子供なのだから、当たり前だ。


 これも嫌がらせだったのかな?


 ユリウスの心を休ませない為の。


 寝室に入る前に、ユリウスの忠実な護衛からボディチェックが念入りにされるから、少なくともユリウスは警戒しなければと思っていたはず。


 警戒心剥き出しだったから、お互い、いつも広いベッドの端と端に寝ていた。


 そんな関係が4年続いた。


 その間、子爵家から、3回、王子を殺せって言われたけど、不可能だから、言う事は聞いていない。


 一応、分かったと返事だけして、何もしなかった。


 これで、嫌がらせと暗殺がしたかったってのが確定した事象だった。


 そんな複雑な関係の中で、私達は一定の距離を保ったまま、過ごした。


 変化があったのは、ユリウスが15歳になった時、国王の名のもとに、北方の戦争の最前線、激戦地に行けと命令が下された時だ。


 寝たきりの王様が、そんな命令を下せるわけがないけど、それを言われたユリウスは、特に表情を変えることもなく、受け入れていた。









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